Chapter 1 学園襲撃編

scene 1 貴族と平民

数百年前……世界は飢饉に陥ってしまい、人類は生存を賭けた、熾烈な争いが始まった。



それは日本も例外ではなく……たちまち力をつけた家柄は、自らを"貴族"と称し、その他を平民と区別させ、まるで"奴隷"のように扱っている。



そしてその中でも、唯一無二の力を手に入れた5つの家柄は、日本をそれぞれ区分して、その地の"統治者"となった。



僕が歩いているこの場所も……昔は"とーきょー"なんて呼ばれていたらしい。



だが今は、特区唯我とっくゆいがなんて呼ばれており、統治者である唯我ゆいが 晴明はるあきの管轄内で生活しているのだ。



「今日から2年生かぁ!」



僕の名前は鬼原きはら 一尊かずたか。天宮学園の奉仕科に在籍している。



奉仕科である以上、僕は平民として位置付けられており、身分的には低いところに座しているが、この学園では、少し違った待遇がなされている。



「おはよう鬼原きはらっ! 今年もよろしくなっ!」


「うんっ! コチラこそっ!」



今しがた通りかかったのは、貴族科の同級生の男子である。



これが、僕でない別の奉仕科の生徒ならば、無視されるか背中を蹴られるかの二択である。



ただ、僕は他の奉仕科の生徒より優秀だからこそ、このように優遇されて扱われているのだ。



「おらっ! 挨拶はどうしたんだよぉ!」



しばらく歩いていると、学園の敷地内から、怒号にも似た叫びが耳に入ってくる。



おそらく……"奉仕科"の生徒によるが行われているのだろう。



「や、やめてくださいっ! あ、挨拶ならしたではないですか!」


「あぁ? なに"貴族科"の生徒に生意気な口を聞いてるんだぁ?」


「っ!!」



予想通り、学園の敷地内では、"奉仕科"の女子生徒による、"貴族科"の男子生徒への従事が行われていた。



話の流れ的に、"貴族科"の奴が適当に難癖をつけて、"奉仕科"の生徒でストレスを発散しているのだろう。



「言葉では足りねぇらしいなぁ?」


「そ、そんなことありませんっ!」


「つべこべ言うんじゃねぇよ?」



男子生徒は、腰に携えたを鞘から取り出すと、その剣先を女生徒に向ける。



「安心しな。学園の規則とやらには従ってあるからよぉ?」



学園の規則……と言うことは、抜き身の刃は落とされているということか。



だとしても、女生徒に防御手段が無ければ、相当な痛手を負うだろうな。



だからと言って防御手段を取れば、学園の規則に引っかかるわけだから、八方塞がりってところだ。



「おらっ! とっととやっちまえ!」


「もったいぶったんじゃねぇよ!」



騒ぎを聞きつけた"貴族科"の生徒が、大声で煽りを上げる。



「まあ待てよ。制服を着たままじゃつまんねぇだろ?」


「そ、それって……」


「お前らっ! コイツの制服を脱がしてやれ!」



その言葉を耳にした"貴族科"の生徒は、男女問わず一斉に、"奉仕科"の生徒に襲いかかる。



"奉仕科"の生徒は僅かに抵抗してみせるが、それも虚しく終わり、ものの数秒で全てが露わになり、羽交い締めにされてしまう。



「さぁて……どこから始めようか?」


「ひ、ひっぐ……や、辞めてください……」


「おいおい! 泣いちまってんのかぁ!?」


「そうだよねぇ! 怖いよねぇ!」


「でもね、平民に産まれた以上は


「そうそう。平民は貴族様には逆らえねぇ……これがこのなんだよ」



……そうだ。……平民に産まれてしまった以上、貴族の機嫌を損ねてしまえば、この先の生活は保証されない。



だってそれが……このなんだから。



「ひ、ひっぐ……お、お母さん……お、お父さん……」


「長話しも疲れたし、そろそろ始めようかぁ」



ゆらりと剣を天高く振りかぶると、それは少女に襲いかかった。



「いだいっ! いだいよっ!」


「おらおらっ! まだこんなんじゃねぇぞ!」



止まることを知らず、剣は無惨にも、女子生徒の体を傷だらけにしていく。



ギャラリーはさらに増えていき、"貴族科"の生徒たちは、その光景に歓喜を上げ、"奉仕科"の生徒たちは恐怖を上げている。



……何発打ち込んだのだろうか、女子生徒の叫びは聞こえなくなり、ただただ遊ばれるだけのへと変わる。



「これで終いだっ!」



最後に……大きく振りかぶった剣が、力任せに女子生徒へ襲いかかろうと———



「待ちなさいっ!」



ほんの一瞬……打ち込まれるといったところで、外野から待ったの声がかかる。



「ああ? 誰だ邪魔する奴は?」



声の主を探そうと、"貴族科"の男子生徒は辺りを見渡す。



「……ああ。お前が邪魔したのか……小柴こしば?」


「当たり前よ。いくらなんでもやりすぎだわ……江郷えごう



お互いに向き合いながら、静かな怒りのぶつかり合いが起こる。 



「平民上がりのテメェに、指図を受ける筋合いはねぇな?」


「だとしても、今は同じ貴族ってこと忘れてないかしら?」


「なら、これも立派な従事だって分かんだろ?」


「分からないわね」


「……ああそうか。お前はここまで従事する側だったもんな?」



その言葉を耳にした小柴と呼ばれる少女は、背負っている弓を取り出し、貴族科の生徒に向けて構える。



「俺とやろうってか?」


「剣と弓の相性なんて分かってるわよね? それでも来るのなら、容赦はしないけど」



相性……相当な実力者であるならば、剣の方に軍配が上がるだろうが、基本的には弓の方が相性はいい。



「……ちっ、白けたな」


「あら? 逃げるのかしら?」


「勘違いすんなよ? 見逃してやったんだ」


「私にはそう聞こえないけどね」


「テメェ……覚えておけよ?」



そう言いながら、"貴族科"の男子生徒がこの場を離れる。



小柴はそれを見送ると、すぐさま倒れているへと駆け寄る。



僕も事態が収束したのを確認して、俯きながら、歩みを進める。



「流石だな……」



僕は誰にも聞こえないように、に向けて、称賛の言葉を吐くのだった。

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