第6話

私、今は人気のない真っ暗な倉庫の中にいます。

なぜかというと、今日は仕事が早く終わって、いつもよりも早く帰れるかなー、なんてことを考えていると、「ちょっとこれを倉庫にもっていっといてくれる?」というお願いをされたから。

倉庫はガレージのような見た目をしていて、縦に棚が並んでその中にはたくさんの段ボールが収納されている。


薄暗いし、埃っぽくてなんだかここにいるのが嫌で、早く外へ出て鍵を閉めて帰ろうと思ったその時。

誰かの声が聞こえてきた。


「……どうしたん?こんなところに呼び出して…話ってなんなん?」


………部長やぁぁん………。


あ、絶対告白やね。うん。逆にそれ以外になんかある?

扉をほんの少しだけ開けて外を覗くと、部長と髪が長い女性社員らしき人が歩いてきた。

髪も瞳も綺麗な栗色をしていて、髪はツヤツヤのサラサラ、瞳は大きくくりっとしている。

いわゆる、“可愛い系女子”だ。

守ってあげたくなるくらいに可愛くて、か弱い。そんな感じの雰囲気がその人からは醸し出されていた。


「すいません、こんなところに呼び出して……どうしても二人で話がしたかったんです」

「そうなん?ここ結構寒いから、手短に話してはよ中に入らんと風邪引いてまうで?」

「おやさしいんですね、やっぱり」

「いや誰だって心配するやろ」


小さく微笑みを浮かべる彼女。

その姿が小動物のようで、あの人もモテるんだろうなー、とかずれたことを考える。

え、てかこれわたし、覗き見じゃね?というか盗み聞きじゃね???

バレたら怒られるんかな……よし、バレないようにのぞこう。

え、覗かなきゃいいじゃないかって?

……だって気になるじゃん?好奇心には勝てないじゃん!!!??


「ぇと、その……ずっと前から、月宮先輩のことが好きでした!!私とっ、付き合ってくれませんか!」

そう言って頭を下げる女性。

でも、部長は結構わかりやすく顔を曇らせている。

その顔だけで、結果が分かりきってしまった。


「……ごめんな」


そう、言い放った。


女の人が涙ぐむのが、少し遠くてもわかる。きっと、それだけ部長のことが大好きだったんだろう。


「俺のことを好きなって、こうやって教えてくれたんはめちゃくちゃ嬉しい。でも、あいにく恋とかようわからんくて……やから、すまんな」


そう、眉をハの字に曲がるんじゃないかと言うくらい申し訳なさそうな顔をする部長。

本気で、申し訳ないんだ。同じ気持ちを返せないことを、悲しませることを、すごく申し訳なく思ってるんだと思う。


私は、部長のことを少し誤解していた。


部長は今まで、何回も告白され、その度に断ってきたんだろう。だから断り慣れてて、告白されても、すぐに終わらせるかと思った。

でも、今は。

目の前にいる部長は、本気で自分を好きになってくれた人をいたわって、感謝しているように見えた。


「……いえ、聞いてくれただけでいいんです。ありがとうございました」

「……そか。早よ入らんと風邪ひくから、もう会社に入っとったほうがええよ」

「ありがとうございます」


だんだんと、その小さな背中が去っていく。

でも、突然彼女は振り向いてこう言った。


「……本当に、恋をしたことがないんですか?」

「……?おん」

「……そうですか。恋をしたことがないんなら、私まだ諦めないので。彼女さんがいたなら諦めたかもしれませんが、やっぱり、諦めきれません」

「……………」

「だから、これからもよろしくお願いします」


そうお辞儀して、今度こそ去って行った。

……なるほど、諦めないって言う選択肢もあったか。まぁ確かに、彼女がいないならまだチャンスはあるし、その選択は最適解だと私は思う。

というか生の告白って初めて見た。こちとら彼氏いない歴🟰年齢だからな。


そう遠い目をしていると、なんと部長がこっちは歩いてきた。

「ぇ、ぇ………!?」

と、とりあえずどこかに隠れなきゃ……と思ったが、時既に遅し。

部長は、倉庫の扉を思いっきり開けた。


「……盗み聞きはあかんで?」

「………はい」

嘘でしょ、全部バレてたのか。

いつから?え、なんで気づかれたんだろ。

「最初から気づいとったで?ただ、言ったら気まずくなるやろうなー、って思っただけや」

「すごいですね………」


「てか、やっぱりめちゃくちゃモテてるじゃないですか」

「いやいや、そんなことないとは思うねんけどなぁ」

「告白されてたじゃないですか」

「本心じゃないと思うで?罰ゲームとか」

「そんな何回も罰ゲームの人が来るんだったらこの世界にリア充なんて存在しませんよ」

「迷言すぎるやろ」


いやだって、そうじゃん!!

そんな何十回も罰ゲームの人が来るわけないじゃん!?!?!?!?


「どうすればええんかなぁ……俺、困っとるんやけどな」

「どうすればと言われても……」

「告白してきたと言っても、俺の顔だけが好きなやつも結構おるし。しかも、仕事の邪魔をしてまで俺にアタックしてくるような人もおるし」

「大変なんですね……」

「あ、せや!ええことおもいついたわ!」


そういって、急に顔を綻ばせる部長。

部長って可愛い顔もできるの?最強ですやんキレそう。


「内藤が俺の彼女役になればええんやない?」


ない……ない……い…。


「…………は?????」

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