片想い
第25話
『―――ん?』
――あの後ろ姿は、郁美か?
俺と郁美が付き合い始めて2ヶ月たった、とある日の大学構内。
二限目が始まる前に、郁美と昼飯を一緒に食う約束をメールで交わしていたので
終わった今、第一校舎から外に出た俺は、待ち合わせ場所である図書館へと真っ直ぐに歩みを進める。
もう少しで着くという時、その図書館の前で立ち話をしている男女が見えて。
こちらに背を向けている女性が、郁美に似ていたのだった。
一瞬違うかと思ったけれど、女性によって隠れていた男性の顔が不意に現れ、それが誰なのかを知った瞬間、進めていた歩みを意識的に速めた。
―――――ギュッ。
『何してるんですか。こんな所で。』
「――わっ!?」
『よっ、斗馬。』
辿り着いた先。悟先輩と楽しそうに話していた郁美を、引き離すように自分の胸元に後ろから抱き寄せた。
何が“よっ”だ。
今、目の前でニヤニヤ顔を晒しているこの人に以前、郁美との事でカマを掛けられて以来、俺はこの人が苦手だ。
そもそも“卒業生”がなんでこんな時間に構内にいるんだ。
そんな俺の疑問が読み取れたのか、『そんな威嚇すんなって。』と、先輩は爽やかに笑みを零す。
『今日は佐山教授に呼ばれて来たの。郁美ちゃんに会ったのはマジで偶然なんだって。』
ね?と、同意を求められ、それに「あ、はい!」と答える郁美。
「ほ、本当なんです。悟先輩に会ったのはついさっきでして、」
『ふーん…。』
「そ、それで、あの、」
『なに。』
「そ、そろそろ、離して頂ければ、と…、」
しどろもどろにそう訴える郁美は顔と耳が真っ赤で。
本人も自覚しているからか、訴えながらも、大人しく俺の腕の中で、両手で顔を隠している。
……んな可愛い事されると逆に離したくなくなるじゃねぇか。
『じゃ、俺はお邪魔みたいだから、そろそろ退散するねー。』
悟先輩のそんな言葉が聞こえ、そういやまだコイツがいたんだったと、心の中で舌打ちをする。
『じゃあね郁美ちゃん。また今度サークルの時に。』
「あ、はい!また!」
斗馬に飽きたら俺の所に来てね♪と、最後に余計な一言を残して、悟先輩は第二校舎の方へと去っていった。
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