第24話

――――――

―――




「――千冬さん?」



少し離れた所から聞こえた香夜の声に、2ヶ月前の事を思い出していた俺は、ハッと我に返った。




右上に顔を向けると、湯気が立っているマグカップを二つ持ちながら、香夜がきょとんとソファーに座っている俺を見下ろしている。



傍にコーヒーの匂いを感じながら、トリップしてたのか。と、他人事のように思った。




「どうしたんですか?ボーっとしてましたけど…。」


『いや、ちょっと2ヶ月前の事思い出してた。』


「2ヶ月前って、もしかしてあの日ですか?」


『そうそう。俺が、残業の後一人で誕生日を過ごそうとしていた誰かさんに熱烈な愛の告白をした日。』




意地悪に笑って言ってやると、案の定香夜は「すいませんでしたね…。」と、少し不貞腐れて呟いた。



その姿が可愛くてクスクス笑って、『ありがと。』と、隣に座った香夜からカップを受け取る。




「いつまでネチネチ言う気ですか。」


『だって、あん時の香夜が可愛かったから、つい。』


「悪趣味です。」



そう言ってコーヒーをすする香夜にまた笑って、ふと部屋を見渡した。



あの日以来彼女も花言葉に興味を持ったらしく、最初に渡したチューリップが枯れてしまってからは、花言葉も調べつつ、部屋に花を途切れなくさせていると言う。



今、植木鉢に植えてあるやつは、初めて見るやつだな。




『香夜、あれは何て花?』



植木鉢を人差し指で指すと、彼女は最初に俺を見て、次に植木鉢に視線を移す。



「え?あ、あぁ、あれですか?あれはベゴニアって言うんです。」




花言葉は、〈幸福な日々〉なんです。と、嬉しそうに話す彼女。


今を幸せに感じてくれているのかと、こっちまで嬉しい気持ちになる。




彼女の肩を抱き寄せ、髪にキスを落とし、『なぁ香夜、』と呼び掛ける。



「何ですか?」


『いつかさ、今の会社で“もういいやー”って位にまで働いて、完璧なまでに引き継ぎをして、それで辞めたらさ、』






二人で花屋でも開かない?





そう提案する俺の顔を、香夜は一瞬ぽかんと見上げる。





でもすぐに




「……いいですね、それ」




その未来が楽しみだと言わんばかりの笑顔を



見せてくれた。






◇手島香夜×安藤千冬◇

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