第10話

泣きながら困ったように笑うあたしを見て彼は目を大きくした。

拭っても拭っても止めどなく溢れる涙。

両手で優しく頬をなでた彼はゆっくりと唇を重ねた。

啄むように何度も何度も角度を変えて降り注いだ。


いつの間にかあたしの上に覆いかぶさるようにして彼はキスしていた。

何度かチュ、チュ、と上唇を啄まれ思わず口を開くと彼の熱い舌が入り込んでくる。

薄暗い室内に響くリップ音と切ない吐息と鼻にかかる甘い声。


軋むスプリングの音がいつまでも部屋に響いていた。



“愛してる、愛してるよ、茅子”


どうして泣きそうな声で言うの?


“ずっと、愛してるから”


そんな……あたしのこと置いていくみたいな言い方……しないで。


“忘れないで”





ーーーー貴方は、誰?

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