第二十三話「New Enemy」

明け方。タクシーの中で、スザンは部下宛に一通のメールを送る。


(今からバートリー公道のカフェで会えないか?)


朝早いというのに、数分も経たずして返事が返ってきた。


(了解しました)




「どうしたんですか スザンさん そんな改まって…」


彼はスザンと向き合って椅子に腰掛けた。


「副首領である君にだけは直接伝えなくちゃって思ってね」


「…スザンさんが自ら出向く事なんて本当に珍しいです …何があったんですか 教えてください」


彼は真剣な眼差しでスザンを見つめる。


「レオ、心して聞いてくれ」


彼、レオ・エドワーズはゴクリと唾を飲んだ。


レオは上位讃會の中では至って普通な青年だ。少し薄めの茶髪にくせっ毛。いつもは黄土色のコートを羽織っているが、スザンと会う時だけはそれを着てこない。


「…僕は 今日限りで"上位讃會のトップ"を降りる いや、上位讃會も解散させる」


「…え?」


レオは状況が上手く飲み込めない。


「な、何を言ってるんですか! スザンさん!」


「さん付けはよしてくれ 僕はもうただの一般人 君と僕に上下関係なんて存在しないよ」


「何があったんです!?」


「──ある男に出会ってね 目が覚めたんだ」


「…」


レオは、プルプルと震えた。


「そいつの特徴は…?」


「…どうして?」


「教えてください!」


「う〜ん …僕と似た髪型をしていて、髪色は赤黒…正確に言うなら "ガーネット"のような色をしていたよ …で、何でそんなこと聞くの?」


「いえ… 特に理由は… ただ、気になっただけです」


「そう… じゃあ 僕はもう行くから 皆に宜しく伝えといて」


そう言い残し、スザンはカフェを後にした。


レオのガッシリと握られた拳は、暫くの間解けることはなかった。




レオは直ぐに電話が繋がる者、電波が届く所に居る者全てを空き倉庫に招集した。


「どうしたんだよレオ…! こんな朝っぱらから呼び出しやがって」


「もう朝の10時だろ」


「早く要件を言えぃ!」


寝起きの悪い者達が、苛ついている。


「…今日 スザンさんにお会いした スザンさんが…上位讃會をお辞めになられるそうだ…っ!」


『…は?』


「嘘だろ!? まだ"目的"を済ませてねぇのにか!?」


「何て自分勝手な人なのかしら… まぁでも、そこが素敵なんだけど♡」


「テメェは気色悪ぃから喋んな!オカマ野郎!」


「あら? 私とやる気?♡」


「……ちょっと私 トイレ行ってくる」


ミーシャは、そう言い残し、どこかへ走り去って行った。


「…追うか?」


「いや、良い。今は一人にしといてあげよう」


「スザンが居ない今、あの女を犯し放題だ… 」


アドルフが下品な話題を出した。


「てめぇ! 横取りすんじゃねぇ! 前から俺が目ぇ付けてたんだ!」


他の男数人が、ジュルリと舌なめずりをした。


「おい貴様… スザン"さん"だろ? 殺されてぇのか?」


「あ゙? やんのかよ こっちには銃があるんだぜ? 生身のテメェに勝ち目なんざねぇぜ!」


アドルフが喋り終える前に、彼は既に地面に倒れていた。


レオが側転技、"アウー"を彼の顎に打ち込んだからである。


強烈な一撃を打ち込まれたアドルフは、脳震盪を起こし、その場で気絶した。


「──近距離ならば 格闘技は負けない」


足でくるりと一回転して、レオはそう言い放った。


倉庫内に、一気に緊張が走る。


「…話はまだ終わってない 茶々を入れてくるな …スザンさんが仰るには、スザンさんはある奴に言いくるめられたらしい」


「何だって!?」


「…どういう事だよッ!」


「そいつの特徴は」


『僕と似た髪型をしていて髪色赤黒…色名で表すなら"ガーネット"のような色をしていたよ』


「と仰っていた」


「じゃあソイツの仮名は『ガーネット』にしようぜぇ!」


たかしの発言に、その場に居た多くの者達が賛同した。


「スザンさんが解散させた上位讃會を、俺が再び復興させる…! 今ここで、新生"上位四讃會"を結成させる! この俺が新たな首領だ!!! …文句は無いな?」


「ありまくりだわ!」


各部隊があるのにも関わらず、無所属を選択し、その中でもナンバーテン入りすらしてない雑魚が、横槍を入れてきた。


「てかさぁ! 大体何で武術部隊ナンバーツーのテメェが新首領になんだよ! 普通ナンバーワンのアリシアがなるべきだろうがよぉ!!」


「…アリシアさんは、面倒事が嫌だと仰っていた だから副首領も俺が務めたんだ やらされたって方が正しいか …今日だって彼女にだけ集会を断られた」


「…だが、俺は納得いかねぇ!」


「…副首領である俺が首領を引き継ぐのは 自然の成り行きだろ?」


「…くッ! だって!! それなら能術部隊の奴に任せた方がいいだろうがよ! 実力的にも!」


「あ、俺パース」


「私もー」


「当然俺も」


首領の座は、次々と断られていった。


「適材適所だ 俺に任せておけ」


レオは自信満々に言葉を吐き捨てた。


「ぐぬぬ…!」


「新たな首領つっても 正確には首領代行だ 必ずスザンさんを連れ戻す」


肩書きを首領にすれば、スザンさん派の奴らと揉める事になるだろう。だから敢えての首領代行。そうすれば納得するだろう。それに…スザンさんはアイツに一矢報いる為には必要不可欠な人だ。


「なぁ サイモン 今日って何月何日だっけ?」


レオはサイモンに話しかけた。


「え〜と… 確か…"10月28日"だったと思うぜ」


「なら 期限は二ヶ月後… 再びここに集まるぞ 今いる奴ら全員だ…! 殺し次第俺に一報を入れろ」


「ガーネットを… 殺すのか? 大した情報も無いのに?」


「要は赤に近い髪色をしている奴らを片っ端から皆殺しにすりゃ良いんだろ? 興奮するぜぇ!」


「折角ならよォ… ゲーム形式にしようぜ…!」


坊主頭の大男、ヴァリス・ホワイトがそんな事を言い出した。


『ゲーム?』


そこに居た三分の二程度が声を揃えて聞き返す。


「ゲーム!? どんなゲームぅ? ねぇ! 教えてよ!」


アメリア・ライトはヴァリスを質問責めにした。


「あ〜うっせッ お前はゲームの事にあるとすぐはしゃぐよな…」


「ゲーム… そんな呑気に考えている場合か?」


「まぁ聞けよ …俺が考えたのは"首取りゲーム"だ ガーネットを殺すまで上位讃會全員誰とも一切のやり取りを禁止にして… 一人一人個人でガーネットを殺る 殺し方は問わねぇが…必ず生首を狩ってこなきゃならない そしてそれを再び俺らが集まる日、いつになるかは分からんが 生首をここに持ってくる …だが様態は問わん 腐ってようが溶けてようが構わねぇ …面白そうじゃねぇか?」


「つまり個人でガーネットを仕留めるって訳か… あのスザンさんを言いくるめた奴を?」


「スザンさんの事だ 口だけの奴何か殺しちまうだろう …そのスザンさんに勝ったかもしんねぇ奴だぜ?」


「最悪の事態になりゃ …全員で殺しに行きゃいいんだ な? やろうぜ」


「どうするレオ?」


「…良いんじゃないか? 首を持ってきた奴には報酬をくれてやるよ」


「まじか!? ひゃっほう!」


「そいつが望むモンをやるよ 例えば…首領の権利もくれてやる」


『うぉぉぉぉぉぉぉッ!!!』


倉庫内に歓声が鳴り響いた。


「楽しみ楽しみ!」


「…おいレオ 首領って言うなら命令ぐらい出しなよ」


レオはそうだなと小さく息を吐いた。


「───赤髪を…殺してこい ソイツが子供だろうと老人だろうと 見境なく…」




「はぁ… はぁ… スザンさん!何処なの!?」


ミーシャは、脳内世界とは別に、街中を駆け巡っていた。


軽く説明をすると、例えば、分かれ道があるとする。現実世界で右の道へ行き、脳内世界で左の道へ行く。その方が早いし効率がいい。それを実行しているのだ。


───スザンさん…スザンさんスザンさん!スザンさん!!!


探し回ること二時間後。


「…見つけた…見つけた!!! 瞬間移動テレポーテーション!」


ミーシャは脳内世界でスザンの居場所を見つけ、ピンを置いた。


「…え、ミーシャ!? どうしてここに…」


スザンは、海岸の上に立っていた。


ミーシャは無言でスザンに抱きついた。存在を確認するように力強く抱き締めた。


「え…ど、どうしたの?」


「どうしたのじゃありません! 何で勝手に居なくなるんですか! …私たちに何も言わずに!」


「あ、ごめん…」


「酷いですよぉ…」


ミーシャは大声で泣き始めた。


「ぐす… 何で何も言わずに居なくなっちゃったんですかぁ…」


少し時間が経ち、ミーシャら涙目でスザンに問いかける。


「…上位讃會の奴らさ どうせ僕が辞めるって言ったら刺し違えてでも止めようとして来るだろうから… だから無言で去ろうと思ったんだ」


「なら…! それなら私を傍に置いてください…!」


「え…」


「私の能力なら上位讃會の人達からも逃げられますよ!」


───確かに合理的だ。でも…


「でもいいの? 君だってダイヤモンドに恨みがあるんでしょ? 目の前で父親を殺された 無念が…」


「良いんです! スザンさんが傍に居てくれさえすればっ!」


スザンは少し、ときめいてしまった。今までモテた為しが無かったからだ。


「…敬語なんか使わないで さん付けも辞めて」


「…それは無理です!」


「じゃないと… 僕は今すぐここから飛び下りる」


スザンは崖下の海に目をやった。


「…え…」


「僕は対等な立場で話せる相手が欲しいんだ 君がそれになってくれよ」


「!」


ミーシャは驚いた。スザンがそんな事を思っていたとは、到底分かりえなかったからである。


「わ、わかり………よ」


「…じゃあ 今から二人で僕の故郷に帰ろう そこで二人だけで暮らそう」


「…はい!」


余裕そうな素振りをしているスザンの顔は、真っ赤に染っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

成り行きで異世界転生 乙坂創一 @otosaka_souichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ