第87話 これで夫婦なのか?

「……ッ!こ、これが婚姻届。……凄く薄いな」


目の前に出された一枚の紙。ただの紙の筈であるが存在感が凄い。この一枚で人生が変わるのだと思うと、感慨深かった。鈴音とのキスで熱くなりすぎた頭に冷水を掛けられたような気分であった。一気に意識が将来の自分達の姿へと思考する。


(だ、ダメだ……。何故か穂乃果や美沙が邪魔ばかりする未来が見える……)


意外にも穂乃果よりも美沙の方が隼人の依存度が高かった。今回の鈴音との旅行も隼人と一緒に付いて行くと前日まで騒ぐほどであった。彼女がもっと社会人になって仕事に就いて安定した給料を貰い始めたら……考えるだけでも恐ろしかった。


「早く書きなさい」


「も、もちろん書くよ。……でも俺たちって未成年だよね?親の許可とか」


鈴音は苛立ったのか催促され、彼女は隼人をキッと睨みつける。いつまでもジッと婚約届を見ていた隼人も悪かった。そして婚姻届に必要事項を記入しながら彼は抱いていた疑問を彼女へ訊ねる。


「あら、貴方のお爺様には先週挨拶して私との結婚の許可は頂いているわよ?」


「え、お、俺の爺ちゃんと会ったのか?」


「えぇもちろんよ。結婚するのだから貴方の保護者に挨拶するのは当然でしょう?」


住所はどうやって調べたのだろう等の疑問は色々と浮かぶが、鈴音なら可能なのだろうと自身を納得させる。


「な、何て言ってた?」


「そうね……クスッ内緒よ♪それとお爺様から手紙を預かっているわよ」


鈴音は隼人の実家で、とても賑やかに歓迎された出来事を思い出していた。そして彼の祖父から預かっていた手紙を手渡す。


「じ、爺ちゃんは何て……」


一年近く帰省出来てないし、最近は連絡すら出来ていなかった。親不孝者だなと不安になりながら鈴音から手渡された手紙を開封する。


『はよ子供作れ』


彼の祖父らしい特徴的な癖字で一言書かれていた。


(ひ孫でも見たいのかな……)


「……そ、その子供作れって//」


「ふふっ、貴方のお爺様が書きそうな内容ね。それと子供は未だ作らないわよ」


「そ、それは勿論。俺も雨宮さんを支えられるような男になってから…そ、その子作りしたいし//」


珍しく隼人は羞恥心から顔を真っ赤に染めて鈴音の顔すら見ることが出来ずに逸らしてしまう。鈴音はそんな隼人の姿が面白いのか、くすくすと笑って見つめていた。


(穂乃果は会う度にこんな恥ずかしいことをずっと言っているのか……)


「そうね……私としてもなるべく早く子供欲しいから頑張るのよ?」


「は、はい!……あっ、そういえば雨宮さんの両親は俺を認めてくれているのか?」


「えぇ二つ返事で結婚を認めてくれたわよ」


「そ、そっか!」


隼人はホッとしたように胸を撫でおろす。彼女の両親から嫌われていないとは感じていたが、そこまで認められているとは内心嬉しくなる。そして今まで以上に期待に応えたいと感じてしまう。


隼人は婚姻届を鈴音へと手渡すと彼女は、内容を確認してから傷つかないようにファイルに入れる。


「それでは夫婦になったのだから一緒に温泉入るわよ」


「了解。……でも水着は着てくれよ」


「クスッ、分かったわ。それでも……」


鈴音は隼人に顔を近づける。彼女から迫られるのは初めてで、思わず目を瞑ってしまう。しかし、待っても唇にあの柔らかな感触が来ない。しかし耳に彼女の甘い吐息と綺麗な声が聞こえる。


「それでも、貴方がシたいならいつでも襲っていいわよ……狼さん」


【あとがき】

元々書くの止めようかと思っていた小説ですが何とかここまで書けました。もう少し続く予定ではあります……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る