恐怖の根源は「神の力」ではなく、「人間の願い」そのもの

神の力が怖いのではなく、人間の「願い」の重さ、暴力性、そして無自覚な残酷さこそが、この物語の本質的な恐怖です。語り手である神が人間的な感情を持ちながらも、それを押し殺して願いを叶え続ける姿に、静かな狂気と哀しみが滲んでいました。

願いを叶えられた者たちが笑顔で感謝を口にするたびに、「その笑顔の裏で何が起こったのか」を知っている神だけが、取り残されていく。祈る者ではなく、祈られる者の地獄がこんなにも切実に描かれたホラーは稀有です。

「叶うことこそが呪い」という視点は鋭く、誰にでも書ける話ではないと思いました。読むほどに世界が静かに歪む、深く印象に残る作品でした。

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