⑬ヒロインの末路-1-






「フローラ!」


 フェンリルから飛び降りたミストレインは、ギロチンに固定されているフローラの元へと駆け寄る。


「お、おねえ・・・」


 自分を助けようとしているアストライアーに瓜二つの女性を『お姉様』と呼ぼうとしていたフローラであったが、姉は数年前に死んだのだ。


「ど、どこの何方かは存じませんが、助けて下さり・・・あ、ありがとう、ございます・・・」


 息子は死んだのに自分だけが助かったという事実に生きる気力を失ってしまったフローラは、アストライアーに似た女性に礼を告げる。


「私は貴女に感謝される資格なんてないわ。でも、無事でよかった・・・」


 カルロスがサイコパスである事を知っていたら、ロードライト帝国が攻め込んで来た時に貴女を引っ叩いてでもミントグリーン王国を出奔していたわ


「後、貴女の息子は私達が保護しているから」


 この事実はカルロス達に聞かせる訳にはいかないと判断したミストレインがフローラにだけ聞こえるような小声で囁く。


(・・・え?)


「ミストレイン、姉妹の再会を喜ぶのは後にしろ。俺達にはやる事があるはずだ」


「そうだったわね」


(フェンリルが喋った!?いえ、アイドネウスの本来の姿はフェンリルだし天空神だから喋っても不思議ではないわね。厳つい髭のおっさんよりフェンリルの方が遥かにマシってものよ!って、そうではなく!)


 自分を助けた女性は、ミントグリーン王国人でミストレインというらしい。


 ミントグリーン王国では回復効果の高いポーションやアイテムを作る事が出来る錬金術師として有名だった、年齢・性別共に不明の人物がに自分を連れて出奔していたという発言にエピメテスが無事だという事も気になるが、フェンリルはミストレインと自分を姉妹と言っていた──・・・。


(・・・・・・もしかして、この人はアストライアーなの!?でも、お姉様は病で馬鹿になったのだから、このような喋り方なんて出来る筈がないわ!!)


 アストライアーの口調は幼子のようなものであったのに対し、ミストレインの話し方は自分達と同じ普通のものだった。


 色々と聞きたい事はあるのに、一人息子は夫であるカルロスに殺されただの、亡き姉と瓜二つの女性に助けられるだの、極めつけは天空神の降臨という事態が起こっているものだから、フローラの中では情報の整理が出来ないでいる。


「アイドネウス、人の姿になったらどうかしら?」


「・・・そうだな」


 ミストレインの言葉に従ったアイドネウスがフェンリルから人の姿へと変わっていく。


(嘘・・・。アイドネウス神って髭面の厳ついおっさんじゃなかったの!?)


 目の前に現れた銀髪の青年にフローラは・・・いや、フローラだけではない。


 娯楽気分で処刑を楽しもうとしていたカルロスと彼の側近であるギュスターヴ達、皇帝の命令に従いフローラをギロチンに固定した死刑執行人達、彼等の非道を止める事が出来なかった婚約者と侍女達──・・・。


 今回の処刑に立ち合っている者全員が、彫刻家であれば彼をモデルにした像を制作したいと思う、服の上からでも分かる理想的な肉体と端麗な顔立ち、何より彼から感じられる威厳と気品、男の色香に一言も発する事が出来ないでいる。


(流石、歩く18禁な隠しキャラ。やっぱり、カルロスをはじめとする攻略対象者達なんて足元にも及ばないイケメンだわ・・・。改めてみると、アイドネウスってバスケ選手だった頃の稲垣先生にそっくり。若い頃の先生がモデルなのかな?)


(ゲームでのアイドネウス様は長髪だったけど、髪が短いのも素敵だわ♡どっちかっていうと、長髪より今の方がいいかも♡)


 マイアとカサンドラだけはそんな事を考えていたけど。


「アイドネウス様ぁ~♡世界で一番純粋で優しい心を持っている女の子をお妃にする為だけにぃ~、地上に降臨したのですよねぇ~?それってつまりぃ~、ヒロインであるあたしの事ですよねぇ~?」


 山賊襲来のイベントを経て後宮入りを果たしたカサンドラはゲームの知識を駆使して、カルロスをはじめとする攻略対象者共を誘惑しつつ


『あの宝石を買ってくれたらカサンドラが投げキッスをプレゼントしちゃうぞ♡』


 と、飴と鞭を使い分けながらも接触は最小限にしていた。


 その甲斐があったのかどうか分からないがカサンドラは寵姫という立場にありながら、自分が仕えるべきカルロス以外の男達を囲っているので後宮での彼女の権力は絶大だ。


 今では皇太后と肩を並べるまでになったと言ってもいい。


 そんなカサンドラを後宮の女達だけではなく宦官、宰相や将軍といったロードライト帝国に仕える臣下達、そして民達は嫉妬からなのか、【誰にでも足を開く淫婦】【男を誘惑する風俗嬢】と非難していた。


 だが、同時に何人もの上流階級の男を落とした彼女の手練手管にあやかりたいのか、こぞってカサンドラの仕種と口調を真似る事が後宮だけではなく市井の娘達の間で流行していたりする。


 確かにカサンドラは彼等から宝石やドレスを貰っているが、肉体的な交渉など一度もしていない。


 傍から見れば、皇帝に仕える身でありながらカルロスの側近であるギュスターヴ達を誘惑する悪女だろう。


 しかし、カサンドラにしてみれば攻略対象者共は友達以上恋人未満の男友達にして、自分の気が向いた時につまみ食いすればいいだけのハーレム要員。


 いや、カルロス達だけではなく、悪役寵妃であるアストライアー・・・フローラに攻略対象者の婚約者であるエレクトラ達、そして侍女達も自分がアイドネウスの妃になる為の踏み台でしかないのだ。


「あたしは喜んで~、アイドネウス様のぉ~、お妃になりますぅ~♡」


 メンタルが柔く脳内お花畑な攻略対象者共を虜にした仕種と口調でカサンドラがアイドネウスに迫る。


(まさか・・・アイドネウスもカルロス達のように、ヒロインに夢中になるんじゃないでしょうね!?)



『心だけではなく魂までもが純粋な貴女は、女の欲望と嫉妬が渦巻くこのような場所に居るべきではない・・・』



(女神として自分の傍に在るべきだと言い切ったアイドネウスは、ヒロインを嫁にしちゃうのよね~)


 攻略対象者共と逆ハーレムを築いている女のどこを見て、心と魂が純粋だと言い切ったのだろうか?


 許されるのならば問い詰めたいと、前世では【煌々たる愛】のスチルが再現されているシーンを見ているマイアがそう思っている頃──・・・。






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