第38話 襲撃②


 夜。

 俺とアイナとラティカの3人で酒場に行っていた。


 ラティカは朝は調子悪かったらしいが、夕方ごろには回復して美味しそうにお酒を飲んでいたよ。


 今日も酒を楽しんだ後、宿へと帰る途中で俺はそれに気づいた。



「誰かいるな」



 俺が気づくと同時に、アイナとラティカも気づく。


「いますね」


「ああ。6人か」


 

 こちらに殺気を向けてくる6人の気配を感じる。

 これも高ランクの戦闘系スキルのおかげだろう。

 相手の気配に敏感になり、こういったとき察知できるのだ。



 念のため『マップ』を使って確認する。

 そこにも6つの点が描かれていた。

 気配の数と一致する。

 


「どうする主殿。ここは迂回して戦闘を避けるか?」


「いや。そのままいこう。相手が行きずりの強盗なら逃げるが吉だけど、俺達をターゲットとして狙っているなら、ここで逃げてもまた次の機会に仕掛けてくるだけだ。意味がない。立ち向かった方がいい」


「承知した」


「安心してください。ご主人様は私が守ります」


「期待しているよ。あ、でも殺さないように」



 襲撃者を殺し返せば今は身を守ることができる。

 しかしもしそいつが誰かの指示によって殺しに来た場合、それを明らかにしないうちに殺してしまえば、また第二第三の刺客を送りこまれる危険性がある。


 指示した奴がいるならそいつを知る必要がある。



「おいお前。ちょっといいか」



 近づいていくと、襲撃者たちが話しかけてきた。


 数は6人。

 俺たちが感じていた気配と同じ人数。

 伏兵はなしか。


 男達はいかにもチンピラですというような容貌だ。

 6人中5人は全員剣をもって武装しているが、しかし俺の見立てでは大した実力じゃない。


 剣を持っていない1人に関しては、他の5人以下の実力だ。



「ん? お前は……」



 その中に見覚えのある顔があった。


 昼間に会って意味の分からないことを言っていた、あの奴隷商人だ。



「お前昼間の……。ああ、そうか」


 なんとなく、事情は察した。

 こんな夜道で殺気を放つチンピラの中にいるということは、こいつもその仲間なのだろう。




「仲間と一緒に俺たちを襲いに来たってことか」



「ああそうだよ。はは、俺を見て驚いたか?」


 

 奴隷商人は、ニヤニヤと笑って勝ち誇っていた。



「驚いたよ。まさかここまで馬鹿だったなんてな」


「ば、ばか……!? テメエこの俺に向かってなんて口をきいてやがる」


「馬鹿だろう。こんな奴らとつるんで俺を襲いにくるなんてな。一応聞いておくけどさ、誰かに頼まれたわけ? 俺を襲えってさ」


「いいやぁ、ちげえよ。お前を殺しに来たのは俺の意思さ」



 『真贋判定』のスキルを発動させると、その言葉が真実だとわかった。 

 こいつ本当に自分の意思で来たのか。



「お前の意思、か。ここまで恨まれることをしたような覚えはないんだけどな」



 そりゃ昼間には少し小競り合いしたし、嫌味も言ったかもしれないけどさ。

 それは夜間に武器もって待ち伏せして襲われるほどのことか?

 正直あの程度のことで恨んでいると言われても困る。

 


「覚えがない、だと! ふざけるなぁっ!」



 奴隷商人は夜でもわかるくらい顔を真っ赤にして、怒りをあらわにした。



「お前が……! お前のせいで、俺はこんなことになっているんだろうがぁ!」



「俺が何をしたって言うんだよ」



「お前さえいなければ! お前さえ俺のところに現れてアイナを買って行かなければ! 俺は今頃大金持ちだったんだ!」



「……はあ」


 マジで言っている意味が分からないな。

 確実にわかることは、こいつの発言がただの逆恨みだってことだ。



「お前のせいで全部狂ったんだ。お前を殺すために腕利きの殺し屋を雇ったんだ。へへ、どうだぁ」



「どうだと言われても……」



 改めて剣を持つ5人を見る。


 この5人、はっきり言って雑魚だぞ……?


 どいつもこいつも初日に俺をカツアゲに来たゴリアット以下の実力だ。

 なんなら冒険者ギルドの訓練場で戦ったほとんどの冒険者よりも弱い。


 厄介なスキルを持っているかもしれないから、『鑑定』を使って相手のスキルを確認してみる。


『剣士(Dランク)』『逃げ足(Eランク)』『恫喝(Eランク)』『開錠(弱)(Eランク)』『暗視(Eランク)』



 うーん。

 スキルも微妙なものばかりだ。


 かろうじて『剣士』なら剣の戦闘に秀でることができるくらいで、他は戦闘にはほぼ役に立ちそうにない。

 その剣士の持ち主にしたって、明らかに修練が足りず実力が低いことが見て取れる。

  


 腕利きというには、どうにも弱い5人組だった。



「そろいもそろって大したことない奴らだな。これが殺し屋とか名前負けしてるだろ。そこらのチンピラでも雇ったのか?」



「な、なんだと……! おいお前ら、こいつに目に物見せてやれ!」



 奴隷商人が言うと、5人は「はあ?」と顔が歪んだ。



「おいおっさん。別にこいつを殺すのはいいが、テメエごときが命令すんなよ」

「なーんで俺らがおっさんの手下みたいになってんの?」

「あんま調子のんな」



 チンピラ5人が口々に文句を言う。



 あれ? 

 金払って雇ったんじゃないの?

 なんか全然そうは見えないんだけど。

 

 雇い主に対してやけに反抗的だな……金払ったんなら、命令する権利くらいあるんじゃないかと思う。


 金払ってこれなら、まともな奴ら雇えなかったんだろうな。




「ま、それはいいや。お前は金払ってるし、多少のおいたは許してやる。それよりてめえ」



 5人のうち、『剣士』のスキルを持つ1人が俺に剣を向ける。

 この中では比較的マシな部類の腕の奴だ。



「さっきからムカつくこと言いやがって。誰が大したことないだ?」


「そうだな。おっさんよりこいつだろ。マジあり得んわ」

「殺害けってーい」

「元から殺すつもりだったけど」

「俺らが誰か知ってんのか? あ?」



 知っているかと聞かれたので、素直に答える。


「知らん。興味もない。ほんとにただのチンピラって感じだな。奴隷商人さ、お前どうしてこんな奴らを雇ったんだ?」



 と、少し考えて俺はある結論に達した。



「ああそうか。お金がなくてまともな殺し屋を雇えなかったのか」



 こいつ、商売が得意じゃなさそうだもんなあ。

 金がないのも仕方ないか。



「殺せぇっ!」



 ついに抑えの効かなくなった奴隷商人は5人に命令をする。



「俺を馬鹿にしたこと! 俺に損をさせたこと! 俺からアイナを奪ったこと! 全部後悔させてやる!」



「ああそうかい」



 奪ったとか損をさせたとかいう言葉に反論したいが、こいつはもうまともに相手するだけ無駄だ。

 錯乱している。



「お前調子のりすぎ」

「ぶっ殺す」

「おい女は殺すなよ。犯すんだから」

「あーそうか。なら女を目の前で犯してからこの男殺してやる」

「もすこしおりこうさんだったら、まともな死に方できたのにねー」



 そう言いながら俺たちを殺すべく近づいてきた5人は――バタバタと倒れていった。



「え?」



 奴隷商人の間抜けな声が漏れる。



「いやいや。なに呆けた顔してんの。襲われるとわかってて何も対策しないわけないだろ」



 既に俺達3人の周囲に、結界を張っている。

 俺達以外の誰かが入れば、すぐに気絶するという効果を付与した結界だ。



「さあ、次はお前だな」



 残った1人――奴隷商人にむかって話しかけた。



 さて、どう落とし前つけてくれようか?

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