第16話 買い物


 アイナと事に及んだ翌日の朝。


 朝までやった後はひと眠りをして、そして目が覚めた時にはもう日が一番高いとこまで昇っていた。


「ご主人様。申し訳ございません。ご主人様を起こすこともせず、のうのうと寝てしまい……」


「いやいやいいんだよ。むしろ昨日やりすぎちゃってごめんね。いやじゃなかった?」


「謝らないで下さい、ご主人様。私は決して嫌ではありませんでした。むしろ、その、幸せでした……」


 うつむきながらも頬を染めつつ、アイナは呟いた。



 後先考えずに盛りまくってしまった。

 そのせいで今日の予定はパーだ。

 反省しなければいけない。


 今後、翌日に依頼を予定している時はお互いの体力と時間を考えてすることにしよう。



「今日は冒険に行くのは中止しよう」


 アイナの体力のことも考え、本日は休息日にする。


 

 あと今気づいたのだが、アイナ用の装備もなかった。


 剣は複数あるから貸せばいいが、防具は予備を持っていない。

 

 だから今日はアイナのために装備を整える日にする。

 あとは冒険に出たときのために色々買っておこう。


 俺たちは宿で昼食を取った後、市場へと向かう。


 王都には人が多い。

 その中には冒険者も含まれている。


 冒険者のために街のあちこちに装備を売っている店がある。


 頼めば自分用の装備を作ってくれるところもあるが、それにはそこそこ時間がかかるから今回は既存のものを買う。


「彼女にあう装備を見繕ってくれ」


 この言い方、まるでショップで恋人の服を買いに来たカップルみたいだな。

 実際は武器屋で奴隷のための装備を買いに来た冒険者なんだが。


 俺たちが足を踏み入れた武器屋には割と良い装備がそろっており、それなりの値が張ったが上質な防具を手に入れることができた。



「私のためにお金を出させてしまい申し訳ございません」


「そんな顔するなよ。ま、これくらい大した額じゃないさ」



 実際のところは一月は優に暮らせるほどの額ではあるが、大したことないという言葉は嘘ではない。

 厳然たる事実である。


 俺は異世界に来てからというもの、ギルドの依頼を何件もこなすことでかなり稼いでいる。

 人一人分の装備くらいわけないさ。



「それにこれは先行投資みたいなものだ。今日買った装備を使って、アイナが活躍してくれればそれでいい」


「かしこまりました。誠心誠意頑張って、ご主人様のために魔物を倒します」


「そのいきだ。あ、もちろん、これはお前の命を守るために買ったものだからな。変に張り切って無茶はするなよ?」


「わかっています。この身は既にご主人様の物。私の一存で粗末にあつかうことはしません」


 キリリとした顔でアイナは言う。


「うん?」


 なんか、言いたかったことと少しニュアンスが違っているような気がするが。

 ま、自分の身を大切にしてくれるのならそれでいい。

 


 アイナの防具はこのまま着ていくわけにもいかないから、アイテムボックスの中に入れる。


 便利だな。

 アイテムボックス。


「それじゃ、冒険に必要なものを買っていこう」


「はい!」


 武器屋を出て、俺達は市場で必要な物資を買いそろえていく。


 食料品や飲み物を買い、アイテムボックスの中に入れる。


 食料は保存食ではなく、屋台で売られている普通の食料を買っていく。


 アイテムボックスの中では時間が止まっており、中に入れても腐ることはないから普通の料理を買えばそれでいいのだ。



 なんなら、腐るどころか冷めることすらない。


 入れたての熱い飲み物が、一日経ってもアツアツのまま出てくるのだ。


 寒い夜、森の中で野宿をする時に、温かい飲み物なんてあれば最高だろう。


 まあ実際にそれをしたことはまだないんだが。

 ほら、ギルドに登録したばかりのペーペーの冒険者が、そんな何日もかかるような依頼なんて受けるわけないじゃん?


 それに俺は『マップ』のおかげで魔物をすぐ見つけることができ、そこから威力の高い魔法で瞬殺っていう戦法を使っているから、時間なんてかからないし。

 夜どころか、夕方までかかった依頼だってない。



「ポーションや救護用具も買っておくか」


「ご主人様は治癒魔法が使えるのではないのですか? こういったものは不要と思われますが」


「俺じゃなくてアイナが持つものだよ。アイナが怪我をした時は俺ができるだけ治癒魔法を治すけど、もし仮に俺が近くにいない時に怪我をしたら治す方法がないからね。その時のためにこういうのは必要だ」


 これはいざという時のための備えだ。

 使う時がこなければいいのだが。


「わ、わたしのために買っていただけるなんて……!」


 アイナがうるうると涙ぐんでいる。


「ありがとうございます。私は幸せものです。愛してます、ご主人様」


「俺も愛してるよ」


 俺がアイナのために何かをすると、そのたびに感動するし、愛してると言ってくれる。

 

 気恥ずかしいが、しかし悪い気分じゃない。

 というか嬉しい。


 だから俺も、アイナに愛していると返す。

 そのたびにアイナは顔を真っ赤にして、両手を頬にあてて、「えへへ……」と照れ始めるのだから可愛い。



「けっ」

「バカップルがよ」

「爆破魔法撃ちてー。使えないけど」


 

 そして天下の往来でそんなことをしているのだから、とうぜん目立つし鬱陶しがられる。

 

 うんうん、わかるよ。

 俺も日本にいたころ外でいちゃつくカップルがいたらムカついてた。


 俺もムカつかれる側になってしまったかー。


 こっち側になってわかったことだが……。

 男どもの嫉妬の目線は悪い気分ではない。

 羨ましがられる方の優越感というのは気持ちいものだ。 


 とはいえ人様の迷惑になるのも嫌なので、ほどほどにしようとこころがける。


 買い物を続け、他に必要なものを一通り買いそろえる。

 


「予定していたものは全部買ったな。じゃあ後は服も買っておくか。アイナに似合う服をたくさん買おう」


 奴隷商からもらった服をいつまでも着るのは嫌だろう。

 

 この服も粗末なものではないんだけどな。


 奴隷といえばボロボロの服を着せられている印象がある。

 だが奴隷商が売る奴隷の見た目をよくするために、まともな服を着せることはよくある。

 アイナを買ったあの奴隷商もまともな服は用意していた。



 それなりにいい服屋に行き、アイナに似合う可愛い服を見繕う。


 アイナは胸が大きいから、普通の服を着ればパッツパツになってしまっていた。 

 俺的にはそれはそれで目の保養になるから悪くはないのだが、さすがにあの姿で外は歩きにくいから今は見送る。


 それでも似合う服はあったので、今日はそれを買った。

 


「私、こんなに可愛い服を着たのなんて初めてです。嬉しいです! ありがとうございますご主人様! 愛してます!」


「俺も愛してるよ」


 アイナは可愛いなぁ。

 なでなで。


「ほあ……」


 俺が頭をなでると、アイナは蕩けた顔になっていた。



「私、幸せです……」

 


 うっとりしながらそう呟くアイナを見て、俺は彼女を買ってよかったと心から思った。

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