第7話 初めての魔法
そして、今日も俺は冒険者ギルドにやって来た。
「あ、レースケさん!」
昨日担当してくれた受付嬢のミリアさんが、「こっちです」と笑顔で手を振ってくる。
可愛い。
呼ばれたからには向かわないわけにはいかないので、彼女の受付へと向かう。
「おはようございます。朝からお仕事ですか? 精が出ますね!」
「仕事もいいですけど、その前に訓練場の方に行ってみようかと思っているんです。訓練場には誰かいますか?」
「今の時間でも訓練をしてる方はいますよ。冒険者の方は朝早くから活動しますので」
「それはよかった。魔法使いの方もいるんですか?」
「いますけど、魔法に興味があるんですか?」
「はい。ちょっと見てみたくて」
よし。
これで魔法の習得ができる。
俺は心の中でガッツポーズを取っていた。
やっぱり、異世界に来たなら一度は魔法を使ってみたいよね。
「それはそうと、聞きましたよレースケさん。昨日はゴリアットさんを倒したそうですね!」
「ゴリアット? 誰?」
ミリアさんの言葉の意味がわからず、俺は頭の中にクエスチョンマークを浮かべる。
「ほら、あの『剛腕』のスキルをもつ、体が大きくて乱暴な人です」
「ああ、あの人か」
兄貴と呼ばれていた昨日絡んできた冒険者か。
あいつゴリアットって名前なのかよ。
ゴリラみたいな容貌だったし。
名は体を表すなあ。
異世界にゴリラが存在するのかは知らないけど。
「他の冒険者の方が噂していたんです。新人冒険者が、ゴリアットさんの顔に拳を一撃! ゴリアットさんを見事倒したって」
とう! とミリアさんは拳を突き出すポーズをとる。
「ゴリアットさんって、Cランクのスキルをもつ人なんですよ。そんな人を一撃で倒しちゃうなんて。すごいです」
「いやぁ、それほどでも。でも揉め事とか、ギルドとしては看過していいんですか?」
「ギルドは冒険者同士の揉め事には関与しないルールなんです。でもあの人は、そのルールを逆手にとって後輩の冒険者に酷いことばかり。お金を要求して、それを断ったら暴力に訴えて。女の子の冒険者にもやたらと絡むし。ギルドにも苦情が届いていたんですよ」
「それは酷いね」
思ったよりいろいろやってたんだな、あいつ。
「彼のせいでここの街から離れる冒険者だっていたんですから。そこをレースケさんが成敗してくれて、もうみんな大喜びですよ。私、その話を聞いて胸がスッとしちゃいました」
こちらとしては、自分の身にかかる火の粉を払っただけだが、 それで他人が助かったのならそれにこしたことはない。
しかし、ぶん殴られてみんなが喜ぶとか。
どんだけ嫌われてたんだ、あいつ。
「レースケさん。あらためて、ありがとうございました」
「お礼なんて別にいいですよ」
「ふふ。謙虚なんですね。そこも素敵です」
ニコニコとほほ笑むミリアさん。
「じゃあ俺は、訓練場の方に行ってきます」
「はい。いってらっしゃい!」
ミリアさんに見送られて、俺はギルドの訓練場へと向かった。
訓練場には、何人かの冒険者がいた。
お互いに剣で模擬戦をしている者や、素振りをしている者がいる。
丸い木をサンドバッグのように拳で殴っている者もいる。
木を殴ったら拳を痛めるんじゃないか、と思うかもしれない。
でもそれは地球にいる人間の常識だ。
彼は身体能力が上昇する効果のスキルを持っていて、木を殴っても平気なんだろう。
俺が見物したいのは彼らのように剣や拳で戦う戦士ではなく、魔法使いだ。
訓練場を見回すと、ちょうどローブを着て杖を持っている男が魔法を放っているところが見えた。
扱っているのは火の魔法だ。
杖の先から丸い火のボールが出て、訓練場に設置されている的に当たる。
「おお。魔法だ……!」
初めて見た魔法に、俺は心が震える。
思わず声を出して唸っていた。
魔法なんて、地球じゃ物語の中にしか存在しないものだった。
それが今や、現実に存在している!
これでテンション上がらない男はいない!
「なんだ? 魔法に興味あるのか?」
俺の言葉が聞こえていたのか、魔法使いが話しかけてきた。
「ええ。興味あります。俺、魔法って見たことなくて」
「魔法を見たことない? 魔法使いがいない田舎にでも住んでたのか?」
魔法使いがいない、というのは当たっている。
地球には魔法使いなんていなかったからな。
「ええまあ、そんなところです」
「そうか。都会なら別に珍しいものでもないから、今後も見れると思うぞ。冒険者なら何人かに一人は魔法系のスキルを持っている。この訓練場にいればいくらでも魔法なんて見れるよ」
「いくらでも見れるんですか! それは嬉しいです! 貴方の魔法も見てもいいですか?」
「見たけりゃ好きなだけ見ていいよ。別に減るもんでもないしな」
「ありがとうございます!」
好きなだけ見てもいいということなので、俺は彼の放つ魔法を見ていた。
彼は炎系の魔法をよく使い、炎でできた球や槍を的に向かって飛ばしていた。
少し時間が経つと、他にも魔法使いが現れて各々訓練を始める。
魔法使いが珍しくもないという言葉は本当だった。
俺は彼らが魔法を発動する様をじっと観察していた。
俺の新しいスキル『魔導大帝』は見ただけでその魔法を会得できるというスキルだ。
見ただけで俺はその魔法がどういうものか、どうすればその魔法を放つことができるのか俺は理解していた。
「いまならできる気がする」
じっと見ていたが、なんか魔法を放てそうな気がした。
その直感に従って、試しに俺も彼らが使っていた魔法を放ってみる。
まずは、最初に見た炎の球を出す魔法だ。
「ファイアーボール」
呪文を唱えると、ボウッと炎の球が現れて的へと飛んでいく。
「よし! 出た!」
初めて魔法を放ったことで、テンションが上がる。
「これが魔法か! すげえ!」
俺は子供のようにはしゃぐ。
周囲からは浮いているのだろうが、そんなものはいまの俺には気にならない。
もっと魔法を放ってみたいという欲求に支配されている。
次はただのファイアーボールではなく、色々と微調整を施してはなってみよう。
これもスキルの効果なのか、どうすれば調整が効くのかも俺は理解していた。
次はもう少し大きさを調整して放つ。
先ほどの二倍程度の大きさだ。
「ファイアーボール」
倍の大きさのファイアーボールが的へと飛んでいく。
狙い通り!
さて次は速度の調整だ。
先ほどの倍くらいの速さのものを一発。
その次は遅いものを一発。
そして二つの速度の異なるファイアーボールを一度に放ってみる。
威力を調整したもの。
音だけを大きくしたもの。
色を変えてみたもの。
着弾の瞬間に光をだすもの。
様々なファイアーボールをはなってみる。
なんだこれ!
すげえ!
めっちゃ楽しい!
もっと魔法を放ちたい!
次はファイアーボールだけではなく、もっと別の魔法を試していく。
『魔導大帝』のおかげで常人よりもかなり多くの魔力を持っているため、魔力切れなんて事態にもならず、ずっと魔法を放ち続けた。
依頼をこなすのを忘れていたと気づいた時には、もう既に日は暮れていた。
今日も安宿が決定した。
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