Ⅱ.創られし世界
Ⅱ-1
その世界は魔法社会と科学社会に別れていた。
二つの社会は長らく干渉せず、均衡を保っていたが、ある時を境に互いに争うようになる。
数十年に渡る戦争の後、ある者の働きにより、双方の社会は交わることを選択した。
そして、互いの文化を学ぶための一環として、双方が交わる地に学校を幾つか建設された。
…戦後三十五年の月日がたったある日のこと。
その日は魔法科学学校"マジェンス校"の入学式が行われる日であった。
そして巨大な体育館の入り口付近はこの学校に入学する生徒やその保護者たちで賑わっていた。
生徒達が友達や親と会話したりしている中、体育館入り口から少し離れた木の下に一人佇む少年がいた。
少年は黒い髪、黒い瞳、黒い服装といった、全体的に黒で統一された外見、整った顔立ちだがきつく鋭い目つきで、近寄りがたい雰囲気を醸していた。
その少年は暫くどこを見るでもなく辺りをゆっくりと見回していたが、ふと、あることに気がつく。
「……制服...」
…そう、他の学生は制服を着ているのに対し、少年は私服であった...。
「……まあ…いいか...」
…いや、よくは無いだろう。
少年は呟いた後、たくさんの人が群がる体育館入り口付近に足をむける。
そこには新入生のクラス分けが張り出されていた。
「……A組……36番か」
自分のクラスと番号を確認すると受け付けに向かう。
「あ、入学おめでとー!!
キミの名前は?」
少年が受け付けに向かうとその担当の…おそらく先生である女性に明るく声をかけられる。
「…A組36番」
「へ?…あ、え~っと…渡邉君ですね」
先生の明るさに相反する様子で自分のクラスと番号を少年は告げ、それを聞いた先生は少し戸惑いながら自分が持っている名簿を照らし合わせた。
「それじゃあA組の席は…体育館内の式場に入って左の方にあるので間違えないようにね。
あと…なんだっけ…あ、これはキミの学生証ですので無くさな…あれ?渡邉君、制服は?」
先生はようやく少年が制服を着ていないことに気づき、問いかけた。
「……あとで着替える」
「そ…そうですか...。
じゃあ、はい。学生証です。
…制服、早めに着替えるようにね!」
「………」
少年は学生証を受け取ると無言で体育館内へ静かに歩いていった。
(ん~…変わった子だな...。
…まあいいか!)
「入学おめでとー!
キミの名前は?」
先生は少年の事を少し気にしながら次の学生の対応を始めた。
「ふゎあぁあ…ねみぃ...」
大きな欠伸をしてどこかに寝転がっている、濃紺の髪、深緑の瞳の少年。
着ている制服…胸ポケットに校章が刺繍してある紺のブレザー、その中に白で無地のポロシャツ、ベージュに紺の線でチェックが入ったズボン…は見たところ新しいもので、新入生のようだ。
「式とかめんどいんだよな…ホームルームだけ出ればいいか」
気怠そうにそう呟くと少年は瞼を軽く閉じ、寝にかかった。
…因みにこの少年が寝転がっているのは…
……………どうやって登ったのだろうか、体育館の屋根の上であった。
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