第10話 初めての商材


しばらく待つとメガネを掛けた細身の神経質そうな男性がやってきた。


「お売りになりたい商品があるとか」

「これをお願いします」

「――これ、ですか…」


俺はカウンターに一組の軍手とその束を出した。

黄色いポッチが付いた軍手。働く男で装備を購入したついでに買ってきたものだ。


――なぜ軍手だと思うでしょ?

理由は簡単「お金がないから」

ラノベ情報からお金の稼ぎ方をいろいろ考えたんだよね。

そこで問題になるのが「この世界の財産を日本に持ってこれない」こと。

こっちの物を日本のお金に換金する方法が思いつかなかった。

だから日本で仕入れてこっちで売るとなると日本の資金が減る。金欠気味なので負担は小さくしたい。

チート定番の砂糖や塩、それに香辛料は既存のお店と揉める可能性がある。こっちにも利権はあるだろうしね。ゲートの管理を三十年はやらなくちゃいけなから、異世界の生活を続けたいならできるだけ揉め事は減らしたい。

そこで商材は「安くて、アーガスで競合品がなく、既存の商売を邪魔しなくて、日本でどこでも手に入る物」に絞ったってわけ。

実際、軍手売りの理由をハーミットたちに話したら納得してくれた。


「手袋…ですか?」


商品を手に取り眺めていた男性は形状でそう予想したのだろう、恐る恐る訪ねてきた。


「そうです、作業専用の手袋です」

「作業専用…」


今までなかった商品だ。この商品の有用性を考えているのだろう。


事前にハーミットから、この世界の手袋は実用的なものは革製で戦闘や鍛冶仕事で手を保護するぐらいしか使われない。それ以外だと貴族の儀礼用。

作業用の手袋は存在していないと聞いていた。


「このポッチがすべり止めになっていまして、すべり止めに力を使わなくていい分、持ち上げが楽になります。それ以外でも簡易ですがケガ防止にもなります」


俺の説明に実際の作業風景をイメージしているのだろう。ただ見た目の印象通り力仕事はあまり経験無いようで、具体的な効果はイメージできていないようだ。


「俺も使ってみたが掴んだり持ち上げたりは楽になったな」


ハーミットが助け舟を出してくれた。


「持ち上げだけじゃなく、掴んで振り回すのもすべらない分だけ楽に感じる。たぶん道具を使う木こりや農夫は作業が楽になるんじゃないか?

それに生地も薄くて柔らかい。手に馴染むし使っているうちに素手と変わらないぐらい気にならなくなる。革手袋と違って洗って干せるし蒸れないのもいいな」


――ハーミットすげー。

軍手をつけて剣を何度か振り回してるのを見たけどさ、あれだけでそこまで想定するとは営業のセンスあるかもな。


それを聞いた男性はこちらを向き直し、


「堅守速攻のハーミット様が言われるなら間違いないでしょう。指周りの縫製や伸び縮みする生地も素晴らしいし作業用として有用かは別としても、商業ギルドとしても興味はあります。試しに少量購入しましょう」


よし、なんとかなった。


一組銅貨三枚、三百円でフィニッシュ。

もともとは十二枚入りで五百円だったので約七倍。ボロ儲けで内心喜んでいたら、価格を聞いた男性はすごい勢いで手持ち在庫を全部買い取ると詰め寄ってきた。


ハーミットの話しじゃ手袋は最低品質のものでも銀貨五枚の五千円が相場らしいからね。一つひとつ手作りならそんなもんかもね。堅守速攻のみんなにも安すぎると言われたし。俺も店で見つけたときに「安っす!」と思って衝動買いしたからね。

日本の価格がおかしいだけ。


次回値上げするか。


ちょっと買いすぎたと思った五セット分、全部捌けました。






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