20xx年6月2日

アオイの目の前に広がる空間は、今まで見たことのない異様な光景を呈していた。暗闇の中に無数の光の帯が浮かび、まるで時間が凍結したような静寂に包まれている。だが、その静けさの中に潜むのは、ひどく不安定な何か、揺れ動く力だ。


彼はその中に踏み込むと、周囲の空間が波紋のように広がり、光と影が交錯し始めた。それは、まるで彼の意識そのものが変動しているかのような感覚だった。


「この道を選ぶのか?」異形の声が再び響いた。以前とは違い、その声には少しの怒気を孕んでいる。


「選ぶ。」アオイは迷わず答えた。その言葉には確固たる決意が込められていた。彼は今、最も重要な決断を下したのだ。繋がりを選ぶことで、すべてを繋ぎ直し、失われたものを取り戻すと決めた。


だが、その選択が彼にどれほどの試練を与えるのかは、まだ分からなかった。


異形の姿が不気味に揺らめく。その目がアオイを見つめ、冷徹な声で言った。「繋がりの力を持つ者は、その力を行使するたびに命を削る。君の選択には、必ず代償が伴う。君はそれを承知しているのか?」


アオイはその言葉を聞いても、少しも動揺しなかった。覚悟はできている。彼の胸の中に響くのは、今までにない強い意志だけだった。


「命を削るとしても、それが必要ならば。」アオイは冷静に言った。「僕は、繋がりを築くためならば、どんな代償でも支払う覚悟がある。」


異形の目がひときわ冷たく光った。周囲の空間がさらに歪み、そして次の瞬間、アオイはその場に吸い込まれるような感覚に襲われた。


彼が目を開けた瞬間、彼の周りには、今まで見たことのない光景が広がっていた。そこは荒廃しきった世界ではなかった。むしろ、どこか幻想的な、まるで異次元のような場所だった。大きな渦巻きが空に浮かび、そこから無数の光の筋が放たれている。


そしてその中心に、アオイの目の前に浮かぶのは、見覚えのある顔だった。それは、失われたはずの―彼が最も愛した人、キイナの顔だった。


「アオイ…あなた、本当にこの道を選んだの?」キイナの声は、かすかに震えているように聞こえた。彼女の目には、彼に対する問いかけとともに、どこか切ない表情が浮かんでいる。


アオイはその姿に胸が締め付けられるような感覚を覚えた。彼女は確かに過去に、死のような形で彼の前から消えてしまった。だが、今、彼女がそこにいる。それは、アオイにとって、喜びと同時に恐れを伴う出来事だった。


「キイナ…どうして?」アオイは彼女に近づこうとするが、光の渦に引き寄せられるように足が進まない。彼の心の中に浮かぶのは、ひとつの疑問だった。なぜ、彼女がここにいるのか。これは、選ばなければならない道の一部なのか?


「アオイ、あなたはもう何もかもを選んでしまった。」キイナの声が響く。「繋がりを選んだことで、あなたの運命はすでに決まったの。私がここにいるのは、その証拠。」


アオイはその言葉に一瞬凍りついた。運命が決まっている…それは一体どういう意味なのか?


「選び続けることが、全てを繋ぐことだと思っていた。」アオイはつぶやくように言った。その言葉には悔しさと同時に、少しの希望が混じっていた。「でも、それがどうしてこんな形で現れるんだ?」


キイナはその問いに対して、深いため息をついた。「それが、繋がりの力の真実よ。選ぶことで、あなたは過去と向き合わせられ、そしてその過去の痛みを背負いながら進まなければならない。」


その瞬間、周囲の空間が急激に歪み、アオイは激しい衝撃を感じた。目の前のキイナが消え、代わりに光の渦が渦巻き、無数の過去の記憶がその中から浮かび上がる。アオイはその記憶の中に引き寄せられていく。


それは、アオイがかつてキイナと共に過ごした時間、その中で交わした言葉、共に笑った日々の記憶だった。だが、それと同時に、彼の選択がもたらした数々の痛みや喪失も浮かび上がってきた。全てがアオイの選んだ「繋がり」の結果として彼の中で絡み合っているのだ。


「君が選び取った道は、時に心を引き裂くほどの痛みを伴う。」異形の声がアオイの耳元で響いた。「だが、それこそが『繋がり』の力だ。全てを繋ぎ直すためには、その痛みを受け入れ、そして乗り越えなければならない。」


アオイはその声を聞きながら、目の前に広がる過去の記憶に向き合った。彼の心はその選択の重さに押し潰されそうになるが、それでも彼は前に進まなければならないことを知っていた。


「痛みを受け入れる…それでも、繋がりを求め続けるんだ。」アオイは決意を新たに、過去と向き合わせながら足を踏み出した。


その先に待っている未来がどれほど辛いものであれ、アオイはもう逃げることはできない。彼の選んだ道を進み続ける覚悟を持って、次の試練に立ち向かうしかないのだ。

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僕の終末日記 マジョルカ @majyoruka

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