僕の終末日記

20xx年5月30日

アオイが再び目を開けると、身体が重く感じ、まるで自分の存在そのものが引き裂かれそうな感覚に包まれていた。息が苦しく、喉の奥がひりつく。目の前に広がるのは、ただひたすらに歪んだ空間だ。空中に漂う小さな粒子が、まるで無数の破片のように揺れ動き、周囲の空間が一瞬ごとに変化していく。その動きが、まるで時間そのものが歪み、ひとつの意志を持っているかのように思えた。

アオイは足元を確認するが、そこには何もない。まるで無限の空間に浮かんでいるかのような感覚だった。手を伸ばしても、触れることができるものは何もない。周囲の空間が不安定で、常に揺れ動いているようだった。どこまでも続くような闇と光の境界線に、彼の目は吸い寄せられる。

「ここは…どこだ…？」アオイは呟き、首を振って周囲を見回した。

すると、空間の裂け目が開き、そこから現れたのは、あの「異形」の姿だった。その姿は、まるで過去と未来、現実と非現実が交錯したかのように、無限に変わり続けている。巨大な黒い影の中に浮かぶ目だけが、冷徹にアオイを見据えていた。

「君が選んだ道は、決して簡単なものではない。」異形は低く響く声で言った。その声は、空間そのものを震わせ、アオイの内臓にまで響くような感覚を与えた。

「何かを繋げるためには、必ず犠牲が伴う。」異形の言葉がアオイの心を打つ。言葉が脳裏に残り、アオイはその意味を深く噛みしめながらも、恐怖と混乱が入り交じった。

「私は…繋がりを選んだ。」アオイはかすれた声で言った。「だけど、何を犠牲にするべきなのか、まだわからない。」

異形はその言葉に微動だにせず、ただ静かに見守っている。しかし、その目は、まるでアオイの内面を全て見透かすように輝いていた。

「君が選んだ『繋がりの未来』は、ひとつの強力な力を必要とする。しかし、その力を得るためには、何かを壊さなければならない。」異形の言葉が、アオイの体を一層強く揺さぶる。

その瞬間、アオイは気づいた。目の前の異形が言っていることが、単なる試練の言葉だけでなく、現実そのものを指し示していることを。彼の目の前に広がる光景—歪んだ都市、崩れた道、焦げ付いた空—それらがすべて、彼が選ぼうとした未来の一部であることを悟った。彼が選んだ未来は、決して美しいものではなく、犠牲を払って繋ぐ未来だった。

「壊す…？」アオイはその言葉を呟いた。

異形はその目をじっと見据え、重々しく答える。「ああ。君が繋げようとしている世界には、無数の断絶が存在している。その断絶を越え、繋ぐためには、何かを切り離し、壊し、破壊しなければならない。そうすることで初めて、真の繋がりが生まれる。」

アオイはその言葉に息を呑んだ。目の前に広がる破壊の光景が、ただの幻覚ではなく、現実そのものなのだと、彼は確信せざるを得なかった。彼が選んだ道がどれだけ深刻な代償を伴うものか、その重さがひしひしと感じられた。

「君は、どこまで犠牲を払えるか？」異形は問いかける。どこからともなくその声が、アオイの心に響き渡る。「世界を繋げるために、君は本当にその力を手に入れる覚悟があるのか？」

その問いがアオイの中で反響し、彼の心を引き裂くような感覚に襲われる。彼はこれまで、未来を繋げるために何かを犠牲にしなければならないことを薄々感じていた。しかし、今その現実を突きつけられることで、彼はその選択がどれほど過酷なものであるのかを実感した。

「それでも…繋げたい。」アオイは必死にその思いを声に出す。「どんな代償があっても、この世界を繋げたい。崩れた未来を、再び形作りたい。」

その言葉が、異形にどこか深く届いたのだろう。異形は一瞬、静寂に包まれた後、ゆっくりと話し始める。

「それならば、覚悟を決めなさい。」異形はその身を震わせ、アオイに向かって進み出す。「君が選んだ未来に、何が待っているのかは、君自身が選ばなければならない。しかし、その選択がもたらすものは、すでに決まっている。」

突然、異形はアオイの目の前で手を掲げ、空間が一変する。瞬時にしてアオイの視界は歪み、世界が崩れていく音が耳をつんざく。大地が割れ、天空が裂け、空気さえも引き裂かれていくような感覚が彼を包んだ。

「君の選んだ未来は、すでに動き出している。」異形の声がアオイを包み込み、彼の全身を貫いた。「だがその未来が、どれほどの力を必要とするか、君はまだ知る由もないだろう。」

アオイは力なく足を取られ、崩れ行く世界に呑み込まれそうになる。しかし、彼の目の前に現れるのは、無数の光の糸だった。糸は彼を包み込み、しがみつくように絡みついてきた。それは彼が選んだ「繋がり」の証であり、同時にその未来の代償であった。

「これが…『繋がり』の力なのか…？」

糸に引き寄せられるように、アオイはその力を感じ、そして覚悟を決めた。この光景が何を意味するのか、何が起きるのかはまだ分からない。しかし、彼が選んだ道は、これから大きな転換点を迎えることになる。

その先に待つのは、破壊と再生、切り捨てと繋がりが繰り返される未来。アオイの選択は、間違いなく未来を変える。そして、その選択がもたらす結末は、誰にも予測できないものとなるだろう。