20xx年5月31日

アオイは深い息をつき、胸の中に湧き上がる重圧を感じていた。破壊と崩壊が待ち受ける世界の中で、彼が選び取った道は、これまで以上に過酷なものになるだろう。だが、彼は迷わなかった。繋がりを選んだ以上、どんな犠牲があろうとも進む覚悟はできていた。どこかで彼は、それを乗り越えた先に新たな未来が待っていると信じたかった。


空間がゆっくりと揺れ、再びその「異形」が現れた。前回のようにその姿は歪んでおり、無数の影が絡み合っているようだった。しかし、今度はその目が、まるで真実を見抜こうとするかのように、アオイを見据えていた。


「君の選択は、もう後戻りできない。」異形は静かながらも重い声で告げた。空間が震え、その声がアオイの体に深く刻み込まれる。


「後戻りできない…?」アオイはその言葉に反応し、無意識のうちに立ちすくんだ。選択肢はすでに限られているのか、それともまだ何かが変わるのか?


異形はその目を細め、アオイをじっと見つめた。「君が選んだ『繋がり』の力には、無限の可能性がある。しかし、その可能性には常に『断絶』という対立する力が影を落としている。その『断絶』を超えなければ、真の繋がりは果たせない。」


その言葉に、アオイは強烈な圧力を感じ、足元を見つめた。彼は深く息を吸い込み、腹の底から覚悟を決めた。


「断絶…それを超えなければならないのは分かっている。」アオイの声は静かだが、決意が込められていた。「でも、それを超えた先に何が待っているかは、まだ分からない。」


異形は一瞬黙った後、再び静かな声で言った。「君が望む『繋がり』が、全てを治癒し、救うわけではない。それが真実だ。」


その言葉に、アオイの胸は締め付けられる。真実…すべてが癒されるわけではない…それでも、彼は選び続けなければならない。だからこそ、彼の選択がどれほど過酷なものになるか、それを受け入れるしかないのだ。


突然、異形が手をひらりと振った。その瞬間、周囲の空間が急激に変わり、アオイは目を見開いた。目の前に広がるのは、破壊された都市の景色ではなく、無数の裂け目が開いた空間が広がっていた。そこから、無数の光の筋が伸び、空間を貫いていた。


アオイはその裂け目に引き寄せられるように足を踏み出す。その先に、彼が選んだ「繋がり」が待っているという確信を持ちながら。しかし、そこには想像以上の恐ろしいものが潜んでいた。


その光の筋の先に浮かぶのは、無数の人々の姿だった。だが、その人々はすべてが無表情で、まるで命を失ったかのように淡々と漂っていた。彼らの目はどこか虚無に満ちていて、アオイを見ても何の反応も示さない。


「これが…繋がりの先に待っているものなのか?」アオイはその光景に言葉を失った。目の前の人々は、彼が選んだ「繋がり」が成し遂げた結果の一部に過ぎないのかもしれない。だが、それがどうしてこんなにも冷徹なものになってしまったのか、アオイには理解できなかった。


異形の声が再び響く。「これは君が選んだ道だ。だが、その先に待つのは必ずしも希望ではない。繋がりを持つことは、時に痛みを伴い、時に終わりを迎えることもある。」


その言葉が、アオイの心に重くのしかかる。これまで信じてきた「繋がり」が、こんなにも冷徹で、無機的なものに見えてしまうのか。彼が望んでいた未来は、こんなにも遠いものだったのか?


「これが…『繋がり』の果て?」アオイは震える手でその光景を掴み取ろうとした。しかし、その瞬間、彼の体が重く引き寄せられるような感覚に襲われ、光の筋に引き込まれる。


その時、アオイの目の前に現れたのは、ただの人々ではなかった。彼の目の前に現れたのは、彼自身の過去の姿だった。彼がかつて失った人々—家族や友人、愛する人々—が、無表情で彼を見つめている。


「アオイ…どうして…?」声が聞こえる。だが、その声はどこか歪んでいた。まるでアオイを問い詰めるように、しかし、無感情に響く。


「お前は…お前の選んだ未来が、他の誰かを犠牲にしたことを知っているのか?」その声は彼を責めるように響き、アオイはその言葉に胸を刺されるように感じた。


「それが…僕の選んだ未来だ。」アオイは目を閉じ、震えながら答える。「それでも、選ばなければならなかった。」


その言葉を聞いた瞬間、過去の幻影が消え去り、彼を包み込んでいた光の筋も、再び暗闇へと戻っていった。アオイはその場に膝をつき、呼吸を荒げながら、彼が選んだ未来の重みを感じていた。


その未来がどれほど重いものか、彼は今、初めて理解した。しかし、それでも彼は前に進むしかないのだ。繋がりを持つためには、何かを犠牲にし、何かを乗り越えなければならない。その代償を受け入れた先に、きっと新たな世界が広がっていると信じて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る