20xx年5月21日

アオイは、目の前に広がる光の道をじっと見つめていた。そこには、無数の扉が並んでおり、それぞれが異なる色と形をしている。どれもが彼を試すためのものだということは、直感的に感じ取っていた。未来のアオイが言っていた「試練」とは、これから彼が選ぶべき道そのものだった。


「これが、僕の試練なのか…?」アオイは呟き、深呼吸をして一歩踏み出す。


キイナもそっと彼の後ろに続く。「君が選ぶ道は、君だけのものだ。でも、どんな道を選んでも、私は最後まで君を信じている。」


アオイはキイナの言葉に感謝しつつも、心の中では不安が湧き上がっていた。次々に現れる扉を前にして、どれを選ぶべきかがわからない。


その時、突然、目の前の扉のひとつが微かに輝きを放ち、アオイを呼び寄せるかのように動き出した。振り向けば、他の扉は一切反応しない。ただその扉だけが、ひときわ強い光を放っている。


「この扉…?」アオイは思わずその扉に歩み寄った。


キイナもその扉を見つめながら、慎重に言った。「気をつけて、アオイ。その扉が開かれるとき、君の覚悟を試すことになる。」


アオイはうなずき、そっと扉の取っ手に手をかけた。まるで手のひらを通じて、その扉が何かしらの力を発しているかのように、少し震える感覚が伝わってきた。


そして、アオイは扉を開けた。すると、目の前に広がったのは、無数の鏡が並んだ部屋だった。鏡に映るのは、どれもアオイ自身の姿。しかし、どの鏡も微妙に異なり、アオイの表情や姿勢がわずかに変わっている。


「これって…?」アオイは驚きと混乱を感じながらも、鏡に近づいていく。


その時、鏡の中の自分が突然、口を開いた。「君は、自分がどんな人間か、知っているのか?」


アオイはその言葉に驚き、後退しようとした。しかし、鏡の中の自分はさらに続けた。


「君は、過去を背負っている。自分が何をしてきたのか、何をしてこなかったのか。君が選ぶべき未来に、それらはどう影響すると思う?」


その言葉に、アオイは心を揺さぶられた。彼は過去の自分と向き合うことを避けてきた。痛みを感じることから逃げて、前に進むことだけを考えていた。しかし、今、目の前の鏡はその過去に触れ、彼を試すかのように問いかけてきた。


「君は、過去を捨てるのか?それとも、背負いながら進んでいくのか?」


その問いに、アオイはしばらく言葉を失った。鏡の中の自分は冷徹な目で彼を見つめ、さらに強く問いかける。


「過去の罪が、君の足を引っ張ると思っているのか?それとも、それを乗り越えて新しい未来を選ぶ覚悟があるのか?」


アオイは深く息を吸い、目を閉じた。過去に犯した過ち、そして避けてきた痛み。それらを振り返ることで、彼は今までの自分がどれほど未熟だったかを痛感していた。しかし、だからこそ、今の自分がどう生きるかが重要だと感じる。


「僕は…僕は、過去を捨てない。」アオイは決意を込めて答えた。「過去があるからこそ、今の僕がいる。そして、今の僕が選ぶ未来は、僕が決める。」


その瞬間、鏡の中の自分が微笑み、ゆっくりと消えていった。鏡もまた、ひとつずつその反応を終え、静寂が部屋に広がった。


「終わったのか?」アオイは少し驚きながらも、部屋を見回した。


キイナが後ろから声をかける。「おめでとう、アオイ。君は自分を乗り越えた。これで、次の試練に進む準備が整ったということだ。」


アオイは深く息を吐き、少し笑顔を見せた。「自分を乗り越えた、か…。でも、これで終わりじゃないんだな。」


キイナは頷き、微笑みながら言った。「もちろん。君が進む先には、まだもっと大きな試練が待っている。でも、今の君ならきっと乗り越えられる。」


その言葉を胸に、アオイは再び前を向いた。次に進む道には何が待ち受けているのか、彼にはまだわからない。しかし、これまでの試練を乗り越えてきた彼の心には、確かな力が宿っていた。

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