20xx年5月22日
アオイは鏡の試練を越え、次の扉を前に立ち尽くしていた。無数の扉の中から選び抜いた一つを開けたとき、彼が目にしたのは漆黒の空間だった。何もない、ただの闇。ただその中にひとつ、微かな光が浮かび上がっている。
その光は、最初は星のように小さく見えたが、アオイが近づくにつれて次第に大きく輝きを増していった。その光を放っていたのは、漠然とした「影」として存在している、無数の人々の顔だった。すべてが不確かな存在で、何を見ているのか、何を考えているのかもわからない。ただ、漠然とした感情を感じ取れるような気がした。
「何だ…これは?」アオイはその空間に足を踏み入れながら呟いた。
キイナはその背後から、少し緊張した様子で言った。「これは…君の中にある、最も深い恐れかもしれない。」
アオイは振り返ってキイナを見つめた。「恐れ?」
キイナはその言葉に少し考え込んだ後、答える。「恐れは、君の中にある深層の記憶や未解決の葛藤から生まれるものだ。君が乗り越えなければならないのは、それらの恐れだ。」
その言葉を聞いたアオイは、心の奥底でざわめく不安を感じた。彼が過去に逃げた感情、そして選んだ道が今も彼の中に残っている。それがどんな形で現れるのか、予測もつかなかった。
アオイは目を閉じ、深呼吸をしてからその光に近づく。だんだんと、その周りの影が明確になっていく。顔は無数に現れ、そしてその一つが突如としてアオイを見つめ返してきた。それはアオイが最も恐れている、自分が犠牲にしてきた人々の顔だった。
「君は何をしてきた?」その影が語りかけてくる。声はアオイの過去の記憶にすり寄るように響いた。「君は自分を守るために、他の命を無視してきた。君の選択が他者を傷つけ、奪ってきたことを知っているか?」
その声がアオイの心に突き刺さる。かつて、彼は周囲を守るために自分の決断を下してきた。しかし、その過程で無視してきた命もあった。見捨てた命、犠牲にした人々。アオイはその記憶に耐えられず、足を止める。
「そんな…そんなことは…」アオイは声を絞り出すが、恐れが彼の言葉を封じ込める。
「君は知っている、すべての選択には犠牲が伴うことを。だが、その犠牲が君を苦しめる時が来ることを。」影はさらに近づき、アオイの耳元で囁く。
アオイは頭を抱え、膝をついてその場に崩れ落ちる。「どうすれば…どうすればすべてを許せるんだ…」
その時、キイナが静かに歩み寄り、アオイの肩に手を置いた。「アオイ、恐れに負けないで。君が選ぶべき道は、他者を傷つけない道だ。過去の過ちを背負うことは苦しいかもしれない。でも、それを乗り越えた先にこそ、君の未来がある。」
アオイはゆっくりと顔を上げ、キイナの目を見つめた。彼女の言葉が胸に響く。恐れを乗り越える力が、今、彼の中に湧き上がってきた。
「僕は…僕は、過去を背負って、前に進んでいく。」アオイは力強く言った。その言葉とともに、彼の周囲に漂っていた影が一瞬で消え去り、漆黒の空間は白い光に包まれた。
アオイは立ち上がり、目の前の光を見つめた。それは、彼が選ぶ未来を象徴しているように輝いていた。
「これで…終わったのか?」アオイは自分に問いかけた。
キイナが微笑んで答える。「いいえ、アオイ。これは始まりに過ぎない。でも、君はもう恐れに囚われることはない。」
その言葉に、アオイは深く頷いた。次の試練が待っていることを理解しながらも、今の自分には、それを乗り越える力が備わっていると信じていた。
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