#02 ダンジョン潜入、そしてステータス(2/7)

「よ、お疲れさん」


 ダンジョンの入り口に辿り着いた俺は、見張りを務めている二人に挨拶した。

 基本的にダンジョンの入り口近くには駐在所があって、24時間見張りがいる。

 冒険者と自警団を混ぜて、持ち回りってわけだ。


 パーティの実力を見極め、ダンジョンに入るのを断ったり。

 ダンジョン内の異変を察知した場合、素早くギルド、または国へ報告したり。


 主にそれらを目的として、見張りは存在する。


「お疲れ様です、ガイウスさん! ……仕事ですか?」


「ああ、そんな感じだ。初心者パーティから救難信号があったんだが、いつ頃入ったか分かるか?」


「……そういえば、一組だけダンジョンから出てきてないですね。夕方くらいに入っていった奴らですが」


「なるほど。じゃあ、お前らは悪くないな。ちょっと探してくる」


 ダンジョンに入ろうとすると、前を遮られた。


「おい、待った。プレートと夜間利用の許可証は?」


 一人は顔馴染みだが、もう一人は知らない顔だった。

 俺は襟元から、冒険者プレートを引っ張り出して見せた。


「……燐灰石級。それで、許可証は?」


「あー……。無いけど、代わりにこれだ」


 魔法鞄から金属製のカードを取り出し、突き出す。


「なっ……ギルドの免責控除証!?」


「この人は凄い人なんだよ。まあ、とんでもなくアレな戦い方するけど」


「ははっ、褒めんなよ。……んじゃ、見張り頑張れ」


 軽口を交わしてから、ダンジョンへと足を踏み入れた。

 湿った空気を胸いっぱいに吸い込み、魔法鞄から色褪せたローブを取り出す。


(こいつの“特別な性能”には、ずいぶん助けられてる。今回も頼んだぜ)


 羽織ったローブの裾を整え、フードを被り気配を殺す。

 これで俺は石ころ。湿っぽい床に転がる影の一つ。

 ――さーてと。いっちょやりますかねえ。




「……風よ、導けエア・ディテクト


 探知魔法を使いながら、ダンジョンを進んでいく。

 低階層なので一気に駆け抜けたいが、そうもいかない。

 待ち伏せの可能性を考え、あくまで慎重に。


(……とはいえ、相手が相手だしな。過剰に警戒する必要は無いか)


 騎士だった頃とは違い、今の俺の装備とスキル構成は完全に『そっち系』。

 おかげでソロでもある程度の階層まで潜り、稼げるようになった。

 ……カミサマからの“愛情”たっぷりのプレゼントのおかげってのが、しゃくだがな。


 ──と、視界に一匹のスライムが映った。


 任務中だし、魔石やドロップアイテムの価値も低い。

 普段なら無視するところだが、今日は起き抜けでダンジョンに来た。


 ……まあ、肝心な時になまってたなんてのは御免だし、準備運動しとくか。

 俺はスライムの進行先を確認し、指先に魔力を込めた。


「……荒ぶる業火よ、地に潜め。

 愚か者を絡め取り、炎の茨となれ──

 ──《イグナ・オルビス》」


 床に展開した魔方陣が赤く光り、静かに消える。

 ぬるりとした粘体がそこへ差しかかった瞬間──

 スライムの体が燃え上がり、軽い破裂音と共に爆ぜた。 


(……よし。魔力の流れも、悪くない)


 一応、魔石を拾ってからダンジョンの奥へ進んだ。



 

 この時間帯だと、他の冒険者とすれ違うことも無い。

 ──と思っていたが、何度目かの《エア・ディテクト》に反応あり。

 

(お、敵の斥候が近い。ここは7階層で、他に人間の反応は無し。となると、お仲間は下の階層か? ……さて、それじゃ準備といくか)


 俺はダンジョンの物陰に移動し、小声で呟いた。


「……ステータス」


 この世界に生きる人間も、亜人も、魔族も──

 何故か、生まれつき見ることが出来る“ステータス”の枠と文字。

 仕組みは分からない。だが、確認は大事だ。



   【ガイウス・ヴァレンドロ】


 職業:冒険者     装備アビリティ

 レベル:62    ・身のこなしⅢ

 生命力:C     ・格闘Ⅱ

 筋力 :D     ・受け流しⅢ

 敏捷 :A+    ・暗殺術Ⅳ

 魔力 :S     ・二重魔法:初級

           

 使用可能ポイント:560

 【贈り物】:《不意打ち》



 ──昔の俺は、これでもかってくらいに近接主体だった。

 それが今じゃ、ふざけたようなステータスの振り方。

 でも意外に、悪くないっていう。


 っと、いけねえいけねえ。

 時間としては一瞬。気配の変化で現実に引き戻された。 

 

(……まずは、こいつを始末する)


 通路の奥から──微かに、靴音がした。

 音を立てている時点で二流もいいとこだが、俺にとっては都合が良い。

 悪いが、汚い花火になってもらうぜ。


 いつもの、ダンジョンの“角”。

 壁に背を付けた俺は、獲物が近づいてくるのを待ち構えた。






==========

だてぃばよもやま!


《イグナ・オルビス》のような地雷魔法は、基本的に人間への使用を禁じられている。

ガイウスが使うのは、悪質な冒険者や殺人犯、魔物相手のみ。


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