ダーティ&バースト! -角待ち炸裂魔法使いは世界を変える-

桐沢清玄

第1章 卑怯者のガイウス

#01 お楽しみの後に(1/7)

 「……ん~~、なによ、もう……あっ。ねえちょっと、ガイウス。あなたに、お仕事の連絡みたい」


「……あん? ……ったく、こんな時間に……」


 部屋の壁に掛けてある時計を見ると、夜の23時を過ぎている。

 隣で寝ていた女から、枕元に置いていた連絡用の魔晶端末を渡された。

 赤く光り、振動している。


 ──なるほど。これは、ギルドからの緊急依頼だな。

 まあ、こんな時間に呼び出されるってことは、ろくでもない話なんだろうが。


「いってらっしゃ~い。……そうだ、ガイウス。あたし、今月でこの仕事やめるの」


「んー? ……へえ、必要な金が貯まったんだな。おめでとさん」


 眠い目をこすりつつ、素早く着替えた。

 この女には二年ちょっと、楽しませてもらった。

 ま、餞別くらいくれてやろう。


 (ケチな男だったと、商売仲間の娼婦たちに言いふらされても困っちまうからな。……こいつの性格だと、そんなことはしないだろうが)


 俺は魔法鞄から金貨が詰まった小袋を取り出し、女に放り投げた。


「ほい、好きに使えよ」


「えっ。……ちょっと、こんなにもらえないって!」


「んじゃ、元気でなー」


 女を残し、宿を後にした。


 この街の夜は、結構気に入ってる。

 出会いと夢、期待、興奮。欲と諦め、孤独、儚さ。それらを運び、洗い流す潮風。

 楽しそうに歩いている奴らの視線を感じながら、ギルドまで駆け足で向かった。




 深夜にも関わらず、ギルドには明かりが灯っていた。

 連絡が来たんだから、そこは当然か。


「よーう。なんだなんだ、こんな時間に呼び出しやがって」


「あっ! こんばんは、ガイウスさん。夜遅くに大変ですね」


「こんばんは、セラ。そっちもご苦労さん。あいつは上か?」


 ギルドの受付嬢、セラ。

 受付嬢の中じゃ一番の古株で、冒険者たちからも慕われている。

 現在、独身中。お前ら、チャンスだぜ。


「はい。ブランツさんは、二階のギルド長室でお待ちしてます」


「了解! んじゃちょっと、話してくるぜ」


 おっさんになったが、これでも足取りはまだ軽い方だ。

 素早く二階へ上がると、ギルド長室のドアをノックした。


「ガイウスか。入ってくれ」


「よう、ブランツ。緊急依頼って話だが、どんな依頼だ?」


 俺は部屋に入ると、いつものようにソファへ座り、足を組んだ。

 勝手知ったるという関係だからな。


 しっかりした造りの、机と椅子。

 そこでふんぞり返っているこいつが、ギルドマスターのブランツだ。

 今年で54歳、元冒険者。白髪が交じった短髪の黒髪と、今だ衰えない肉体。


 俺は自分の贅肉が付いた腹に手を当て、とりあえず隠してみた。

 ……そろそろ痩せないと、娘に嫌われちまうな。

 家にいると最近、腹に視線を感じるし。

 

「初心者パーティの救難信号を受信した。ガイウス、今から救助に向かってくれ」


「……はあ? こんな時間に、そいつら何やってんだ?」


「さあな。もう少しで新しい装備が買えるから、今日のうちに稼いで明日買おうとか、そんな感じじゃないか?」


「ったく、これだから初心者は……」


 この国は初心者パーティの支援を、割と丁寧にやっている方だ。

 救難信号用の簡易魔晶端末を無料で貸し出してるのも、その一環。


「魔物か、追い剥ぎパーティかは不明だ。もし追い剥ぎだったら、殺して構わん」


「へえ、殺しちまっていいのか。……その場合、手当は付くのか?」


「ああ、勿論だ。しょぼい奴らだった場合、手当もそれなりだがな」


「……絶対、しょぼい連中だろ。この国、しかもこの近くで追い剥ぎやるなんて」


「ははっ、違いない! この街周辺は《卑怯者》のガイウス──お前の狩り場だからな」


「だよなあ。ちょっとこの業界でやってりゃ、俺の話くらい聞いたことありそうなもんだが」


 ──仮に、追い剥ぎだった場合。

 多分そいつらも、初心者だ。


「話は分かった。場所は、いつものダンジョンか?」


「ああ。街のすぐ近くの、な」


「ほいほい。んじゃ、ちょっくら行ってくるぜ」


 俺はギルドを出て、全速力でダンジョンへ向かった。


 正直、初心者パーティが生きてるかは微妙だ。

 それでも、仕事は仕事。

 金さえ貰えりゃ、どこへでもってな。


 もちろん、生き残ってる方が報酬もいいし、俺の評価も上がる。

 ……ってなわけで、到着するまで精々頑張れ。


(どこのどいつだか知らねえが、眠りを妨げやがって。……覚悟しとけよ)


 港街を後にして、ひたすら走った。

 綺麗な夜空に乾杯といきたかったが、残念ながら仕事中だ。

 お月様、お星様。また今度な。 






==========

だてぃばよもやま!


ガイウスが拠点にしている港街・ポルタヴェッラ。

昼は市場と冒険者、夜は水商売の街として賑わっている。

夜の街の人間からは、ガイウスはお得意様として人気がある。


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