雛祭り頂上決戦—女雛戦記—
@siki_oriori
雛祭り頂上決戦—女雛戦記—
作者:四季 折々
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【色分けされている台本】
『雛祭り頂上決戦—女雛戦記—』(40分 ファンタジー 6人用)
作者:四季折々
https://taltal3014.lsv.jp/api-server/public/share/script/7718
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【登場人物】
N(不問):語り。
女雛(♀):男雛と約束をしたことだけを胸に、決戦に挑んでいる。
戦うことに長けているがゆえに、獰猛な性格を持ち合わせている。
男雛(♂):女雛との約束を胸に、待ち続けている。思いを寄せており、隣には女雛がいてほしいと思っている。
仕丁(笑)(♀):庶民の出で。顔が笑っている。武器は妻折傘。
仕丁(泣)(♂):庶民の出で。顔が泣いている。沓台を持っているため、履物を扱う。
仕丁(怒)(♂):庶民の出で。顔が怒っている。武器は日傘。
左大臣(♂):随身の片方。左大臣。貫禄のある老人。弓と刀を使う。男雛の家来。何より規律や礼儀を重んじている
傍輩の右大臣のことはいけ好かないが、大切な仲間だと思っている。
右大臣(♂):随身の片方。右大臣。若い男。弓と刀を使う。男雛の家来。規律や礼儀をあまり大事に捉えていない。
傍輩の左大臣は、口うるさい上司として捉えている。強い女が好き。
謡(♂):五人囃子の謡い。唯一喋れる少年。あっけらかんとしている。
女雛に対してあまり良い印象を抱いていないが、平和を願っている。
※最後に、雛祭りの歌を鼻歌で歌ってもらうところがありますが、歌う部分や長さはお任せいたします。
だんだんとフェードアウトしていくように去って行ってください
官女(♀):雛祭り頂上決戦の選定者。三方を持ち、口花を操る。冷たい印象を持たれることが多い。
男雛tと女雛に対して、とある感情を抱いている。
※一人の際は、官女(かんにょ)、3人の際、三人官女(さんにんかんじょ)、と読みます
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【配役一覧】※兼役あり
N(不問):
女雛(♀):
男雛/左大臣(♂):
官女/仕丁(笑)(♀):
謡/仕丁(泣)(♂):
右大臣/仕丁(怒)(♂):
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比率:3:2:1
※5人で演る場合、Nが不問なので、どなたでも兼ねられます。
男雛との兼ね合いがオススメです。
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オンリーONEシナリオ2526
3月、「雛祭り」をテーマにしたシナリオです
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ー台本使用規約についてー
・各種配信媒体にて、上演することは自由です。
使用する際、任意ではありますが、励みになりますのでご連絡をいただければ幸いです。
アーカイブやライブ配信を喜んで見に行かせていただきます。
x(旧Twitter):https://twitter.com/@siki_oriori_wt (四季 折々)
・舞台公演やボイスドラマなど、金銭が発生する場合はご連絡をお願いします。
※投げ銭やアイテムにお金がかかる配信に関しては除外とする。
・基本的に、アドリブにて言葉を足すことや話の流れを大きく変えるようなことは禁止とさせていただきます。
性別を変えることも控えていただきますよう、伏してお願い申し上げます。
・何かございましたら、ご連絡いただければ幸いです。
メール:sikioriori0429@gmail.com
・著作権は放棄しておりません。
皆様に楽しんでいただけますよう、上記を守って遊んでください
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以下本編
男雛:3月3日、桃の節句とも謳われる、ひな祭りの日。女子(おなご)の健やかな成長と幸せを願う、伝統行事。
祝いの料理を食べ、祝いの菓子を食い、祝いの言葉を述べ、皆で慎ましく幸福を願う行事。
家族や親戚と囲む食卓。女子のなんと幸せそうな顔のことか…これが桃の節句。
N:いや、否!!ひな祭りとは、女の頂点を決める戦い。男雛(おびな)との婚姻を果たすための、儀式なり!
女雛:(ボロボロになりながら)…約束、したのだ。あやつと番(つがい)になると…。ゆえにこの戦いは、譲れぬ!!
N:――今、戦いの火蓋が切って落とされた。
ここに、雛祭り頂上決戦が、開催される!!
仕丁(怒):我らが身を持って。
左大臣:女雛(めびな)様の度量と力量。
右大臣:見定めさせていただきます!
謡:いざ、お覚悟を!
官女:手加減は、無用でございます…!
男雛:待っておるぞ、女雛。
女雛:いざ、尋常に……勝負!!
N:ひな祭り頂上決戦、開幕!!
N:緋毛氈(ひもうせん)かかる雛壇の前、十二単(じゅうにひとえ)を身に纏い、しゃなりしゃなりと歩く女雛と3名の男。
傘持ちが2名、女雛の後ろには沓台(くつだい)を持つ仕丁(しちょう)。
歩いているさなか、ふいに立ち止まる女雛。そのまま、思いを馳せるように面(おもて)を上げる。
女雛:……ようやく辿り着いたか、雛壇へ。いつ見ても荘厳(そうごん)だな。
仕丁(泣):……女雛様、失礼致します。お履き物をこちらで変えていただきます。
女雛:ほお?妾のコレでは、不足か?
仕丁(泣):いえ、暗器が仕込まれていてはルール違反。
ここまでの戦い、スベテの努力が水の泡と化すのを防ぐためです。
女雛:ふむ…それもそうだ。こんな些末なことで無に帰すのは、バカバカしい。受け入れよう。
仕丁(泣):では、こちらを。
女雛:ほお…花嫁下駄か。そうさな、この戦いが終わる頃、妾は晴れて男雛の伴侶だ。
履物にも気を遣わねばならない。寄越せ。
仕丁(泣):はい。
こちらの花嫁下駄は、二本歯、足を乗せる木版(もくはん)には畳表(たたみおもて)を誂(あつら)えております。鼻緒は太めに拵(こしら)えております。
女雛:なんとも履きにくい。これからのことを考えると、気が滅入るな。
仕丁(泣):そう言わずに。では、おみ足を。
N:仕丁は持っていた沓台をおろし、女雛の前に揃え、眺めている。
置かれた履物を女雛はゆっくり履き替え、十二単の裾を揃える。
女雛:だがこれで、ようやくというやつだな。
仕丁(泣):左様でございますね。
女雛:…これで妾は正式に、婚姻候補なのか。
仕丁(泣):左様でございます。
女雛:……それより、決戦はいつ始まるのだ。
仕丁(泣):そうですね、女雛様のご準備ができましたら、いつでも、今からでも…。
女雛:(遮るように)では開戦だ。今から、な!
仕丁(泣):がっ!!
N:女雛の右足が、仕丁の顎を的確に捉え、下から上へと思いっきり蹴り上げる。
女雛:ほれ、油断するからだ。お前が悪いぞ、泣き顔。
それで、お前らは何もせず傍観を決め込むか?
N:残りの仕丁2名は女雛に襲い掛かる。
仕丁(笑):候補ごときが、図に乗らないでくださいまし!
野点・妻折長柄傘(のだて・つまおりながえがさ)変形、構築!はあっ!
N:傘袋に入っていた妻折傘(つまおりがさ)に柄(え)を付け、まるで薙刀のように振るう。広がったリーチに、女雛は思わず飛びすさる。
女雛:ふっ!くくっ、ただの傘でないことは知っておったが、まさかこんなに得物が長いとは。やるじゃないか、笑い顔。
仕丁(笑):女雛様、そうお笑いになるのも今の内ですよ?
仕丁(怒):そうだ、あっしがいること、お忘れなきよう!
女雛:くっ、眩しい!
仕丁(怒):あっしの傘は日傘。日に当てられた傘は、光を収束し、閃光を放つ!
仕丁(笑):一瞬でも隙を作れれば、こちらのものですよ。
庶民の出ではありますが、お舐めにならない方がよろしい!はああっ!
女雛:……ふっ。
仕丁(笑):…な、に?
仕丁(怒):莫迦な…!
女雛:どこに攻撃が来るかなど、予想はついておる。
それを手で止めることなど…造作もないわ、小童ども。単調な動きほど、分かりやすいものはないぞ。
仕丁(怒):いや、それにしても、指1本で止めるなど到底不可能だ!
仕丁(笑):つ、妻折傘ですよ!?重量も、私の筋力も、十分なはずです!
女雛:いや、違うな。妾はほかの女雛候補と乱闘を繰り広げてきたのだ。この程度、止められず何が婚姻候補か!
まずは、お前らを沈め、この先へと進ませて貰う!!ふっ!
仕丁(笑):なっ!
N:女雛は、止めた妻折傘をしっかりと掴み、引き寄せ、笑い顔が女雛の懐に入る。
そのまま肘にて、顔面を容赦なく打つ。
女雛:はあっ!
仕丁(笑):ごっ!!
女雛:ほお……?
はは、笑い顔が苦痛に歪むかと思うたが…。なんだ、変わらんのだな。
つまらぬよ、お前は。
仕丁(怒):笑い顔!!おのれぇ…ならば、これで!お覚悟ぉ!!
日傘・高熱線(こうねっせん)!!!
N:日傘によって集めた日の光を、ビームのように細く収束し、女雛目掛けて放つ。
熱線が光の速さで向かってくるが、軽業師のように上へと飛び、避ける。
飛んだ先には、怒り顔のてっぺん。重力に従い、落ちる体のバランスを整え、踵落としを食らわせる。
女雛:ふっ!
仕丁(怒):ぐが!!こ、のぉ…!
女雛:お前も、分かりやすい攻撃を仕掛けてくるものだ。
もっと策略、連携を考えよ。甘すぎる。
仕丁(怒):こんな…こと…。(倒れる)
女雛:……さて、これからが本番だ。待っているがいい、男雛よ。
N:仕丁3名を倒した女雛は、下駄をカラコロと鳴らし、悠然とした態度で地を踏みしめる。緋毛氈に包まれた雛壇の下。誰の気配もない。
女雛:さあ、次は誰だ!妾はここにいるぞ!
……はっ!?
N:瞬間、矢音(やおと)が横切る。
女雛が警戒すると同時に、どこからか2名の男が現れた。
女雛:…随分なご挨拶ではないか。
左大臣:…女雛様。今のは警告でございます。
右大臣:この先を行(ゆ)きたくば、我らをお倒しになってお行きなさい…ってね!
N:貫禄のある老人と若々しい男。それぞれ弓と矢を構えている。
女雛:……なるほど。しかし残念だな。お前たちの矢は当たらなんだ。
左大臣:ほっほ、御冗談を。きちんと狙いましたよ、貴女様の横を。
右大臣:すぐに倒れられてはつまらないですからね。
それにしても…候補との大乱戦をくぐり抜けた女雛様は、どんな大物かと思いましたが…これはこれは。
左大臣:これ右大臣、口を慎みなさい。仮にも婚姻候補、そのような軽口、処分されても文句は言えませぬぞ。
右大臣:ああ、申し訳ございません。…けれど、女雛様はあれですね、随分と細っこい…。
左大臣:これお主!!
右大臣:はいはい、わかってますよ。そんじゃ、そろそろ、仕留めますか。
左大臣:(溜め息)……。
我ら随身(ずいじん)、左大臣と。
右大臣:右大臣。いざ、尋常に勝負!
女雛:ふん、身の程も弁えられぬ家来風情が。妾に敵うなどと思い上がるな、よ?
N:女雛は地面を蹴り、素早い動きで懐に入ろうとする。
しかし、それよりも早く、随身2名は左右に分かれ、矢を放つ。それは女雛を挟み込むように、双方から迫り来る。
女雛:はっ、浅はか…!
N:手早く懐から桧扇(ひおうぎ)を取り出し、くるりと独楽(こま)のように体を回す。呼吸をするかのようにひと扇(あお)ぎ。
すると、一陣の風が纏わりつき、射ぬかんとばかりの矢を鎮める。
左大臣:……ふむ、なかなかやりますな。
右大臣:へえ、扇いで落とす芸当、思いつかなんだ。
(小声)…興味が湧くなあ。
女雛:こんなものではないだろう?かかってこい、妾がスベテ、はたき落としてやろうぞ!
右大臣:威勢がいい女雛様、たまらないなあ。何をするか、想像もつかない。
左大臣:右大臣、追い込みますぞ。
右大臣:承知!
左大臣:円環・御拾(おひろい)の流鏑馬(やぶさめ)!
N:随身2名が、円を描く様に大きく走り回り、矢を放っていく。
左大臣:我らが矢、とくとお楽しみくだされ。
右大臣:果たしてこれだけの矢、受け止めきれるでしょうか?
女雛:おお、矢番え(やつがえ)から射抜くまで速いこと…。
だが、それがなんだ、風を纏わせておる妾の方が優位である!桧扇・颶風(ぐふう)!!
N:桧扇を扇ぎ、さらに旋風を巻き起こして無力化する。
それの繰り返しである。が、しかし、そんな女雛にも隙は生まれた。
左大臣:まだまだ、行きますぞ!はあ!
右大臣:こちらもお忘れなきよう、ふっ!
女雛:…くっ、いつまで矢を射るつもりだ。さすがにこうも多くては…。
N:回転しすぎたせいか、女雛の体勢がぐらりと傾く。
それを狙ったかのように、右大臣が女雛の足元近くへ矢を放ち、左大臣が拳に力を籠め、腹に一発食らわせる。
左大臣:正拳突き!ふっ!
女雛:ぐぁっ!
N:女雛は右大臣の傍まで吹っ飛ばされ、首元に刃を突きつけられる。
右大臣:いらっしゃいませ。…さて、この距離なら外しませんよ?女雛様。
女雛:くっ……。
右大臣:……。
女雛:……どうした、やらないのか?
右大臣:ふふ、女雛様。
男雛様との婚姻を諦めて、わたくしに致しませんか?
女雛:なんだと?
右大臣:戦う女子は嫌いじゃありませんし、わたくしは寛容ですから!
どうにも、貴女を気に入ってしまいましてね…わたくしの”モノ”にしたいんですよ。
そして…暴れる貴女を屈服させて調教するのも悪くはない。さて、どうです?
女雛:はっ、戯言(ざれごと)を。だからお前は――弱いのだ。桧扇・一閃!
N:桧扇を横に薙ぎ、風の刃が右大臣の腹を切り裂く。
右大臣:な、に…?
左大臣:右大臣!!
女雛:選定者とされているお前が、妾に現(うつつ)を抜かすなど…笑止千万!
選抜からやり直せ、雑兵(ぞうひょう)が。
左大臣:女雛様、よくも……!
は、ああああああ!
N:脇に携えた刀を抜き、地を蹴って迫り来る。
それを女雛は冷ややかに見つめ、桧扇を薙ぐ。
女雛:さらばだ、左大臣よ。…傍輩(ほうばい)は選んだ方がよいぞ。
桧扇・一閃!!
左大臣:が…はぁっ!
女雛:頭に血が上りすぎだ。怒りで我を忘れて攻め込むなど、愚策にもほどがあるぞ。
……まあ、もう聞こえておらぬか。
兎にも角にも、次だ。これ以上、男雛を待たすわけにはいかぬ。
N:横たわる随身たちを越え、女雛は雛壇を1段、2段と上がっていく。
かなりの高さがあるのにも関わらず、軽々と着地していく。
女雛:さて、次は…誰が相手してくれるのか?
謡:まるで、飢えた獣ですね。そんなに戦いたいなら、ここは物足りないんじゃないですか?
官女:そうですね。男雛様の隣に座る資格、無し。
N:4名の楽器を持つ少年たちに、口を開きこちらを見据える少年。
さらに、3名の官女(かんにょ)が壁のように立ち塞がる。
女雛:…この現状が面白くなくて出てきたと見える。
それで、これはルール違反にはならぬのか?
謡:大丈夫ですよ、抵触していません。徒党を組んではいけない、というルールはありませんからね。
官女:ルールはルール。わたくし共は、キチンと守らせていただいております。
女雛:ほう…では、寄ってたかって袋叩きとは、罪悪感はないのか?
謡:ないですね。
官女:ないです。
女雛:ならば安心した。ならば、手加減無用だ。
N:双方、動き出す。
五人囃子は女雛を囲うように、等間隔で離れ、長柄銚子(ながえちょうし)を持った官女が五人囃子に酒をかけながら回る。
女雛:(M)なんだ?あの官女、酒をかけて…何をしている?
まあいい、五人囃子を先に潰す。
謡:さあ準備は整いました。行きますよ、皆さん!
N:それを合図に、太鼓、大鼓(おおかわ)、小鼓(こつづみ)、笛が音を鳴らし始め、謡が口を開き、謡い始める。
すると、女雛の動きが止まる。
女雛:な、んだ!?
体が、重い……音楽に、何か……ぐぁっ!!
官女:堕ちるがいい。貴女様に、男雛様の隣は相応しくありません。
女雛:く…指すら、動かせぬ…!ここまで、なのか…男雛…。
N:女雛は崩れ落ち、何か重いものを載せられているように動かなくなった。
一瞬眠りに落ち、頭に走馬灯をチラつかせる。
0:回想
0:女雛候補戦、真っ只中
N:過去の戦い、*
女雛:ふふ、お前らと妾の信念は大いに違いすぎる。いくらかかってこようと、男雛の隣は譲らぬぞ!
はっ、なんと妾一人狙い撃ちか……ならば、そこをどけぇ!!!
有象無象が、妾の邪魔をするでない!ええい、しがみつくな…がはっ!!
……腹に蹴りを入れたぐらいで、調子に乗るなよ、木偶(でく)が!!
N:一人狙い撃ちするように、他の女どもが群がる。
襲い掛かってくる者から、殴り、蹴り、投げ飛ばしてと返り討ちにしていく。
女雛:くそ…!妾は……妾は男雛の元に、行かねばならんのだ!!
お前らのような、卑しい女狐などに奪われてはたまらぬ!どけええぇぇぇぇ!!!
N:しかし、スベテをいなすことなど出来はしない。傷を作り、着物は千切れ、痣が増えていく。
だがそれでも、止まらない。
女雛:はあ…はあ…妾は、登らねばならぬのだ。お前らごときに、阻まれるなど……あってはならぬのだ。
妾は、約束したのだ…!
0:回想
0:男雛との約束のシーン
女雛:男雛よ、こんなところに呼び出して、何用だ?
男雛:ふふ、よく来たな。……近々、雛祭りが行われることは知っているだろう?女雛を決める苛烈な戦いだ。
私は……貴様が隣にいてくれたら、心強いと考えておる。
だがそのためには、勝ち抜いていく必要があるのだ。ただ、無理をしてほしくない。
女雛:…何が言いたい?
男雛:本音を言うとな、この戦いに参加せずとも、私の隣にいてくれないかと思うておる。
女雛:男雛よ。お主が隣にいてほしいというのなら、喜んで妾は傍にいよう。
そのために戦うというのなら、勝ち取るまでだ。
…妾だって、其方の隣にいたい。こうして、いつまでも一緒にいたいのだ。
男雛:ふふ、存外、勝ち取るのは貴様かもしれんのう。…そんな気がしてならぬ。
女雛:ははは!それは、予言か?それとも願いか…?
安心せい、男雛よ。妾のために隣を空けておけ。必ず、手中に収めて見せようぞ!
――お主の隣は、妾だけだ。
0:回想終了
0:女雛候補同士の戦いに戻る
女雛:(ボロボロになりながら)…約束、したのだ。あやつと番(つがい)になると…。ゆえにこの戦いは、譲れぬ!!
うああああああああああ!!!!!
N:獣のごとく叫び、女雛候補たちに突き進む。
女雛:ま、だ……まだあああああ!!!!
男雛、お主の隣は、妾のモノだっ!!!!阻むもの皆(みな)、容赦はせぬ!!!!!
さっさと道を開けろ、烏合の衆が!!!!
N:集まりくる候補たちを蹴散らし、ついに最後の1人を沈めた。
女雛:はあ、はあ…………ふ、ふふ、ふはははは!!!
この戦、妾の勝利だ!!!!
0:女雛候補戦、回想終了
女雛:そう…だ。妾は、約束…したのだ…。男雛、今…ゆ、くぞ…!
ぐぅ…、うあ、あああ、ああああああああ!!!!!
N:意識が戻った女雛は、体にかかる不可思議な力をありったけの咆哮にて振り払う。
それに驚いた五人囃子は、リズムが乱れ、三人官女(さんにんかんじょ)はたじろぐ。
女雛:なんだ、そういうことか。
謡:い、いけない、早く、体制を立て直して…うわっ!!
N:瞬時に女雛は、太鼓持ちごと、謡に向かって投げつける。
女雛:振りまいた酒で力を増し、音により重圧を作り、妾を押しつぶしたということか。
ならば、捻り潰すまでだ。妾の咆哮でな。
官女:いい加減にしてくださいませ!今のご自身がどのようなお姿か、しかとその目に焼き付けなさい。
明かせ、暴け、その内なるモノを顕在化(けんざいか)せよ、口花(くちばな)!
女雛:つっ!…これは、桃の花?
なんだ桃色が…。
N:三方(さんぼう)を持った官女が桃の花を一輪、女雛の肩に目掛けて刺す。
美しいピンク色がだんだんと黒く、染まる。
女雛:なんだ、この花は!?
官女:それは、今の貴女様の姿です。
……なんと醜い色か、先ほどの美しい花が見る影もない、可哀想に。
女雛:……。
謡:男雛様のためなら、どんな犠牲も厭(いと)わない…度量も試されている神聖な儀式において、それが一番いらないものです。
官女:それを見極めることが、我らの使命。邪気に塗(まみ)れた女雛など、資格無し。
女雛:…妾が。…そうか。
官女:焦がれる気持ちに胸を灼かれ、縋る姿は人でなし。誰がその方について行きたいと思うでしょうか。
謡:…やりすぎたんですよ、貴女は。
女雛:はは……この戦いは、倒すことだけが目的ではない。そう、分かっていたつもりなのだがな。
正しく使っていたはずなのに、使われていたとは…。
N:女雛はゆっくりと、謡に向かって歩いていく。
女雛:なあ…。(手を伸ばす)
謡:まだやるおつもりで…!
……え?
N:女雛の手は謡の頭に触れ、慈しむかのように撫でる。
女雛:(謡の頭を撫でる)…すまなんだ。
謡:…は?
女雛:そうよな。手綱のない獣を御することは、すなわち力のみ。
其方らは正しい。
官女:……。
謡:…えっと。
女雛:妾はこの舞台を降りよう。
謡:…!
官女:…!
女雛:約束を違えてしまうが、このような者が隣に座るなど…。
最初は、本当に…ただ傍にいたかっただけなのだ。
だが、己の力に振り回されていては、いつか大事な人をも傷つけるやもしれぬ。
謡:あ……。
官女:(溜め息)……女雛様。
女雛:なんだ。
官女:合格にございます。
女雛:……なんだと?
官女:この戦いは、勝つだけではダメなのです。己に目を向け、男雛様が必要としている強さとは何なのかを知る必要があります。
なにせ、頂点にいらっしゃる方の隣に座るのです。威嚇だけでは、務まるはずがありません。
……男雛様への想いを、しかと忘れてはなりませんよ。
謡:正直、殺気立って来られては、抑えるしかないんです。
これまでの戦い方を見ていたからこそ、官女たちと手を組むしかなかった…。
きっと、殺す勢いで来るだろうと。だから…。
女雛:ああ…其方らに諭されるまで、己を知ろうとはしなかった。
まだまだ未熟だな…感謝する。
官女:お分かりになれば、よろしいです。
女雛:…ところで、お主はどこかで見た気がするが…。
官女:……気のせいでは、ございませんか?
女雛:…はて、つい最近見た気がするが…。
謡:まあまあ、それより女雛様。これだけはお聞かせください。
官女:…女雛様の思う、男雛様の隣、お傍を求めるその理由(わけ)とは。
女雛:ふ、決まっておろう。
――妾の答えは!
N:時間は過ぎ、とある桃の木の下。男雛がそこに一人、佇んでいる。
男雛:…桃の香り。甘く、淡い…恋を連想させるような…ふふ。
私はこの時を楽しみにしておった。いつかいつかと、待ちわびたのだ。
(振り向く)――のう、女雛よ。
女雛:ああ……今、馳せ参じたぞ、愛しい男雛よ。
この頂上決戦、妾とお主の勝利だ。
男雛:ふふ、見ておったが…果敢に攻め入ったのう。
本当に、獣のそれだった。そんなにも、この座が欲しかったのか?
女雛:いいや、妾の願いは変わっておらぬ。相も変わらず、お主の傍であり続けたい…。
こんな女を、笑うか?
男雛:…ふ。こっちへ来なさい、女雛よ。
男雛:女雛。よくこの戦いを勝ち抜いた。私の隣で、貴様の命が費えるまで、傍にいることを宣言しなさい。
女雛:はい、男雛様。全身全霊尽して……貴方を生涯愛すること、ここに宣言いたします。
男雛:(女雛の手を取る)……もう離さぬぞ、私の女雛よ。
女雛:ふ、約束したであろう。お主の隣は妾のモノだ。
男雛:ああ。
では、これにて…雛祭り頂上決戦、終了を宣言する。
N:終了を宣言し、女雛と男雛は抱き合う。待っていたかのように桃の花が、祝福の花吹雪を散らす。
一方、雛壇では、官女と謡が話し込んでいる。
官女:…黒く染まった桃の花が、再度戻るなど。
謡:存外、女雛様は純粋で、単純なのかもね。
官女:そうですね。あの答えには、私も驚きましたから。
0:回想
官女:…女雛様の思う、男雛様の隣、お傍を求めるその理由(わけ)とは。
女雛:ふ、決まっておろう。
――妾の答えは!
男雛の見る世界は、妾の世界スベテだ!あやつが欲しいモノは、妾の欲しいモノ。
それが答えである。
0:回想終了
官女:なんとも、傲慢であり、浅はかな答え…。それを述べた後に、花色(はないろ)が戻るなど…祝福しているようなものですね。
謡:そうだね、なんか釈然としないけど…でもそれが、正解だったのさ。
右大臣:釈然としない…ええ、わたくしもそう思いますよ。…悔しいことに。
謡:あれ、右大臣。起き上がってきたの?随分派手にケガしてたけど。
右大臣:ええ、まったく…いい一撃をいただきました。
ですが、手加減してくださったようで…仕丁たちも、左大臣も大したケガじゃございません。
官女:…なかなかにしぶといですね。そのまま動かないのではないかと、期待したのですが。
右大臣:辛辣ですね。ですが心配してくださったみたいで。
それで、番(つがい)になったお祝いをせねば、という流れでしょうか?
官女:…左様です。なので、そろそろ行かなければ。
謡:くわえの銚子と盃?
官女:はい。これは、婚姻を遂げた御二方に飲んでいただく酒にございます。
謡:なるほどね。夫婦固めの盃か。…幸せになってほしいな。
右大臣:まったく、良い当て馬ですよ、わたくし共は。
官女:しかし、右大臣殿は迫真の演技でしたね。本当、惚れているのかと思ったほどに。
右大臣:ふふ、あんなに強い…芯を持った女性に出会ったのは初めてです。
胸を射られました。
謡:本当かなー?右大臣って、食えないから。
右大臣:(官女を見る)それより…いつでも、わたくしの胸は空いておりますよ?
官女:……それでは、失礼いたします。くれぐれも、お大事に。
0:官女、去っていく
右大臣:…振られてしまいましたか。
謡:空いてる、だなんてかっこつけて…。本当に、何しに来たの、右大臣。
右大臣:(遮るように)さて、わたくしは戻ります。左大臣に、油を売っていることがバレたら大目玉ですから…。
謡:(被せるように)彼女の様子を見に来た?
右大臣:……まさか。女雛様がどうなったか、見に来たのですよ。独り身だったら可哀想じゃないですか。
謡:…嘘つき。
右大臣:なんとでも。しからば、これにて。
N:官女、右大臣もいなくなったその場で、謡は空を見上げる。
誰が聞いているわけでもなく、虚空に向かって言葉を零した。
謡:……傍観者よ、その去る気持ちはいかに。
そして、候補だった者よ、どんな思いでその盃を運ぶのか。
ああ、今日の出来事は、あまりにも大きいな…。
謡:ふふ、なんてね。そろそろ僕も行かなくちゃ。
あ、そうだ!僕は謡だもの。やっぱりお祝いに歌うのはあれに尽きる。
(雛祭りの歌を、鼻歌のように歌って去る)
~fin~
雛祭り頂上決戦—女雛戦記— @siki_oriori
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