第22話 健気の境界線
昼下がりの中庭。アメリアは、ふと見覚えのない女性とすれ違った。
銀髪のロングヘア、凛とした空気、そして……どこか、レイと似た雰囲気。
「あの……すみません、もしかしてご親族の方ですか?」
「まあ、気づくなんて優秀ね。私はグレイス。レイの母です」
その瞬間、アメリアの背筋がピンと伸びた。
見上げるその女性は、まるで“聖女”のような神々しさを放っていた。
「あなたが、あの子の近くにいる……アメリア・ロウエルさん、だったかしら?」
「は、はい。私はただ……同じクラスで、何かとお世話になっていて……」
「ふうん……“お世話”、ね」
グレイスは柔らかく微笑んだまま、しかし一歩、アメリアへと近づいた。
「一つだけ、教えてくれるかしら?」
「……はい」
「あなたは、レイのために“何”をしてあげられるの?」
アメリアは言葉に詰まった。問いの裏にある“選別”の空気に、直感的に気づいたからだ。
「私……彼の、力になれたらって……」
「ふうん。それならもう一つ」
グレイスはゆっくりと、アメリアの頬に手を伸ばすような仕草をして——止めた。
「……あなたのような子に、あの子は救えない」
その言葉は、刃より鋭く、氷より冷たかった。
「彼は、ただ優しいだけじゃないの。あの子の苦しみは、そんなに浅くないのよ」
アメリアは唇を噛み、しかし視線を逸らさなかった。
「それでも……私は」
「“それでも”? その言葉、何度も聞いたわ。
でも、その“覚悟”が本物かどうか——時間が証明するのよ」
グレイスは踵を返し、まるで“審査終了”とでも言うようにその場を後にした。
グレイスは歩きながら、スカートの裾を整えるように小さく息を吐いた。
「なるほど……確かに、誠実な子ね。
でも、“誠実”だけでは、あの子は守れない」
彼女の瞳には、かすかな憂いと、確かな決意が宿っていた。
(レイの周囲に集まる子たち……どの娘も“想い”はある。けれど、それが“重さ”になる前に)
「本当に必要なのは、“静かな祈り”ではなく、強固な意志なのよ」
手元の懐中時計を開くと、レイの小さな頃の笑顔が描かれた写真が見えた。
「あなたの笑顔を守れるのは、この母だけ」
アメリアはその夜、寮の部屋で手帳を開いていた。
そこには、入学当初から書き溜めてきた“レイ観察日記”が綴られている。
「困っていたクロエさんを助けてた……けど、“助けた”とは言わなかった」
「模擬戦で負けても怒らない。むしろ褒める。強いのに、優しい」
「お弁当を一緒に食べようって言ったら、断られたけど、“気を遣わせたくない”って……それって」
アメリアはページをめくる手を止めて、そっと顔を伏せた。
「レイ様のために、何ができるんだろう……」
しかし、心の中で静かに芽生えた何かがあった。
それは、涙ではなく——確信。
「私、逃げない。あの人が誰かを拒んでも、私は——居続ける」
ナナミの感情ログには、次のような文字が浮かび上がっていた。
【アメリア:意志値上昇(+12.7%)】
【新タグ追加:“受容型執着”】
ナナミは思わず、机に顔を伏せて呻いた。
「だから言ったのに……グレイスさんが焚きつければ、余計に“覚悟”が固まるって……」
そして、苦笑い。
「でもまあ……彼女たちの進化は、もはや止められない。
愛と正義が交差したとき、一番怖いのは“優しすぎる子”の変貌だからね」
翌朝、アメリアは誰よりも早く教室に来ていた。
窓から差し込む朝日を浴びながら、彼女は机にノートを開いた。
「今日から、もっと強くなる。私にできる方法で——」
その様子を、魔導レンズ越しに確認したグレイスがふっと微笑む。
「……意外と、しぶといのね」
【ナナミログ保存完了】
《個体名:アメリア・ロウエル》
《モード遷移:“健気”から“覚悟”へ》
ナナミは静かに目を閉じた。
「次に揺れるのは、誰——かな」
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