第23話 “観察者”たちの共闘
学園の地下管理棟。人知れず存在する秘密会議室に、一人の少女が静かに立っていた。
ミーナ・グレイ——気配遮断と記憶魔法に長けた図書室の影。
彼女は無言のまま、黒い封筒を一枚、テーブルの上に置いた。
「……分析完了。提出」
「ご苦労でした、ミーナ嬢」
応じたのは、執事長セバスチャン。
レイの護衛として絶対的信頼を置かれる男である。
封筒を開いた彼の眼が、一瞬だけ鋭く光った。
「これは……全ヒロインの感情推移と危険度を時系列で可視化したものか。しかも、未来予測アルゴリズムまで……」
「観察は日課。記録は生き甲斐」
ミーナの声は感情をほとんど含まない。だが、その執念深さは、データの濃度に表れていた。
「これはもはや、諜報機関の域ですね……あなたの才能、見直しました」
しばし沈黙が流れた後、セバスチャンはゆっくりと立ち上がり、ミーナに向き直る。
「ミーナ嬢。もしよろしければ、私と共に——坊ちゃまの安全を守りませんか?」
その言葉に、ミーナの目が微かに揺れた。
「共闘、要請?」
「はい。あなたの“観察”と私の“実行”が合わされば、かなりの先回りが可能になるはずです」
ミーナは数秒沈黙したのち、コクリと一度だけ頷いた。
「了承。私の“記録”は、坊ちゃまのためにある」
ミーナが初めてセバスチャンと接触したのは、まだ一年も前のことだった。
彼女が図書室で“記録用魔導ノート”の購入申請を出した際、審査を担当したのが彼だった。
「この数……何千ページにも及ぶ観察ログ? ……君は何者だ?」
「ただの影。けれど、必要なら誰よりも正確に見る」
その時、セバスチャンは確信したのだ。
この少女はただの“変わり者”ではなく、潜在的に“最強の分析官”になり得ると。
現在。
共闘を結んだミーナとセバスチャンは、レイのスケジュールと各ヒロインの動線を重ねてマップ化し始めていた。
「明日は午前中にセシリア嬢の訓練視察、その後リリア嬢との昼食の可能性。午後は図書室を経由して帰寮」
「同時にクロエ嬢が“護衛任務”を口実に接近予定。
さらに、ベルナ先生が“健康チェック”を強行すると予想」
「……もはや戦場」
「ですな」
互いに言葉少なだが、淡々と“監視と対策”が進行していく。
その情報を、クラリッサはすでに“盗聴”していた。
彼女の魔導式万年筆は、セバスチャンの執務室に仕掛けた小型魔法陣とリンクしていたのだ。
「ふふ……実に便利ね、忠誠心が高すぎる男と無口な少女って。警戒心が緩いの」
彼女はリリアには“無害な情報”、セシリアには“誤誘導”、アメリアには“揺さぶり”を仕掛ける台詞案まで用意していた。
「さて、準備は整った。次は“誰”を一番に崩すかしら」
机の上には、ヒロイン相関図と“想定心理フロー”が描かれたシートが広がっていた。
【次手:模擬戦イベントでの“印象操作”】
【ターゲット:セシリア、リリア、アメリア——揺らせ】
ナナミは上空の監視衛星から一連の動きを見届けていた。
「わーお。なんか静かに“戦略会議”始まってるじゃん……」
【クラリッサ:外部誘導型操作】
【セバスチャン&ミーナ:自発連携モード移行】
「レイ=優斗、あなたの周り、マジで詰将棋状態になってきたよ……」
ナナミはため息混じりに、観測ログを記録していく。
(次の分岐点は、模擬戦——静かな修羅場の始まりだね)
その夜。ミーナは新しいノートを一冊開いた。
表紙には、手書きでこう記されている。
《対象:クラリッサ・ミルデン——分析開始》
セバスチャンは執務室で紅茶を注ぎながら呟いた。
「備えあれば、憂いなし——あとは坊ちゃまが、正しく笑える未来を」
ナナミはそっと目を閉じ、ログ保存ボタンを押す。
「次の一手が、運命を揺らす」
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