34:あぁ、教えて女神様!
目を覚ますと2柱の女神が顔を覗き見ていた。
「ジ、ジヒト君かな? ん~、タダヒサ君、かなぁ〜?」
ルーティアがしどろもどろに言う。
「交じっていて分からないから、今のジヒトで良いと思う」
きっぱりと言い切るソーニャ。
はは……ここに来ると凄い落ち着くよ……
もう痛いのに耐えなくても良いんだな……
さっきまでの陰鬱とした痛みや苦しみという感情自体も消えているような感覚。
記憶の中ではボクが特異魔法の解放を使った様には思えなかったけれど、入れ替わって直ぐに使ってくれたのだろう……
あんな感覚や苦しみに以前のボクは耐えていたのかもしれない……
まぁ、ボクが解放で肩代わりしてくれたお陰で今、発狂しないで普通に会話をしようと思える訳だが……
喜んで良いのか、複雑な気分だな。
「私は私ですよ……まぁ、こちらに来て安定したから自我が戻ったと言われましたけど、これって普通はあり得ませんよね?」
「そうね……アタシ達のせいっちゃせいなんだけど、魂を無垢にしていない状態で送ったから、だろうね……?」
「こういう前例は余りない。砕けた魂を転生させる事が稀だから」
確か、交じり合う、だったか?
その辺りの話は聞けていないんだよな……
「ボクが言うには、いつかは記憶も何もかも交わって私になるとの事でしたけど、それってどういう?」
「んー? 今の魂の大部分はジヒトだから、タダヒサ側がジヒトに取り込まれるのかな? それって今のジヒトなのかな?」
「さぁ? 私に言われても困りますけど……まぁ、ボクも私も引っくるめて考えるようになっていたので、多分私なんじゃないですか?」
「あくまでも、貴方がタダヒサの理想として今まで行動を起こし生きてきた記憶や感情に対し、タダヒサのみが持つ記憶や感情が移される、と思う。だから、元が同じだから平気、のはず」
そうか、女神様達でも正確には理解できていない部分になるのか。
ただ、ボクは問題なさそうに言っていたからな……
結局は自分なのだから信じて問題ないだろう。
ただ、女神さま達の言葉で信頼が揺らぎそうだよ……
「ふ、不安になるなぁ……まぁ、ボクも平気そうに言っていたので信じましょうか」
「それで? 現状はタダヒサとしての記憶は戻ってきたの?」
「いいえ。今のボクが行った事は共有はされても、前世の共有は本当に混ざりあった時なんでしょうね」
「恐らく、自我の成り立ちが関係しているはず。前世の貴方が理想とした貴方となれば、タダヒサへの魂の救済となり溶け合う」
「そうすると、私がボクのために救済してあげるのか……少しだけ、面白いですね」
「面白い、のかな?」
面白いさ。
ボクは私を救済し、私はボクを救済する。
前世と今世での共同での救済。
通常ではありえない、私とボクの関係だ。
使える魔法も、考え方も、大分異なっているのに交わって行くのだから。
過去の辛さを変えたボク、今の幸せを見てる私。
まだ問題はあるけれど……それはきっと。
「えぇ、自然と笑ってしまえるほどには」
「じゃぁ、アンレアではタダヒサの理想である、平和の世に生きる貴方が各地を放浪して、旅する感じね。そう考えるとほとんど変わらないわね? 以前にはなかった、達成すると前世での記憶が特典で貰えます! 、って感じなだけで」
「それは結構、大きな事だとは思いますけど、そうですね。やる事は変わりませんよ……ただ、痛みで失神はもう嫌ですよ……幾らボクが負の感情の受け皿になっていても、その後の記憶の共有で気が滅入りそうですし……」
「出来ればそうよねぇ……アタシも見ていて痛いのは嫌だし」
「場合によっては、ホウジョウ商事が動くでしょう。タダヒサの言に従い、貴方を主と認め守り抜く。間に合わなければ、貴方が対抗できる程の特異魔法を自身で身につけるか、魔法で痛みを鈍化させるしかありません」
「それは……辛いですねぇ……」
「平和って、難しい事よね……神であるアタシ達ですら手をこまねいて見ているだけなのに、大勢の意思が積み重なったアンレアで、以前よりも良くなった物を更に平和にするのは難しい事よね……」
「その辺りはボクも私も、ある程度は仕方のない事だと割り切っていますよ。聖国や帝国で一方が不条理に搾取し続けていた以前が可笑しすぎたんです。後は生活が満たされ、世代が変われば、過激思想は減っていくはずです。そうなった時は少数、もしくは個人の思想次第です……ヒトをヒト足らしめる為に善悪の基準を法で定め、法によって罰するしかありません。ボクが行ったのは副作用ありきの特効薬であり、劇薬でしたからね」
苦笑しながら言うと眠気がきた。
少し眠い目で、女神達を見る。
少しだけ、そう、少しだけ、ここで休ませてもらっても良いですか……?
「そうね……もう少しだけ……もう少しだけ、時間が必要よね……魂は無事でも心は疲れたでしょう……? しっかりと休んでね」
ルーティアが言い終わると、温かな魔力を注ぐ。
「お疲れ様、ジヒト……」
ソーニャも同じ様に魔力を注ぎ、眠気でうつらうつらする私を抱えて、出現させたベッドに横たえた。
こうして、温かな女神達の魔力を頭や胸に感じながら、あやされるように目を閉じた。
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