33:真に傅く先は唯一つ
「やぁ、皆? 元気だった? 他の子も、元気、なのかな? 見た感じ仮面してて顔は分からないけど」
笑いながら言うジヒト。
「……主様」
「はは、ボクはもう
「それでも……今こうしてお話しているのは主様でありんしょう? わっちが認めた主様……」
声色は少し嬉しそうに、けれど寂しそうに言う狐の女性。
「ふふふ、そうとも言えるし、そうではないとも言えるかもね。不思議な縁だ。狐ちゃんと狼ちゃん、その他の子も失意の中、ボクが率いれ、利用してきたのに。君達はそれでもボクを主様、ご主人様と慕うんだろうね」
態とらしく悪どく言うジヒト。
「そんな事ありんせん。少なくとも、あの時の辛く苦しい只中のわっちには幼い三つ子を抱えて生きていくには辛すぎんした。主様と、
「そう。それなら御恩の代わりに1つ頼まれてくれない?」
彼女は頷くと言う。
「なんでありんしょう?」
「ボクの理想が私なんだ。だから、今後は私に付いてあげて。どうしても教団の関連で難しそうなら、魔力の負担は私にもかかるけど、ボクが出るよ。教団以外なら出ないかな。あくまでも普通の範囲で時々バタバタしたりする、そんなのんびりしているのを眺めたいからさ。私には穢れに慣れず、のんびりと生きて欲しい」
続けてジヒトは言う。
「だから君達が今よりも教団からは助けてあげて。私には見せなくて良いものはその間眠ってもらったけど、間接的な記憶は後でお互いに残っちゃうからさ。商事に所属させて貰えると今後も楽かもね? それに……いつか、ボク達は本当の意味で記憶も何もかもが交わって私になるだろうから後ろ盾がいるとボクも嬉しい」
その言葉に、やはり少しだけ寂しそうに言う彼女。
「主様に従いんしょう」
「安心した。私は魔力の放出で少し疲れちゃったみたいだ。寝かせてもらっても良いかな」
「えぇ、ゆっくり休んでくんなんし」
その場で横になるとスヤスヤと眠り始める彼。
彼が起きないようにそっと膝枕をして、彼の胸に手を当てる狐の女性。
こうして、3時間に及ぶジヒトの捜索はジヒト自身の手によって終結を迎えた。
……
その後の動きは早かった。
実行部隊が集結し、ジヒトが破壊した周辺の調査が開始される。
通信魔具がどこへ向けて発信されたかはジヒトによって不明となってしまったが、建物の残った余りから潜伏先が古い城跡と特定され、今後の調査対象として載る事になった。
そして、今回の件はやはり人族至上主義のエクシア宗教団で有ることが、教典の残骸が見つかった事で確定する。
王都にある、
当然、ジヒトに付いての情報もタダヒサの時から使用されてきた偽名であるNULL《ヌル》名義で流される事となった。
各方面統括部長や情報課といった調査、偵察、実働を行う所属のものは、必ず人前に出る際に幻影魔法の
本名と素顔を隠して活動する事は、自身とそれ以外の身が守られる、とのタダヒサからの教えだ。
現地調査員が他者から一目見て直ぐに身バレしないように実態ある業務をしながら監視をする。
タダヒサが転生直後から腐心した事が
その後は助けられた者がその意思に賛同し、数を増やしグループ企業を増やし、孤児施設や亜人族用の職業訓練施設を慈善で行いながら、現在の確固たる地位を築いた商事へと至った。
そんな
アインが1人、情報共有が完了し息を吐いて呟く。
「私達の救済者、タダヒサ。そしてジヒト。今度は私達が貴方であるジヒトをお救い致しましょう……」
祈りを込めて北の領地ラティアへ傅くのであった。
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