第2話 召喚術師、魔力トレーニングを始める
自分でも信じられないことを言うが、どうやら僕は転生したらしい。
「よーしよし、アルヴィンはいい子いい子」
「あぅ! ぁ!!」
「ふふっ。アルヴィンも心地良さそうでちゅね〜〜」
僕は今、母親に抱かれている。僕の身体は小さな赤子のサイズになっており、手足はとても小さく、僕を抱いている母親は巨人のように大きく見えてしまう。
転生したという事実にも驚きだが、死んだという事実を突きつけられたのもまた驚きだ。やっぱり連日の徹夜で身体は限界を超えてたのか……? エナドリを大量に飲んだのが悪かったのか……!?
最後にギンを抱くくらいさせて欲しかった……。寂しい気持ちと未練は心の中に積もっている。
「あぅ……うぇぇぇ」
「あら!? どうしたの? なにか悪いことでもあった?」
……っと。少しでも感情が積もるとこれだ。この身体はすぐに泣き出しそうになってしまう。
僕は感情を押し留めて、なんとか泣かないようにする。すぐに涙は引っ込み、僕は笑顔を見せる。
「あいっ!」
「あら? すぐに泣き止むなんて……。でも偉いわ。アルヴィンはいい子ね」
泣くのを我慢するだけで褒められる環境あったけえ〜〜!!
そんなことを思いつつ、これからどうしようかと考える。自分が赤子になっていたという現状を受け入れ難くはあったが、数日もすればこれが現実なんだなと受け入れることができる。
この数日で理解したことがいくつかある。
どうやら僕が転生したのは日本には程遠い異国の地のようだ。アルヴィンという名前をはじめ、父親と母親の姿、部屋に使われている北欧風の家具の数々。それらが異国だと判断させてくる。
ただ、それよりも大きな異変が二つある。
「あぅ! あぁ! あぅ!!」
「あらあら。ママの体を触ってどうかしたの? ふふっ、とっても元気でぎゅーってしたくなっちゃう!」
僕は母親に強く抱きしめられる。それは嬉しいのだが、その母親に前世とは違う異変があるのだ。
母親の身体の中央、ちょうどへそのあたりが光り輝いているのだ。黄金色の光が、キラキラと輝いている。
「帰ったぞッッ!! アルヴィンは元気か!?」
「あぅ!? うえええええん!!!」
「もう、あなた。そんな大声を出したらアルヴィンがびっくりするでしょ? 泣いちゃったじゃない」
「う、うむ。すまん……。アルヴィンの顔が見られると思ったらついな」
あ〜〜〜〜心臓に悪りぃ〜〜〜〜!!
僕の父親は身体がデカければ、声もでかい。ついでにへその光も強大だ。燃えるような赤髪に鋼鉄のように分厚い身体、へそで強く光り輝く赤と黒色の光。
母親と父親、二人の光の強さは格段に違う。父親の光は母親のそれの三倍以上の輝きを放っている上に、光の粒子一つ一つが線香花火のような輝きを見せている。
一体この光はなんなんだろうか……?
異変の一つ目はその光。二つ目はその光に関すること。
その光は僕の中にもある。この光、虹色に光っている上に温かったり、冷たかったり、穏やかに渦巻いていると思えば急に荒々しく刺々しくなってわずかな痛みを感じさせてくるのだ。
このヘソの中にある光。これが妙な違和感となっている。前世では感じたことがないものだから、寝る時もついつい気になって眠れなくなる。
「あぅ、ふぇ……」
「おお〜〜! 泣き止んだか! 偉いぞ! 流石は我が子だ! きっと強い召喚術師になるに違いない!!」
「アルヴィンの魔力がどんな属性になるのか楽しみね。それに、どれだけ大きくなるのかも」
「お前と俺の子だ。きっと大きな魔力を持っているに違いないさ!」
父親が高い高いをしながら大声で口にする。父親と母親はよく魔力や召喚術師というワードを口にする。
日常会話で使わないような言葉トップ10には入る言葉だろう。けれどそれを真面目に、自然的に使っているということはそれらはこの世界に存在するものなのだろう。
だとしたらヘソのあたりにあるこの光。それが魔力なんじゃないかと予想できる。
アニメとか漫画だと大体魔力みたいな不思議パワーは、身体の中や外を自由自在に動かせることが多い。
もしかしたらこれも動くんじゃないのか? 試してみる価値はありそうだ。……だけどどうやって動かすんだ?
こういうのは想像力が大切だとよく聞く。ヘソの光を全身に張り巡らせる感じ。なんか足先に光の感覚がないのは気持ち悪いから、足先に光を伸ばしてみよう。
伸びろ〜〜伸びろ〜〜と光に意識を向けつつ光を足先へと伸ばそうとする。にょきりと光が伸び始めて、少しずつ光が足へと伸びていくのを感じる。
ヘソから下腹部、腰、お尻へと伸びていく光。
「おい、ミルシア。アルヴィンの魔力が動いていないか?」
「何を言っているの貴方。魔力操作なんてできるようになるのはもっと先よ。大体、赤ん坊は魔力を感じることもできないんだから」
「そうかもしれないが俺とママの子だぞ? 実は魔力を感じて動かすことだってできる天才かもしれないぞ!」
「もうあなたったらっ!」
両親の惚気を聞きつつ、僕は確信する。僕の魔力は動いている……! 少しずつ、のんびりだけど確かに魔力が伸びつつある。
けれど腰で魔力の動きが急に遅くなってきた……。イメージする力が足りないのか? もっと強く足元へと魔力を動かすイメージをしてみる。もっと強く魔力を足元へと押し出すイメージだ。
重たいものを全身を使って押し出すような、下半身で踏ん張る感じ! ちょっとずつ魔力がお尻の方へと流れていくぞ! この調子なら魔力を足元へ流すことも……。
「む……。暖炉が切れているな。これはいかん」
「寒いと思ったら……。あなたお願いできるかしら?」
「任せたまえ。狐火、出番だ」
僕を抱えている父の右腕が赤く光る。次の瞬間、父のそばにボウッと炎が灯る。それはバスケットボールくらいの大きさを持った火の玉だ。
それと同時にバチリと静電気が走るかのように、父の腕から僕へ目掛けて何かが逆流してくる。その勢いで魔力は下半身へ流れるが、僕はそれに思わずびっくりして泣き出してしまう。
「うええええん! うええええええん!!」
「む……! しまった! 召喚術を使った影響で魔力が逆流してしまったか……!」
「もう! あなたしっかりしてくださいっ! 大丈夫ですよ~~。これは怖くないですからね~~! 魔術は怖くないですよ~~!」
母が僕のことを抱きながらあやしてくれる。僕はすぐに泣き止む。それよりも、召喚獣……魔術だって?
この世界にはそんなものがあるのか?
「アルヴィン。よく見ておくんだ。これがグリモワール家に伝わる召喚術だ」
父がそういうと火の玉はふよふよと浮遊して暖炉の中に入っていく。すると暖炉の中に火が灯る。
その後、火の玉はふよふよと戻って、父の周りを浮遊する。
「召喚術で呼び出した召喚獣はいろんなことができるんだぞ〜〜! ほらっ!」
狐火は父の言葉に反応して、炎の色を変えたりする。それが楽しくて僕は興奮の声を上げる。
「きゃっ! きゃっ!」
「喜んでくれてるみたいでよかった」
「ああ、この子には偉大な召喚術師になって欲しいからな。召喚術をみせてよかった」
と言いつつ、父は僕をベッドの上に戻す。
召喚術にはびっくりさせられたが、当初の目的である下半身に魔力を流すことは達成できた。
下半身に魔力が行き渡り、満たされている。恐らく、父の魔力が外部からのいい刺激になったのだろう。
下半身がすごく不思議な感覚だ。今まで味わったことがない感覚がする。
温かさ、冷たさ、やさしさ、荒々しさ、それらが下半身を流動的に循環している感じだ。そして下半身まで魔力を流して分かった。
それらの感覚を統合して、活力が湧き出てくるような感覚だ。そしてもう一つ。
もしかしたら魔力を引き出す可能性があるかもしれない。色々と試してみる価値はありそうだ。
「…………やはり魔力が循環している。魔力も強まっている気がするぞ」
「あなた。ボソボソと呟いていないでこっちを手伝ってちょうだい!」
「あ、ああ! 分かった! おぉ〜〜よしよし! いい子だな我が息子よ!」
僕は確かに父親の言葉を聞いた。魔力の循環。これをやると魔力が強まっていくという話があるなら、ちょっとやってみよう。
今まで流されて生きてきた人生だ。高校も大学もただなんとなくで受けてきた。自発的にこれがやりたいと思って生きてきたことはない。
結果として前世はロクな死に方はしなかった。
ブラック企業に入社して、毎日奴隷のようにこき使われて、終電まで働くような日々。連日徹夜の仕事で、最後には鼻血を出して倒れて死亡……僕は何もできないままこの世を去った。意味のない人生だっただろう。
ブラック企業に甘んじたのも、自分のスキルやキャリアに自信を持てなかったのも、全て僕が努力しなかったから。
現状を嘆くだけで変えなかったのは自分のせいだ。
同じ過ちは二度と繰り返さない。そのためにもまずは魔力の扱いを頑張ろう。
努力して、努力して、努力して、今度こそ意味のある人生を掴み取るために!
僕はそう決心して身体の中の魔力へ意識を張り巡らせるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます