凡人の俺が異世界に転生して赤ちゃんの頃から鍛えまくった結果〜世界最強の召喚術師になったので、愛する家族のため、国を救う英雄になることにした〜

路紬

第1話 召喚術師、転生する

「はあ、結局徹夜か……」


 早朝。僕は始発電車に乗りながらそう呟く。土曜の始発電車というのもあり、電車の中はかなり静かだ。


「もう限界。転職先でも探すか」


 そう呟いて転職サイトを開くが、すぐに眠気が襲ってきて僕は転職サイトを閉じてしまう。思えば毎日こんなことを繰り返している気がする。


 大学を卒業して入った会社は俗にいうブラック企業だった。終電は当たり前、時には徹夜して始発で帰ることもしばしば。


 いつもなんとなく、みんながやってるから、楽そうだからで生きてきた。就活もそうだ。リモートワークができて、そこそこの給料が期待できるSEを選んだのもそんな理由だ。


 いざ入ってみたらリモートワークは一部のみ可。原則出社、給料も残業代ありきという会社だった。いつかやめてやると言ってなんやかんや数年はこの会社にいる。


 どんなに辛くて理不尽な目に遭っても、職を失うよりかはマシだ。新しい職場に行って一から人間関係を構築できる自信もない。

 そもそも退職届とかどう出せばいいのかわからないし、転職だってうまくいかずにこれよりも酷いブラックを引き当てたらどうしようっていう不安もある。退職代行なんて使ったら何を言われるか分からないから、使う気にすらならない。


 自分のスキルやキャリアに自信を持てない。自分の才能を信じるほど傲慢ではない。けれど本当はわかっている。僕はただ新しい環境に踏み込むのが怖いだけなんだって。


 エナドリを飲んでいれば徹夜や寝不足くらいなんとかなる。色んなことを考えれば、一本二百円で解決させた方がずっと楽だ。


 土日は寝て、動画や配信をみたり、気が向いたらゲームをやればそれでやっていける。案外友達や彼女とかいなくてもなんとかなるのだ。


 そんなことを考えていればいつの間にか家に着く。流石に今日は疲れた。案件の炎上でまともに眠れていない。エナドリも何本飲んだか数えるのをやめたくらいだ。


 泥のように眠って、それからのことはそれから考えよう。家族もいるし飯には困らない。作り置きくらいあるだろう。


「ただいま〜〜」


 そう言って家に帰るとしぃんと静まり返っていることに気付く。いつもならみんな起きてるはずなのに……。


 違和感を覚えた時、僕はふとスマホを見る。母とのメッセージを開くと、今日から家族旅行に行ってくるから犬の世話をよろしくと送られていた。


 旅行に行くなんてこと聞かされてない……。多分家族は仕事で忙しいから行けないと思って声をかけなかったのだろう。


 まあ、愛犬のギンがいるだけマシか……。にしてもギンの世話をするとなると少ししか寝れそうにないな。


 そんなことを考えながら靴を脱いで玄関に上がろうとした時だ。


 ぐらりと視界が揺れた。膝から力が抜けていき、すぐに僕は倒れてしまう。


「あ……れ……?」


 鼻血が止まらず、心臓はバクバクと激しく鼓動を立てている。立ちあがろうにも力が入らず、むしろ段々と意識が遠のいていく。


「ワンッ! ワンッ!」


 遠くからギンがやってくる。僕に近寄ってきて、すぐに心配するように頬を擦り付けてくる。


「クゥーン」


 ギンは人懐こくて、こうして頬を擦り付けてくるのが癖だ。服によっては白い毛がついて大変だったなと思い出す。


 意識が遠っていく。一瞬、死という言葉が連想されてしまう。

 死……死ぬのだけは嫌だ。まだ何もしていない。親孝行もろくにしていなければ、彼女だって出来たことがない。そんなままで死ぬのなんて嫌だ。


 いや、死なんて考えすぎだ。徹夜続きのツケがきただけで、ここで少し寝ればすぐに回復するはず。


 起きたらギンの餌をやって、散歩に行ってそして……。


「ワンッ! ワンッ!」


 ギンの鳴き声を聞いた後、僕の意識はプツリと切れてしまった。



***


「ミルシア様、ロイヴァルド様。残念ですがこの子の呼吸は止まっています……!」


「そんな……! やっと産まれてきてくれたのに! そんなこと……!」


「アルヴィン……! お前だけが希望だったというのに!」


 三人の大人は悲痛そうな表情で、呼吸をしなくなった赤子を見ていた。


 一人はベッドに横たわり呼吸を荒くした銀髪の女性。

 一人はベッドの側に寄り添うように屈む、貴族礼装を見に纏った赤髪の男性。

 もう一人は少し離れたところで目を伏せる給仕服の女性だ。


 銀髪の女性に抱かれた赤子は虚空を見つめたまま、ぴくりと動かない。


「産まれた時に魂喰いソウルイーターに襲われたのが原因です。私もミルシア様も護ろうとはしたのですが……!」


「俺の不手際だ。俺の結界が破られたせいでこんなことになってしまった。魂喰いは倒せたんだよな?」


「はい。ミルシア様の魔法で完全に消滅しました」


 赤髪の男性——ロイヴァルドは強く前を向くと両手を合わせて、赤子の胸へそっと手を当てた。


「この子の肉体に魂を召喚する。魂喰いが倒されたのなら、この子の魂を呼び戻せるかもしれない」


「大丈夫かしら貴方……。そんなことをすればアルヴィンの肉体が」


「失敗すれば灰になってしまうだろう。しかし、もしこれで生き返る可能性があるのだ。やってみる価値はあるっ!」


 ロイヴァルドは赤子へ手をかざすと赤い光を赤子へと流し込む。


 次の瞬間、赤子の指がぴくりと動いた。次にドクンと大きく身体をのけぞらせて、大きく鼓動を始める。


「お……おぎゃ」


「あなた! アルヴィンが!!」


「ああ! 強い魂を感じるぞ! なんと凄まじい魔力なんだ! 魂喰いが狙うのも納得がいくな!」


「私の魔力も使って! この子の魂を繋ぎ合わせるの!」


「ああ! もう少しだ! アルヴィン! お前はこんなところで死ぬ器じゃないはずだ!!!」


 ドクン、ドクン、ドクン! と巨大な鼓動が赤子を叩く。赤子に注ぎ込まれた赤と金の魔力が、強大な鼓動を呼び寄せる。


 やがて、赤子の瞳に光が灯る。その後赤子は大きな泣き声をあげた。


「オギャアアアアア!!!」


「せ、成功した……! この子に魂が宿ったぞ!!」


「やったわ! よかった……! 産まれてきてくれてありがとう! 無事に生き返ってくれて嬉しいわ!」


 大声で泣く赤子を大切に抱えるミルシア。ロイヴァルドも優しくミルシアと赤子に寄り添う。


「うええええん! うえええええん!」


「よく蘇った我が息子よ!! お前の名前はアルヴィン。アルヴィン・グリモワール。我らグリモワール家の希望の光だ!」


「死を乗り越えて産まれた私達の子! ようこそ私達の家へ! 貴方はきっと偉大な召喚術師になれるはずだわ!」


 そう言ってロイヴァルドは大きく赤子を抱き上げ、ミルシアはそう口にする。


 蘇生した子供に泣きながらも、優しく撫でる二人。それを見て涙ぐむ給仕服の女性。



「あぅ、ぁ……?(これはどうなっているんだ?)」


 ——その中で、僕だけが何が起きているのか分からずにいた。



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