第6話 ファティ

「よし、こんなもんか」


 庭の花壇の手入れが終わり額の汗を拭う。


 植えているのは季節の花。そして野菜。


 野菜に関しては1人で消費できる分だけと思い家庭菜園程度の規模しかしてないけど同居人が2人も増えたし少し拡張するのもありかな。


「お疲れ様です」


「おっ、ありがと」


 ノベルが終わるのを見計らってコップに入れた水を持ってきてくれた。


 それを受け取って一気に流し込むと乾いた喉と体に染み渡る。


「ねぇねぇスフィー」


 遅れてやってきたコロロが聞いてくる。


「ん?」


「あれって祭壇?」


 そう言って指をさした先には大きな木の根本。


 小さな和風なお寺の入口のような門があり、その間に入るように鳥居が建っており、十字架も付いている。


「そういえば前から気になってたんすよね。なんというか統一感がないと言いますか」


「でしょうね。あれは1人の神様の為だけに作った通り道だから。なんかごちゃごちゃしてるのはどんなのが正しいか分かんないから適当にやったの」


 私の知っている礼拝施設と言えば寺、神社、教会の3つ。


 どれかを用意すれば行けると思ったがどれが正解か。はたまたどれも間違っているかなんて分かるわけもなかった。


「スフィアさんはどんな神を信仰してるんすか?」


「別に信仰はしてないよ。感謝はしてるけどね」


「感謝って、なにかしてもらったの?」


「色々ね」


「ふーん」


 これが使われたのは過去に1度だけ。


 正直また使われるのか全く分からない。


「ん?スフィー!なんか光ってる!」


「え?」


 改めて門を見ると光っていた。


「マジだ!なにこれ!」


「ナイスタイミングかな」


 私は少し苦笑しながら呟く。


 門からの光は輝きを増していき、目を覆ってしまうほどになる。


 そうして光が収まり、門の前には人が立っていた。


 それは私と同じ銀色の髪をたなびかせる神々しさ溢れる人。


「スフィア、久しいの」


「ほんと久しぶりだね。ファティ」



 とりあえず室内へ移動する。


「この者らは?」


「今一緒に住んでる」


 ジェスチャーで2人に挨拶を促す。


「獣人族のノベル・フィルライトです。スフィアさんの錬金術の補佐をしています」


「鬼族のコロロ・ペルフェラです!妖術が使えます!」


 簡単な自己紹介を済ませた2人をファティは値踏みするように見る。


 2人はその視線に緊張したのか動けないでいる。


「何してんの」


「いやな?2人とも顔が整っておるなと思ってな」


「は?」


 2人はその言葉に顔を見合わせる。


「ファティってもしや面食い?」


「客観的事実じゃ」


 確かに2人とも美人だ。


 ノベルはなんというか中性的。だが、可愛さもある。


 女子からも男子からもモテそうだと思う。


 学校にいれば王子様系女子というところかな。


 そしてコロロはあどけなさの残る可愛さMAXといった感じの顔。


 ここからどう成長しても多くの人達を魅了する外見になることが想像できる。


「パパ、わたし可愛い?」


 上目遣いで聞く。


 うわ、あざと。あざとかわよ。


 この性格のままならアイドルとかありでは?


 というかこの世界ってアイドルいるのか?


「はい、将来は美人さん確定っすよ」


 そしてパパと呼ばれたノベルは彼女へグッと親指を立てて見せた。


 そういや普通にパパ呼び受け入れてるな。


 まぁいいか。


「の、のうスフィア。あの可愛すぎる生き物はなんじゃ」


「さっきも自己紹介してくれたでしょおばあちゃん」


 ご飯の時間を聞いてくる老人を諭すように伝える。


「おばあちゃんって歳でも無いわ!」


「ふーん」


「なんじゃその反応は」


「いやなんでも」


 神様で私に不老不死の力を与えたって事はアファティマには寿命がないんだろう。


 というか神様と人との違いは寿命の有無だとどこかで聞いたこともあった気がする。


 なら、私は神なのかとツッコミたくなるがそれは置いておこう。


「それでその人は?」


 掛け合いも終わったタイミングで聞いてくる。


「アファティマ。均衡と運気の女神じゃ」


 ドヤ顔で自己紹介する。


 というかそんなの司ってたんだ。


「え?えっとスフィアさん?」


 疑いの目をアファティマに向けながら聞いてくる。


「本人だよ……多分」


 目を逸らす。


「お、おいスフィアよ!たった半世紀会っていない程度でワシのことを忘れおったのか!?」


「冗談ですやん。落ち着いて落ち着いて」


 詰め寄られたので押し返す。


「間違いなく神だね。実際私のことをこの世界に送ったのもこの人だし」


 そう、この人は私をこの世界に送ったアファティマ様ご本人。


「この人が神様っすか……」


 今度はノベルがアファティマを観察し出す。


 アファティマはふふんと自信満々に自身の体を見せている。


 やっぱり神様だし自身の外見には絶対的な自信があるのか?


「まさかアファティマ様に会うことになるとは思いもしなかったすわ」


「知ってるの?」


「当たり前じゃないっすか。女神アファティマと言えばアガメル教の信奉者も多い神っすよ!」


 崇める教……。まーた安直ネーミングだな。


 この世界の安直ネーミングに関しては本当にたまたまっぽい。


 百個のものがあったとして、一個が安直ネーミングみたいな程度。


「へー、思ったよりすごいんだ」


「これまでこの世界に救いの手を差し伸べたこともあるからの。崇められてて当たり前じゃ」


「最も最近の降臨として伝えられているのは40年前の均衡化の奇跡っすね」


「何それ?どんな話なの?」


 40年前。つまり私の天秤関係か?


 一度咳払いをするとノベルが話始めた。


「ひとりの最強と謳われた冒険者の男がいた。


 ある時、恋人であり相棒でもある人が瀕死の重症を負った上に呪いで苦しめられてしまう。


 その時に何か出来ることはと考えて神に祈りを捧げた。何日も『アファティマ様、私の魔法の才、剣の才、なんでも捧げます。どうかあの者をお救いください』と祈りを捧げる。


 祈りを捧げ始めて7日、目の前に天秤を持った女性が現れた。『ワシは女神アファティマ。お主の常なるワシへの信仰、そしてこれまでの世界に対する功績を称えて、願いを叶えてやろう。されど代償は必要。何を捧げる?』


 そして7日間で何度も祈った言葉を言った。『アファティマ様、私の魔法の才、剣の才、なんでも捧げます。どうかあの者をお救いください』


 するとアファティマ様は『では魔法の才、そして剣の才の双方ともを頂こう。お主の強さはそこいらの冒険者より格段に落ちる。されど、その力で守って見せよ』


 すると男の体から光の玉が出て天秤の片側に乗った。すると均衡を保つようにもう片側にも光の玉が現れ、その玉は飛んで行った。


 『これで呪いは解け、傷も治った。会いにゆくが良い』


 そうして男は女の待つ病室へ向かうと元気になった彼女が迎えてくれた。


 その後、祈りを捧げていた場所へ戻るもアファティマ様の姿は無く、天秤のみが残されていた。


 事の全貌は男の話、街中を飛んでいた光の玉の目撃証言、そしてどのようなものを乗せても均衡を取れない天秤によって教会から女神アファティマの均衡の奇跡として認められた。


というのが話の全貌っす」


 一人二役で劇のようにノベルが説明してくれた。


 なのでとりあえずパチパチと拍手する。


 本人は少し照れくさそうに「ありがとうございます」と答えた。


「その天秤って私の作ったやつだよね?」


「え?」


「うむ、神様っぽく演出するための小道具としてあの時は頼んだんじゃ。さすがに個人の望みのために天界から神器を持ってくる訳にはいかんからの」


 でしょうね。


「ってことはスフィーがその呪いを解いたってこと?」


「いいや?私が作ったのは魔力を乗せれる天秤」


「それをワシが弄ったんじゃ」


「なるほど……だから神器かどうかで長年議論されてた訳っすね」


 なんか納得したらしい。


 まぁそりゃ私が作ったのなんだから神器では無い。でもその後にファティが弄ったから神の力も入っている。


 中々にややこしいものが誕生したということか。


「さっきこの世界に送ったっていってたけど、スフィーって別の世界の人なの?」


「うん、異世界で死んでファティにこの世界に送られたって感じ」


「じゃあその姿も?」


「これもファティが用意してくれたね。つまり、私のこの姿はファティの癖の詰まった理想的な姿ってこと」


 アファティマを見る。


「当たり前じゃろ。最高神様からワシの頑張りが認められて1人分の転生権を自由にしていいと言われたんだから好きにするに決まっておろう」


 悪びれもせずに。


「別にお主の要望も全て聞き入れた上におまけも付けての事じゃ。問題なかろう?」


「まぁ確かに。でもなんか魔法とか錬金術の才能があんま無い気がするんだけど」


 魔法は最上位魔法を無制限に、錬金術はそこらの石を金に変えたりとか出来るくらいのチートをくれてもいいのに。


「阿呆が。お主が色んな魔法を使いたいと言ったんじゃろ。だから魔法の全系統と全属性への適性を与えたではないか」


「貰ったけどさ」


「下位魔法しか使えずに不満というのはさすがに無茶というものじゃ。そんなのしたら生命としての規格から外れてしまうわ」


「なら仕方ないか……」


 色々考えた末のコレなら諦めよう。


 実際転生する時も光の玉を弄りながら唸ってたしな。


 生命の規格ってのはよくわかんないけどこれ以上にしたら怪物とかになるんなら仕方ない。


「それに錬金術の才能自体は何とかやりくりして最高レベルに設定しておるわ」


「え?じゃあなんでよくミスするの?」


「それはお主のものを見る目が圧倒的に無いからじゃ。錬金術の才とは全くもって関係の無いワシの関与しとらんお主自身の問題じゃ」


 横でノベルがウンウンと頷いている。


 私の問題なのか。


 うん……心にくるな。


「と、ところで何しに来たの?前来た時みたいに何か作って欲しいんだよね?」


 話を切り替えて話の本筋に戻す。


「ふっふっふっ……ハズレじゃ」


 なーんかご機嫌だな。


「正解はこれじゃ!」


 空中に紙が現れた。


 それを手に取って3人で見てみる。


「休暇命令?」


 それは休暇を取ることを命じるという内容だった。


「うむ!久方振りに休みを取る許可が降りたのじゃ」


 ルンルン気分と言った感じで嬉しそうに言っている。


「どれくらいぶりなの?」


「そうじゃの……この世界の時間尺度に当てはめると500年振りってとこじゃ」


「神様の世界も忙しいんだね」


「忙しいというか忙しすぎるって感じっすね」


 確かに社畜だ。


 そんだけ久しぶりに休み貰えたんだったらこれだけテンション上がるのも頷ける。


「それでお休みのついでに来たの?」


「うむ。休養地としてここは良いところじゃからの」


 ……ん?


「え?住むの?」


「ダメなのか?」


「ダメ……じゃないけど」


「なら良いでは無いか」


 まぁいいか。どうせまた1人増えるだけだし。

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