第5話 エアバブル
「調査……ですか?」
私はギルドへやってきていた。
目的は私からギルドへの依頼。
「うん、日和ノ國の内情。正確には一角とその長の一家がどうなっているか」
コロロが私の家に住むようになった。
とはいえ帰らないと決まった訳じゃない。
もし、その決断をするための要素のひとつになればと家族の現状がどうなっているのかの調査を頼みに来た。
「分かりました。我々の方で調べてみます」
「お願いね。ゆっくりでいいから」
これでとりあえず待っておけばなんとかなるでしょ。
こんな秘境にさえ支部を置いているギルドの情報収集能力は凄いからね。
「じゃあまた来るから」
「スフィアさん」
「ん?」
私が帰ろうとしたところで呼び止められる。
「日和ノ國は現在内戦状態が続いています。なので良い報告が出来ない可能性も考慮していただけると」
いつもの明るさは無い真剣な声音の彼女からはそれほど厳しい状況だというのが伝わって来た。
「初めからそれはわかってる。でも万に1つでも可能性があるんだったらってね」
「分かりました。できるだけお早く報告できるようにします」
「……お願い」
彼女の将来の選択肢を用意する。それが人生の先輩である私にできる最大限だから。
やっぱりというかなんというか。ギルドでもその可能性がいちばん高いと判断するくらいなのか。
これ以上は私にはどうすることも出来ない。
他に出来るとすれば彼女に寂しい思いをさせないことくらい。
「コロロ、何してんの?」
「あっ、スフィー!」
ギルドから出て少しのところにある村の中心の広場。
いつもなら村の人の憩いの場になっているそこにはみんなに囲まれたコロロの姿があった。
「みんなに妖術を見せてたの!」
周りからはすごいすごいと彼女を褒める声が出る。
「スフィーも見る?」
「じゃあお願いしよっかな」
「わかった!」
そう言って詠唱を始める。
妖術というのは魔法の系統の一種。
……だったはずだけどどんなのだっけ?
「妖術は鬼族が得意とする魔法っすね」
「あっ、ノベルいたんだ」
人混みの中から現れて解説を始める。
私が妖術をわかってないことを察したんだろうな。
「他系統と比較すると身体強化とか幻惑が優れてる感じです」
コロロは手元から人魂のような青色の炎をいくつも出している。
「全然熱くない炎だよ。ほら、触れる!」
自身の出した炎に指を刺し込んで抜く。
「ほら、触ってみて!」
目の前にいた人の前に炎を持っていくとその人は恐る恐る指を近づける。
「熱くない!てか暖かい!」
手を丸々差し込んだが引き抜くと火傷は一切していない。
「あれは本物の炎なの?」
「うーん、多分っすけど幻惑で魔力の塊を炎に見せかけているって感じですかね」
なるほど。あれは確かに目を引くな。
「なんにせよ、コロロさんの技量が高いのには変わりないっすね」
「ほーん」
私よりも何倍も凄そう。まっ、私は下位魔法しか使えませんけどね!
「あとはこんなことも出来るよ!」
そう言うと魔法を発動させてオーラを纏った彼女が舞台にしていた石製のベンチから降りる。
「いくよー!ふん!」
するとそのままそのベンチを軽々と持ち上げた。
「おおー」と感嘆の声と拍手が起きる。
あれ普通に400キロぐらいある石のはずなんだけどそれを持ち上げるとは……。
「あれが身体強化?」
「ですね。にしてもさすが長の娘って感じっすね」
「なんで?あれで上澄みなの?いや、下にみてる訳じゃないけど別に複雑だったりしなさそうじゃん」
どちらも下位魔法に分けられそうな複雑じゃないシンプルなものに見えたけど。
「そうっすね。もの自体は難しくはないんすけど両方を同じ位の練度で使えるのがすごいってことっす」
「?」
「妖術は男は身体強化、女は幻惑に秀でているんすよ。つまり両方を扱えてるのはそれだけで才能が高いってのが分かるんです」
「なるほど」
それは確かに彼女の凄さが分かるな。
「スフィー!どう?すごいでしょ!」
手に持った彼女の身の丈程の石を頭上に持ち上げて見せびらかすようにブンブンと振って自慢してくる。
私はその様子を見て腰に着けたポーチの中に手を入れる。
「こら!そんなに振り回したら危ないでしょうが」
「だいじょ──」
「危ない!」
調子に乗ってもっと大きく振ると体勢を崩した。
そこへノベルが飛んで行く。
「エアバブル!」
懐から取り出したそれをコロロ。正確にはコロロの持っている石に向かって早撃ちの要領で打つ。
すると石はバブルに包まれて倒れる先にいた人に当たってもポヨンと跳ねた。
「フブッ!」
そしてカッ飛んで行ったノベルもバブルにぶつかり、そのまま跳ね返った。
「危ないって言ったでしょうが!注意したんだからその時点でやめなさい!」
「ごめんなさい……」
ため息が零れてしまうがあくまで子供がした事だし事故もないからいいか。
「次から気をつけなさい。わかった?」
「わかった」
彼女の頭を撫でてやると気持ちよさそうに顔をほころばせた。
「それであれはなんすか?」
起き上がったノベルがバブルを見て聞く。
飛ばされたバブルは村の男連中により運ばれている。
「エアバブルっていう私の作った道具」
手に持っていた銃型のそれをノベルに渡すと興味津々といった感じで見ている。
「それで水やら薬やらを混ぜで作った玉を発射する。そしたらそれにぶつかったものは膜に包まれて内外からの衝撃を打ち消すって仕組み」
「なんかみんな初見の反応じゃないっすけど使ったことあるんすか?」
「大きいものを運ぶ時便利だからね」
初めに作ったのは大地震の時。さすがに瓦礫の撤去と建築資材の運搬を人力だけでやるのは重労働。
なので重いものを運びやすくするために作った。
浮力も少しあるので軽くもなる便利仕様もある。
「どうやったら解除されるんすか?」
「10分待つ。他には」
そこで「スフィアさん、お願いします」と元のベンチの場所まで運んできたところで呼ばれる。
「はーい」
ノベルから返して貰い、側面にある機構を操作するとガチャンと音が鳴った。
「モードチェンジ!アンロック!」
特に言う必要は無いが気分的に良いのでセリフっぽい言葉を出す。
そしてバブルに向けて打つと破裂してガタンと岩は元通りになった。
「ねぇねぇ!スフィアさん!」
子供たちが駆け寄って来た。
「んー?」
「ボクらに打って!」
「はいはい。そこに並びなさーい」
「はーい」
弾倉を取り替える。
「モードヒューマン!行くよー!」
子供たちに向けて発射すると全員がバブルに覆われる。
そうしたらみんなでキャッキャしながらぶつかりあったりしながらあそび始めた。
ハムスターボールに似てるな。
「なるほど、子供の遊び道具っすか」
「そう。この村の昔から人気な子供の遊び道具だよ」
初めは建て直しの忙しい時期だって言うのにイタズラばっかする子供に打ったら他の子供にもせがまれたんだっけ。
懐かしー。
「スフィー……」
期待の眼差しをコロロから向けられる。
「遊んどいで。ほら」
コロロにも打ってやると嬉しそうに子供たちの輪に入って行った。
「あの頃が懐かしいですな」
老人が子供たちを微笑ましそうに見ながら話しかけてきた。
「あの時のクソガキが今じゃおじいちゃんになるまで歳食って村長か」
その村長はハッハッハと笑った。
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