第7話 魔物避け女神像

「みんなー!どうしたのー!?」


 わたしがスフィーから買い出しをたのまれて村に来てみると、いつもあそんでいる2人が集まっていた。


「コロロちゃん!」


「げっ」


 わたしに気付いた男の子────ノルマがわかりやすく動揺した。


 ふっつーに怪しい!


「何隠したの?」


「あっ!」


 ノルマの後ろを覗き込むとそこには壊れた石像があった。


「こ、これは……」


「ノルマくんが壊したの」


 その石像をよく見てみる。


 弱いけど魔力の残滓がある。


 それにどっかで見た気がする。


「おいコロロ!スフィアには言うなよ!」


「なんで?」


「それ作ったのがスフィアさんだから怒られるって思ってるの」


「これスフィーのか!」


 よく考えたらこの街のこういう変なものはほとんどスフィーのつくったものだよね。


「んー、べつにこれくらいでスフィーは怒んないんじゃないかな。これこわれたら大変なものなの?」


「魔物避けらしいよ」


「街の色んなとこに置いてるし1つ壊れたからって」


 少しでも悪くないってしたいのか言い訳を並べている。


「こういうのは一つ一つがよわくても他のと影響し合って強い力になるらしいよ」


「えっ、マジで?」


「うん」


 ちょっと前にパパが教えてくれたことだし間違いない。


 壊れたものを割れ目部分に押し当てて妖力を流し込んでみる。


「それで治りそう?」


 少し不安そうに女の子―――ロンドが聞いてくる。


「むり」


 わたしが手を少し離すとくっつけようとした破片はポロッと落ちた。


やっぱり勝手に治ってくれたりとかは無いか。


「……よし!」


勢いよく立ち上がる。


「な、なに?」


「スフィーよんでくる!」


 これはわたしだけじゃ無理!


「お、おい!」


 うしろから呼び止める声が聞こえたけどそのまま無視して家に走った。



「なるほどね」


 私はコロロから事情を聞いて、とりあえず現場に着いた。


 ものを確認する。


「ほら!ノルマも謝るの!」


「ご、ごめん……」


「別に怒ってないから。次から気をつけてね」


 2人して頭を下げて謝られた。


 反省してるし他の人たちもこの出来事に気がついてるっぽいししっかりとしたお仕置は親がしてくれるかな。


「それでこれが壊れた石像か……」


 破片を手に取る。


 頭部がポッキリと折れてしまっていた。


「ん?それはもしやワシを象ったのか?」


「せいかーい。まぁ形はあんま重要じゃないんだけど神様の姿の方が効果出そうじゃん?」


 これの効果は魔物避け。


 昔に魔物が暴れて村に侵入する事件が起きた。


 なので対策としてこの石像を作り設置。


 結果としては現在まで魔物が侵入してくる事態も起きていない。


「実際ファティさんの似姿にしたのも効果あるみたいっすよ」


「え?そうなの?」


「はい。手入れとか祈りとかするとそのままファティさんの信者ということになってファティさんの権能の加護を微弱っすけど授かるんすよ」


「ほんと?」


 ファティの方を見る。


「ふむ……そういうこともあるやも。じゃがな、ほんとに微弱なもんじゃ。ワシに対してではのうて有り難そうな石像に祈っているだけのな。あったとて四葉のクローバーがほんの少し見つかりやすくなるくらいなもんじゃな」


 うーん、ほんとに微妙。


「それでなおせるの?」


「いけないことはないけど……」


「けど?」


 これの設計は100年くらいは村を守ってくれるものをってことで作った。


 もちろん強度にも気を配ったけど、そこは才能ゼロと言われた私の素材の目利きで選んだものたちを使った。


 その結果として強度は予想を大幅に落ちている可能性がある。


「じゃあ一から作り直ししよっかな。みんなで町中の石像集めよう!」


「「「「「おー!」」」」」



 しばらく後。


「そうして出来たのがこちらでーす」


 箱1杯に詰められた石像。


 その中からひとつをファティが取り出す。


「前のより随分と細かく作ったのじゃな」


「強度が圧倒的に上がったからね。それに誰に祈っているのか分かりやすい方がいいでしょ?」


 強度は事前に耐久度テストを実施済み。


 熱を加える。冷却する。落とす。叩く。などなどをした結果は壊れるどころか欠けることもヒビが入ることも無かった。


 見ていたファティからは「な、なにか恨みでもあるのか……?」と少し引かれた。


 こまかさに関してはそこらのフィギュアもびっくりの精度を追求した。


 まぁフィギュアではなく石像だから色は無い。だからどっちかと言うと西洋の彫刻に近いかも。


「これを元の場所に置けばいいんだよね?」


「その通り!さぁちゃっちゃと置いていくよ」


「「「「「おー!」」」」」



 そしてまた少しして。


「全部設置完了!」


 元から置いていた場所は記録していたし特にトラブルも無く設置も終わる。


「うーん。ねぇねぇスフィアさん」


「ん?どうしたの?」


「この石像って神様のファティさんの像なんでしょ?ならお家を作ってあげたいの」


「いいね。でも……」


 少し考える。


 わたしが作ることも出来る。だがそれで良いのか?


「オレからも頼む!壊しちゃったから何かやりたいんだ」


 弁償の気持ちがあるか。なら!


「じゃあみんなで作ろう!」


 腰に付けたポーチに手を突っ込んで取り出す。


「フラットメガホンー!」


 某青いたぬきのようにゆっくり目に名前を言いながらソレを掲げる。


「なんすかそれ!」


 真っ先に食いついたのは珍しいもの好きのノベル。


「これは範囲内に声を減衰なしで届ける道具だよ。ここをこうして」


 側面のギアで範囲を村全体をカバーできるように調整する。


「ここのボタンを押して話せば使える。じゃあ早速やってみよう!」


 メガホンを使う時といえばで少し上へ向けて使う。


 べつに下に向けようが効果は変わらない。でもこういうのは気分の問題だし。


「ピーンポーンパーンポーン。みんなこんにちは。スフィア・リーゼルです。もう知ってる人もいると思いますが魔物避け女神像を新しく作り替えました。これにより前より圧倒的な強度、それと精巧さで女神像っぽくなったと思います。ここからが本題です。女神像はこれまで野ざらしとなっていましたがノルマとロンドからの提案で女神像の為の小さな家を作ることになりました。手伝ってくれる方々は噴水広場に集まってください。ピーンポーンパーンポーン」


 指をトリガーのように付いているボタンから離す。


「ねぇさっきのって」


 ノルマとロンドは驚いた顔で私を見ていた。


 そんな2人にクスリと微笑む。


「いい提案をしたならみんなに褒めて貰わなきゃ」



 そうして数分もしない内に多くの人が集まってきた。


 大人達に褒められている2人は嬉しそうにしている。


「もっと叱ったりしなくて良かったんすか?」


「別に充分反省してるしいいよ。それにやっぱ子供ってのは元気が1番だしね」


 怒ってないのも事実だしそれでいいんだよ。


 パンパンと手を叩いてそこにいる人達の視線を集める。


「さぁみんな!集まってくれてありがとう!今からやることは放送で言った通り!じゃあ早速開始!」


 そうしてやる気を出したみんなによって立派な社が出来たのでした。

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