第2話 え、CDってそんなに買うものなの?
僕の場合、ライブに行きたいと思ったら、まずはチケットの最速先行抽選申し込み券がついたCDを買って、応募するようにしている。
抽選結果の発表の日はいつもハラハラして、仕事が手につかなくなる。
『厳選なる抽選の結果、残念ながらチケットをご用意することができませんでした』
そんなメッセージが届いた日には、しくしく……と涙で枕をぬらす羽目になってしまう。
もちろん、僕もこれまで何度も落選のお知らせをいただいてきた。
そのたびにショックを受けたけれども、一方で、今回は縁がなかった、とあっさり引き下がってもきた。まちがっても転売されたチケットを買おうなどとは思わない。
ライブの様子は動画で配信されるし、あとでアーカイブで見られたりもする。数か月後には、ライブのBlu-rayだって発売される。
Blu-ray特典にはオーディオコメンタリーがついていたり、ライブの裏側の様子が映っていたりもするから、メンバーのことがより身近に感じられて、お得感があって十分楽しめる。
つまり、現地に行ける時は現地での楽しみ方を、そうでなければ家での楽しみ方を、それぞれ味わう。それが僕の流儀なのだ。
今回は運よく当選したので、現地で思い切り楽しむつもりだ。
ところで、以前CDを買いに行って驚いたことがある。
秋葉原のCDショップに立ち寄った時のこと。
僕は店頭に並んだ『クリアマリン』の新譜のCDを手に取り、レジで店員さんに手渡した。
「これください」
「ありがとうございます。何枚買われますか?」
「えっ?」
僕は耳を疑った。
何枚って、1枚に決まっている。この1枚さえ手に入れば、彼女たちの歌声を存分に楽しめるのだから。
……ちがうのである。
実はこのCDにもイベントの先行抽選申し込み券がついていて、熱烈なファンはそれ目当てに何枚も買うのである。実際、僕のとなりのレジでは同じCDを20枚ほど買っている人がいた。
こんなことを聞かれるのは、秋葉原だからだろうか? 少なくとも、僕の地元では聞かれない。
ちなみに、僕が買うのはやはり1枚だけ。それで十分なのである。
僕がケチだから? 猛者どもに比べて熱量が足りないから?
いいや、そうじゃない。
たった1枚のCDに込められた彼女たちの思いを、メッセージを、丁寧に受け取って心の糧とする。そんなささやかな幸せが、僕には愛おしいのである。
もちろん、たくさん買う人がいてもいいと思う。
そういう人たちのおかげでアイドル活動が支えられているのも事実なのだから。
もっとも、今は音楽配信サービスが充実しているから、CDを買う人は減っているかもしれない。
でも、案外いいものですよ、CDも。
僕は必ず、手に入れたばかりのCDをジャケットが見えるように本棚の一角に飾っている。するとCDはまるで美術品のように輝いて、たちまち僕の心を豊かにする。
ジャケットを眺めながら飲むコーヒーの、なんと味わい深いことか。
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