推しぼっち ~ひとり推し活を楽しもう~
和希
第1話 今日も今日とて推しに生かされる
まぶしい朝日を浴びながら、一人、職場へと車を走らせる。
車内を流れるのは、『クリアマリン』の爽やかな歌声。
『クリアマリン』とは、僕が今夢中になっている女性アイドルグループの名称だ。
特に、そのメンバーの一人、新田小鈴ちゃんが僕の最推しだ。
彼女を初めて知ったのは二年前のゴールデンウィーク。たまたま目にした動画がきっかけだった。当時、彼女はまだグループに入りたての十七歳だった。
シャープな顔立ちに、時折見せるはにかんだ微笑み。ずるいくらい似合ってしまうツインテール。
けれども、彼女の魅力は可愛らしい外見にとどまらない。
真面目で責任感が強くて、チャレンジ精神にもあふれていて、頑張り屋で一生懸命で、メンバーからも慕われていて。
移ろう四季のように豊かに変化する彼女の表情が僕にはきらめいて見え、以来ずっと彼女の魅力にはまってしまい、気づけば抜け出せなくなっていた。いわゆる『沼る』ってやつだ。
小鈴ちゃんがメインパーソナリティーをつとめるラジオ番組は、今の僕の生活に欠かせないものとなっている。どんなに仕事で疲れていても、夜に彼女の可愛らしいトークを聞けば、たちまち心が癒されて救われた気分になるから不思議だ。
つまり、僕は小鈴ちゃんに生かされていた。
もう四十歳にもなる男が、まだ二十歳にもならない女の子に、である。
誰かに「キモッ」と言われたら、うん、たしかにそうかもとは思う。
でも、事実なのだからしょうがない。
「おはようございます」
まもなく職場に着くと、若い後輩の周りに人だかりができていた。
「へえ、お子さんが生まれるんですか」「はい、男の子です。親も初孫で喜んでいます」「それは楽しみでしょうね。もう名前は……」
職場が明るい話題で弾んでいるのはいい。こっちまで幸せをおすそ分けしてもらった気分になる。
一方、僕はいまだに独身で、妻どころか恋人すらいない。子供を授かる幸せなんて、僕の人生には訪れないかもしれない。
でも、いいのである。
幸せの形は人それぞれ。なにも比べるものじゃない。
彼には愛する妻がいて、明るい未来があり、僕には可愛い推しがいて、明日にはライブがある。
そう、僕は明日、横浜アリーナに行く。『クリアマリン』のライブに現地参戦する。
その事実が、僕にどれほどの生きる活力を与えてくれることか。
「よぉし! 今日も張り切って仕事を終わらせるぞーっ!」
推しのおかげで、何気ない日常が幸せ色に彩られていく。
推し活とはなんと素晴らしいものか。
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