第13話 ココア②

 突然、暗闇でお大人のお姉さんがものすごい勢いで咳き込んだのはびっくりした。

 一瞬ゾンビが出たのかと思った。雪菜と最近ちょっと大人向けのゾンビ漫画を一緒にスマホで読んだばっかりだったから余計怖かった。でも、その漫画のゾンビはお酒を飲まないから(むしろ何も食べないでひたすら人間ばかり襲う)、心愛はすぐにお姉さんがむせているだけだと分かった。

 心愛もたまに給食の牛乳でなる。あれはすごく辛い。心愛が優しく声かけたからお姉さんが駅の方に連れて行ってくれる事になった。心愛「持ってるな」と思った。これがオジさんだったらアウトだけど、お姉さんなら大丈夫なはずだ。しかも涼子さん(涼しいに子だから、ココアのあったかいのとは逆だねってにっこりしてくれた。心愛はちょっと自販機みたいって思った)は綺麗なお姉さんだったからちょっと嬉しい。

 かっこいいヒール履いて、とても綺麗な大人びた(あたりまえだけど)おしゃれなカッコいいコートを着ていた。心愛も大きくなったらこういうカッコしたいな、と思えるような綺麗なお姉さんだった。ママみたいなちょっとピンキーなフワフワしたいかにも女の子、みたいな感じじゃなくて、大人のクールな女性って感じ。こう考えるとママって結構「ガーリー」なんだなって思った。歳はこのお姉さんの方が圧倒的に若いんだろうけどなんか全然違う。


 パパとママは喧嘩が最近は多いけど、心愛に「なってほしい」と思っている「ぽさ」は結構二人とも一緒かもしれない。もしかするとママが思っている事をパパは特にこれに関しては反対しないのかもしれない。それは「女の子らしく」ってトコロ。心愛はお嬢様ぽくなりたくて受験して女子校(しかも結構お嬢系)に行きたい訳じゃないし、バレエなんかより友情がっつりスポコンバスケとかの方が好きだし、なんならピンクよりも黄色とか青の服の方が好きだったりする。ほんとはおっきな犬を飼いたいけど、ママは「動物は汚い」っていうから我慢している。

 受験は、今は雪菜と同じ学校に行きたいって気持ちの方が強くて、たまたまそこはお嬢な学校だけど。だからなんか受験はそれでいいかなって思っていたけど、今着ている服もほんとはあんまり好きじゃない。でもママは嬉しそうに買ってくれるし、欲しいなって思っても「やっぱりこっちの方がいいんじゃない」ってあんまりママは話聞いてくれないから、だったら喜んでくれる方がいいかなってママが好きな方を選んでしまうのも心愛もちょっといけなかったかな、と思う。

 だからこそ受験が終わってバスケがやりたいって言えたら全部変わっていく気がしていた。それもこれも、一葉女子に入れたらきっとママも話を聞いてくれるし、一葉女子に入れたらパパもママも喜んでくれてそれできっと喧嘩の原因もなくなるし全部上手くいくと思った。なのに、それが突然受験は「無し」なんだから本当に困る。心愛のプランがパーになっちゃうじゃん。

 なんて考えていたらだんだん怒ってきた。早くママに文句を言わないといけない。さっきまで心細かったし、ママの電話を無視したからきっと怒られるだろうとちょっと怖かった。だけどよく考えると心愛は「離婚」にショックでどこかに「シッソウ」した女の子だ。きっとママはかなりショックを受けているに違いない。ここは一つその勢いで心愛が思っている事をぶちまけるんだ。そしたらもしかしたら名古屋もなくなるかもしれない。よし、そうしよう。


 そう考えるとどんどん勇気が出てきた。涼子お姉さんが楽しく会話してくれる事も手伝って私はだんだん元気がでてきた。これは駅までもどって、なんてことよりも早く携帯で電話ガツンと電話してしまったほうがいい、なんて気もしてきた。涼子お姉さんは「電池は持ってないけど充電ケーブルはあるからどこかで電気でも借りられたらね」と言ってくれている。コンビニがあればバッテリー買ってあげられるんだけど、といったが周りにはコンビニは見当たらなかった。

 代わりに心愛は少し先にうっすら光る看板を見つけた。あれはきっと喫茶店じゃないかな。うん、それっぽい。パパがよく喫茶店でお仕事するのはパソコンの電源を借りるからだって言ってたからきっとあそこで借りられるはず。そしてちょっとさすがに寒くなってきたので喫茶点ならあったかい心愛があるはず。そこでママの車を待つことができるから一石二鳥ならぬ、一席三鳥なんちゃって。私天才かも。

「この時間だからカフェやっているのかなぁ」とちょっと涼子お姉さんは半信半疑だったけど、近づくと光る看板にはちょっとレトロな感じで「ザ・ショートナイト」と書いてあった。心愛の読み通り店内には明かりがついていた。やはり天才っと勢いよくドアを開けて入ったら、全然読み通りじゃなかった。


 中はやっぱり喫茶店だったけど、中で金髪アロハマンが手を挙げ、青年がギターを抱えている。そして映画のアメリカ兵みたいなライフルをもった悪そうな男が白髪のおじいちゃんにものすごい剣幕で怒られている。その真ん中で黒い大きな犬が横たわっていた。

 なんじゃこりゃ。謎展開。心愛、意味不明。

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