第33話・【没落令嬢のダンジョン生配信 その3】
結局、モンスターを狩りながらフラグをへし折り、カウントが〔29/30〕で討伐完了だ。もちろんこの中にはショーンの分も入っている。
一瞬『失敗したのか?』と思いもしたが、誰一人として欠けていなかったし、ゲームオーバーの通知もない。多分最後のひとつはこれから発生するのだろう。
「みなの者、ご苦労であった」
館に戻ると、父親が両手をひらいて迎えにでていた。帝国からの依頼を大きな損害もなく達成したのだから、上機嫌なのは当然だろう。
「活躍はライブ配信で観ておったぞ」
父親の言うライブ配信とは、イン・リモートスキャナーと呼ばれる、魔法制御された自律飛行型のカメラを使って中継される映像の事だ。
略して、インキャ。……もう少しマシな略称はなかったのか? 自分の事を言われているみたいで、軽く心がえぐられそうになったぞ。
これはもともと、遠くの人と連絡を取り合うための言わばテレビ電話のようなシステムだった。そこから発展したのが、この配信技術。料理のレシピ紹介やお店の宣伝、自身のアイドル活動などなど、今では国民すべてが情報発信者となれる時代になっていた。
「このあたりは令和の時代にそっくりだね」
「民度が低いのもいそうよね~」
「
決定的に違うのは、この世界にはモンスターがいて冒険者がいて魔法がある。そうなると、モンスター討伐やダンジョン攻略を配信して、収入を得る者もでてくる。一部の人からは『野蛮』とか『残酷』なんて声があがるが、実際は、多くの人が憧れるも実践できない冒険配信は人気が高い。
インキャは、熱量や魔法に反応して自動的に被写体を変えるようにプログラミングされてて、木や壁などの障害物があると勝手に回り込んで撮影する優れものだ。
だから、時には意図しないものが映り込むことがある。血しぶきや、返り討ちにあった人の死体、血だまりに飛び出した内臓、はたまたモンスターに捕食される人間。そんな凄惨なシーンが流れる事もあるが、そこは見る人の自己責任だった。
父親はそのインキャを使い、モンスター討伐の状況を見ていたらしい。
「それでは、一番の武功の者に我が娘を嫁がせよう」
ここでショーンの名前が呼ばれ、みんなの前にでた僕が正体を明かして万事解決だ。『なんとミナミであったか!』と父親は驚き、兵士たちは『お嬢様が一番の武功なら仕方ありません、諦めます。よよよよよ……』と
……だったのだが。
「ハッピースリーピー、お主がミナミの婿じゃ!!」
………………。
「――はあああああ???」
振り返るとそこにいたのは、みんなの歓声に笑顔とダブルピースで答える葵さんだった。
(ちょっと
(私にわかる訳ないでしょ!)
どうやらインキャは、炎を散らしながら派手に動き回る彼女の熱量に反応してしまい、他の人の活躍を追えなかったようだ。
……マジでどうすんの、これ。女執事と姫だぞ? 女×女だぞ? 誰もおかしいと思わないのかよ。中身的には男だから問題ないけど、この状況が問題大アリだ。
「仕方ないから、とりあえず結婚しとく?」
あっけらかんと
♢
――その夜、お嬢様の自室にて。
昨晩はあまり時間がなくて読んでいられなかったこの本。
【没落令嬢のダンジョン生配信 ~死亡フラグをぶち壊してさしあげますわ!~】
序盤を読んでみると、確かに、没落貴族が王国の依頼でモンスター討伐に行く場面が書かれていた。味方の兵士を救い、武功を上げた令嬢がお家再興を目指してダンジョン配信を開始する物語だ。
葵さんが持ってきた六冊のうちの一冊が、ちょうどこの世界の物語だなんて運がよすぎる気がしない事もないけど……
「とりあえずラッキーって事なのかなぁ」
しかし、ここで問題がふたつ。ストーリー上、僕はこれからダンジョン生配信する事になるのだが……困った。配信の知識なんてまったくない。本はその辺り
そして二つ目。本の通りだと、このあとすぐにメイド長のイノリさんが飛び込んでくる事になっている。
――バンッ!!
「お嬢様、大変ですっ!」
「あ、やっぱりきた」
「落ち着いている場合じゃっ、あ・り・ま・せ・ん!」
商業組合が大きな負債手形を抱えて、その筆頭株主である領主、つまりうちの父親が大損害を被ってしまった。没落貴族でも、なんとかギリギリやってこれたけど、この一件で完全にとどめを刺されてしまう事になる。
「大丈夫だって」
そして一か月以内に負債分の返済ができないと、地位をはく奪されて屋敷も没収されるって話だ。
「いえ、慌ててください。生きるか死ぬかですから」
そして起死回生の一手として、ダンジョン配信を始める。一か月以内に大バズりし、チャンネル登録数と再生回数を稼ぎ、1000万G稼げばクリアだ。普通なら、それだけの大金を稼ぐのは相当難しい。
だけど大丈夫!!! 僕の手元には
「そんなに慌てる事ないよ」
「ですが、とんでもない額ですよ、そんな簡単には……」
「大丈夫だって。1000万Gくらいちゃちゃっと稼いでくるって」
もちろん大変だけど、現代社会と違って稼ぐ方法はたくさんあるし実入りもいい。この世界の1000万Gくらい、二週間もあれば……
「いっせんまん? ……いえ、1億Gです」
「はい?」
「1億Gです。負債」
「え、うそ。1000万Gって
「1億Gです!!」
「……マジか」
もしかして、物語とは違うルートに入ってしまったのか? 話の流れはかなり忠実だったし、モンスター討伐の結果も完璧だった。
物語の流れを変えてしまう要素なんてなにもないはずなのに……なぜこうなった?
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本作はネオページにて契約作品として展開しています。
編集部の意向で、宣伝のために転載していますが、内容は同一です。
その為、ネオページからは15話程度遅れています。
もし興味を持っていただけましたら、サイトの方に来ていただけるとありがたいです。ネオページの登録も是非^^
Xのリンクから飛んでいただくか、検索で【ネオページ 異世界スゴロク】で出てきます。
よろしくお願いします!
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