第34話・【没落令嬢のダンジョン生配信 その4】

 一ヶ月で1億Gなんて、どうすればよいのだろう? 虎の巻この本には1000万G稼ぐ流れしか書いてないし……


「ヤバイじゃんコレ。どうしよ、ヤバイよねぇ、イノリさん」

「最初からそう言っているじゃないですか」


 海賊の国の激うま串焼きですら一本50Gだったのに。1億Gなんて、いったいなん本買えるんだよ。


「やはり、ダンジョンに潜るしかないのか……」


 配信はもちろんだけど、ダンジョンに眠る鉱石やモンスターからとれる素材も多少は足しに貼るはずだ。さらには、極々まれにある古代人の宝物などが見つかれば、一発逆転も可能なはず。と、本に書いてあった。


「潜るのはよいのですが、準備はしっかりしないと危険です。行くメンバーも厳選しないとアッサリ死にます。ガッツリ死にます。生きたままモンスターに食われる事になります」

「は、はあ……」

「バリバリと頭からいくか、柔らかい腹からいくか。意外と人気の高い尻という場合も……」

「あ、その辺りでストップ」


 イノリさんは目が血走り、軽くイキかけていた。もしや彼女は、スプラッターフェチなのか? ……そもそも人気が高いって、誰の人気なんだよ。


「失礼しました……」

 

 我に返った彼女は、バツが悪そうに下を向いて肩をすぼめていた。好きな事になると饒舌じょうせつになって我を忘れる、オタクの鏡みたいな人だ。


「まあ、メンバーはこれから考えるとして、問題はなにを準備すればいいのかって知識がない事なんだけど……」

「あ、そこは配信ネットから調べられます。いまは初心者向け講座もありますから」


 そうか、ライブ配信技術があるくらいだ、インターネット的なものがあってもおかしくはない。もしかして僕のスマホでもつながるかも? と淡い期待をしたけど、それはさすがに無理だった。


「ところでイノリさん、なんか廊下が騒がしくない?」


 遠くの方からガヤガヤと聞こえていた話し声がだんだんと近づき、扉の前で止まった。


「ああ、これはですね……」


 とイノリさんが説明しようとしたその時、 『失礼いたします』と扉が開きあおいさんが入ってきた。 


「ミナミお嬢様。お呼びですか?」


 ……いや、呼んでないけど。どうやら葵さんの方に用事があって、呼ばれたていでここに来たらしい。


 そのうしろでは、扉の陰から何人ものメイドが部屋の中を覗き込んでいた。ガヤガヤしていたのは彼女たちの声か。頬を赤らめ、その視線はハートの形をしている。


「ハッピ様はメイドたちに大人気なのですわ」

「女性……ですよ?」

「ええ、女性ですね」


 キョトンとするイノリさん。まあ、現代では宝塚もあるのだし、アリと言えばアリなのだろう。

 

「仕事しなきゃダメじゃないか、子猫ちゃんたち」


 と、ウインクする葵さん。いくつもの黄色い悲鳴が飛び交い、失神して倒れる者までもいた。


 ……悪ノリしすぎだろ。


「彼女はメイドだけでなく、兵士たちや領民にも人気が高いのです」

「マジ?」


 あとで知ったんだけど、父親はモンスター討伐の配信を領民にも観せていたらしい。その影響は思いのほか大きく、図らずも葵さんこと”ハッピースリーピー“は、老若男女問わず大人気だ。


 女の子には、憧れのお姉さん。男の子には強い冒険者。成人女性には宝塚のような男装の麗人。そんな存在になっていた。


 成人男性? ……して知るべし。


 戦闘能力が高く、ルックスがよくて割り切った性格。たまに暴走するけど、それを差し引いても有り余るカリスマ性がある。


 ……転移者補正があるにしても、なんかズルいよなぁ。



「――って、これだ!!」



 そうだ、これだよ。起死回生の一手はこれしかないだろう。


「男装の麗人ハッピースリーピーのダンジョン生配信ってどう? 宝塚のような派手派手な衣装で、モンスター狩りまくるの」

「名案ですね……お嬢様よりも視聴者増えそうです」

「言い方ぁ……」


 隠し事なく、ストレートな物言いがイノリさんのよいところでもあるけど……なんかこの世界にきて、やたらと心がえぐられるなぁ。


「それって、出演料いくら?」


 と、目を輝かせて聞いてくる葵さん。状況が見えていないのだから仕方がないのかもしれないけど、そんな余裕はないのです。


「ありません」

「え〜。ひどくない?」

「ミッションのためです」

「ぶぅ~。ケチぃ~」


 ……もう、わかってるくせに。


「そうそう、モンスターを倒した時のとかもあった方がいいよね」

「たとえば?」

「そうだね……『このダンジョンをボク色に染めてみせる!』とか」


 うん、我ながら素晴らしいセリフがでてきたぞ。


「なんの罰ゲームなのよ……」

「なら、カメラに向かって『キミの唇をボクの形にしてあげるよ』っていいながら投げキッスなんてどう?」

「よくそんな体がかゆくなるセリフがでてくるわね」

「一ヶ月で1億G稼がなきゃならないんだよ? やれる事は全部やらないと」


 まだまだ浮かんできそうだ。メモしておかなきゃ。


「ところでハッピさん。なにか用事があったんじゃないの?」 

「あ、そうそう。忘れてた」

「……忘れてたのかよ」

「持ってきた本の六冊目なんだけどさ」


 ベルノの世界を探すために、葵さんがマジックバックに放り込んだ六冊の本。


【月は無慈悲な夜の幼女】は完全にハズレだった。【エパじじぃ】も【雲ですが】も【転いし】も、ベルノの世界ではない。


 そして、残り二冊のうちの一冊が、今いるこの世界の物語【没落令嬢のダンジョン生配信】。この本の存在は大きく、ミッション達成のための虎の巻・チートブックと化している。


「ちょっとこれ見て」


 葵さんは、ベッドの上でスヤスヤと寝ているベルノの肉球をぷにぷにといじりながら、六冊目の本を差しだしてきた。しかし、開いてみるとなにも書いてない。目次すらも白紙のままだった。

 

「なにこれ?」

「聞かないでよ。わからないから持ってきたんでしょ」

「まあ、そうなんだけど」

「白紙ってあやしくない?」

「うん、なにか隠してる感じがするよね。……とりあえずさ、帰ったらみんなにも聞いてみようよ」


 中身は全くの白紙だったけど、しかし、表紙にはちょっとそれっぽい響きのタイトルが書かれていた。


「ジュラシック・テイル、か」






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本作はネオページにて契約作品として展開しています。

編集部の意向で、宣伝のために転載していますが、内容は同一です。

その為、ネオページからは15話程度遅れています。


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