第32話・【没落令嬢のダンジョン生配信 その2】

 部隊の左隅にいる兵士の声が聞こえてきた。


「いまなにかが動いたような……いや、気のせいか」


 ――いえ、それは気のせいではありません。死亡フラグです!


「ハッピさん」

「任せて!」


 転移者補正がかかった身体能力で、即座に動いたあおいさん。茂みから飛びだした狼型のモンスターにカウンターの一蹴を見舞った。炎をまとった蹴りは獲物の喉元をとらえ、確実に戦闘不能に追い込んでいた。


「あら、弱いわね」


 ……いえ、あなたが凶悪なだけです。


 ちなみに、僕にも身体能力が上がる補正がかかっているらしいけど、それはほんのわずかだった。僕の場合は、主に魔法操作に配分されているらしい。


 逆に、葵さんには魔法操作の補正がほぼない。覚えた炎魔法も、その場に出現させる程度の不器用な使い方しかできなかった。それでも攻撃の瞬間に拳や脚に炎をまとわせる事で、打撃力に魔法のダメージまで乗せるのだから、葵さんのセンスには恐れ入る。


 ——ピコン

 

「ん?」


 僕はスマホを取りだし、画面を確認してみた。そこにあったのはミッションの進行を知らせる通知だった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ミッション記録


死亡フラグ回避数  2/30


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 


「これって……」

「なによ、まだ28個もあるっての?」

「なんでそんなにあるんですかー!」

「私に聞いてわかると思ってる?」

「ああ、無理ですね」


 なぜか『ちっ』と舌打ちをして、パンプスのつま先で僕の脇腹を小突く葵さん。尖った先端が刺さって意外と痛い。


「無理って言われると、それはそれでムカつくわね」


 ……ご無体な。


 前後左右から聞こえてくる剣戟の音。魔法の爆発が地面を揺らし、血と獣肉の焦げたニオイが混ざって漂ってくる。ここもすでに、モンスターに囲まれていたようだ。


 しかしそれから先は、モンスターよりもフラグ発生との戦いだった。最初に聞こえてきたのは、老兵と若い兵士の会話だ。


「じいさん、無理するなよ」

「なにを言う、まだまだ若いもんには負けんよ」

「元気だな。そういえば来週は孫の誕生日だって?」

「おうよ。報奨金でプレゼント買ってやらにゃぁならんのでな」


 ……それ、毒とかであっさり死ぬフラグ。刑事ものだったらバディの若手が実は悪の組織の一員で、そいつに殺されるやつ。


「ハッピさん、アレ頼みます」

「了解。コネリー、守りまかせたよ」

「うっす。姐さんもお気をつけて!」

 

 葵さんに老兵を任せて、僕は中央最前線の対処に向かった。そこら中から聞こえてくる声に耳を傾け、フラグを立てた兵士のもとに走る。


 ――木を背にして剣を構える兵士が二人。


「なんだこれ……」

「うえ、気持ちわりぃ。ヌルヌルしてやがる……」


 頭上から落ちてくる緑のヌルヌルねりねりした液体。上を見上げた瞬間、スライムみたいなモンスターが降ってきて溶かされるフラグだ。


「そこは危ない、すぐに逃げて!」


 と警告するが、彼らは状況を甘く見て余裕ぶっこいていた。ま、フラグで死ぬのって危機管理が足りないヤツが多いけどさ。


「おいショーン、そう言って戦果を独り占めしようってんだろ」

「させねぇよ。お嬢様は俺のものだ!」

「いや、『させねぇよ』どころの話じゃなくて。そこにいたら死ぬんだってば」


 直後、頭上から大量に降ってくるヌルヌルねりねりした液体。これで動きを止めてから捕食しようというのだろう。


「――危ない!」


 その瞬間、彼らを包み込もうと広がったヌルねりの液体が、プルプルと震えながら空中で静止した。


「な、なんだこれ?」

「おい、逃げるぞ!」


 無意識に発動した僕の魔法が、液体の落下を止めたようだ。これはラッキー、どうやらヌルねりの液体は、水操作魔法で扱えるらしい。


「ショーン、おぼえておけ!」

「次にあったら容赦しないぞ」


 と言いながら逃げていく二人の兵士。


「助けたのに、捨て台詞を吐かれるとか訳わからんぞ」


 落ちてきたヌルねりのスライムみたいなヤツは、その場にいた兵士と協力して倒した。近づかずに、適当な魔法を撃ち込んでアッサリ討伐完了。

 


「――隊長、さがってください!」


 声のするの方に目を向けると、討伐隊の隊長が副隊長に支えられて片膝をついていた。


「まだだ、まだ俺は……ゴフッ」

「しかしそのお体では」

「ええい、その手をはなせ!」


 こらこら、勝つ寸前に血を吐いて倒れるフラグじゃないか。せっかく副隊長が止めてくれてんだから素直にさがろうよ。


 ……と言っても下がる性格ではないのは見ていてわかる。仕方ないので僕はこっそりと水魔法を唱えながら彼らの隣に並んだ。


「隊長、副隊長、敵が来ます!」


 と剣を構えながら茂みの中に視線を向けると、二人はあっさりとつられて注意を向けた。そのすきに先ほどのヌルねりの液体を足元に滑り込ませ、隊長を転倒させた。


「副隊長、引っ張って!」

「お!? おおう!」


 副隊長は隊長の首根っこをつかむと、そのまま部隊後方へ走りだした。ヌルねりの液体を隊長の体にまとわせておいたから、大した抵抗もなくズルズルと……いや、ヌルヌルと引っ張って行った。


「ショーンすまん。恩に着るぞ」

「いえいえ、フラグ折るのがミッションですから」

「……フラグ?」

「あ、いえいえ気にせずに~」


 ……とは言うものの、意外と大変だぞこれ。


 ポケットの中のスマホから”ピコンッ“と音が聞こえてきた。フラグ回避カウントの通知だろう。でも確認する間もなく僕らは次のフラグ回避に向かう。



「――なんだ、大した事のない敵だったな」


 はいそれフラグ! 実はそいつ生きていて、近づいたら胴が真っ二つになるパターンだ。


「うわ、なにこの液体……」


 ヌルねりの液体でモンスターを包んで、窒息させると同時に兵士を遠ざけて回避。(ピコンッ!)


「よし、ヌルねり最強ぅ!」



「――ちょっとトイレに……」


 人気のない場所で立小便するとうしろからられます。


「コネリー、連れションに行って!」

「は?」

「背中合わせでするんだぞ!」

「な、なんすかそのシチュエーションは……」


 背中合わせの連れションでフラグ回避!(ピコンッ!)


「アイツに変な目でみられたっす。『俺にそっちの趣味はねぇ』とか言われて」


 ……泣くな、コネリー。



「――まったく、やってらんねぇぜ」


 油断してサボっていると、木の上や湖に引っ張り込まれるフラグ。現代ホラーなら排気口とかも要注意だ。


 コッソリと『隊長がこっちに来たぞ』と脅し、立ち去らせてクリア!(ピコンッ!)



「――森の出口があるぞ」


 こらこら、それはダンジョンの定番トラップだって。あわてて出口に走ったら罠が発動して即死するやつ。こいつもヌルねりの液体で滑らせて回避!(ピコンッ!)


「なんか、ヌルねりの液体ってマジで優秀だな」


 ……ポーションの瓶にでも入れておくか。



「――おい、腕ケガしてるぞ」

「え、これ? ちょっと転んじまってな」


 それ、ゾンビになるやつじゃないか! 


「うわ、ショーンなにしやが……臭っさ、なにこれマジ臭っさ……」


 マジックバックにあった中級ポーションぶっかけて回復!(ピコンッ!)



「――まさかね」


 その『まさか』が起きるフラグ。


「まさかって、なにがっすか?」

「わからんから、とりあえずぶん殴る」

「え~……」


 殴って気絶させてクリア!(ピコンッ!)


 

 ……あ~、マジできつい。(ピコンッ!)もう、こいつらわざとフラグ立ててんじゃない?(ピコピコンッ!)






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本作はネオページにて契約作品として展開しています。

編集部の意向で、宣伝のために転載していますが、内容は同一です。

その為、ネオページからは15話程度遅れています。


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