エピソード11 —夢の中で—

 扉がゆっくりと開いた。

夕暮れの光が差し込み、そこに立っていたのは年配の男だった。



 肩まで伸びた白髪交じりの髪、渋い顔つきに深い皺(しわ)。そして、どこか懐かしさを感じさせる鋭い眼光――。


 レイヴァンは無意識に身構えた。


 男はじっと彼を見つめ、何も言わずにゆっくりと中へと足を踏み入れる。
カレンが少し驚いたように口を開いた。


 「今日は帰りが早かったんですね」


 男は彼女の言葉には答えず、代わりにレイヴァンを頭の先からつま先まで見渡した。
 


「……その格好じゃ目立つな」

 静かに言いながら、男は棚の奥から服の束を取り出し、無造作にレイヴァンへと放る。



 「着替えだ、それを着るといい」


 レイヴァンは受け取った服を見下ろしながら、男をじっと見返した。



「……俺のことを知っているのか?」


 男は微かに口元を歪めると、まるで何かを言いかけたように口を開いたが、すぐに閉じる。
 代わりにカレンが間に入るようにして言った。


 「……とりあえず、今日はゆっくり休んでください。色々話すのは明日でもいいでしょう?」


 レイヴァンは納得したわけではなかったが、それ以上追及しても無駄だと判断し、黙って頷いた。

 

___________________________________________


 カレンが用意してくれた簡素な寝床に横になる。異世界に来てから、ようやく落ち着いて考えられる時間だった。


 蓮花は、どうしているだろうか――

そう思った瞬間、胸の奥が妙に締めつけられた。


 彼女は、俺が突然いなくなったことに気づいただろうか。
きっと、心配しているに違いない。


 思い浮かぶのは、朝の光に照らされながら微笑む彼女の姿。
茶色がかった髪がさらりと肩に流れ、俺の名前を呼ぶ優しい声。
照れくさそうに視線を逸らしながらも、時折甘えてくる仕草。


 「早く帰らなきゃ――」

思わずそう呟いた。


 だが、どうやって?


 ここが異世界だというのはわかる。
でも、現代に戻る方法はまるで検討もつかない。


 ひとまず、この世界で情報を集めるしかない。


 静かに目を閉じると、蓮花の姿が再び脳裏に浮かんだ。
名前を呼ぼうとした瞬間、意識が遠のいていく。


 そのまま、レイヴァンは深い眠りに落ちた。

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