#6 「魔法少女の自分磨き」

「──起きてっ! 遥っ!」


揺さぶられていた中で不意に耳元で響いた大声。それが意識を一瞬で引き戻した。

コの字状に組まれた古い机とパイプ椅子、少し遅れて理解が追いつく。生徒会室だ。どうやら定例会を待つ間に寝落ちしてしまっていたらしい。


「うわっ!?」


そして、至近距離で遥が顔を上げたのと同時に悲鳴を上げた女子生徒がいた。

横に編み込みの入ったボブカット、健康的な少し焼けた肌、こちらを見つめるくりくりとした丸っこい瞳は見開かれていて──彼女が遥を起こした張本人らしかった。


「……なんでそんなに驚くんだよ。そもそも透羽とわが僕を起こそうとしたんだろ?」

「いや、そうだけど……まさか、こんないきなり起きるだなんて、思わなかった、から……」


どこか言い訳がましくそんなことを口にしながら、女子生徒──”彩芽あやめ 透羽とわ”はちら、ちらと視線を逸らす。彼女は遥のいわゆる幼馴染で、今は同じく高校二年生。生徒会”副会長”だった。


「普段は全然揺すっても起きないし──今日も、そんなものだと思ってて」

「……失礼な。僕だって日々成長してるんだから。ほら、よく言うじゃん。男子三日して──なんとやらって」

「──それを言うなら”男子三日会わざれば刮目して見よ”でしょ? それに、起きれるようになったって言っても、そもそも普段よりは早かったってだけなんだから。そういうところ、やっぱり遥は変わらないね?」

「……昨日は遅くまでバイトしてて。それで寝不足だったってだけだよ」

「だからって、生徒会室で寝るのは良くないよ。ほら、特に今日とか……衿華先輩、ちょっと不機嫌みたいだし」


目の下に薄く刻まれたクマ、目を擦り擦り、ホワイトボード前の衿華は眠たげだった。昨日は帰りが相当遅くなってしまった。そして、それは衿華とて例外ではなかったらしい。

こめかみを揉み、疲れを吐き出すようにため息を一つ。衿華は口を開いた。


「──それでは、全員集まったようですので、定例会を始めます」


普段と同じ凛とした声──ではなく、ほんの少しではあったけれど、それは気怠げな響きを含んでいた。


今日の衿華は不機嫌そう、昨日の出来事がなければ遥もそんな感想を持っていたに違いない。それだけに、この先輩ひとが案外天然で、お茶目だなんて、相変わらず信じられないな、と。

昨日の衿華を思い出して遥は苦笑した。


◇ ◇ ◇


◇ ◇



透羽には「今日もバイトなの?」と呆れられつつ、『ヴィエルジュ』に到着した後、更衣室で着替え終わった遥がロッカールームに出て来た時にちょうど入れ替わりで着替えようとしている他の魔法少女がいた。


「こんにちは、衿華さん。……寝不足、ですか?」


衿華だ。普段よりも少しだけぼんやりとした様子なのは生徒会室と変わらない。

むしろ、そちらでの作業を終えた後だからか、尚更そういう風に映る。


「……いえ。そこまでではありませんが。少しだけ、です」

「シフト、どれぐらい入れてるんですか?」

「一応、今日も含めて三日連続です。最初ですから。勝手がわかるまでは、と思って」


一昨日がバイト初日、昨日が初めての給仕、それから今日。思い返してもみれば確かにそうだ。慣れない環境で三日間は確かに疲れるはず。


「何かあったらすぐに教えてください。……一応、その──先輩、ですので」

「……ええ。昨日の様に失敗するわけにはいきませんから」


驚くほど素直に彼女は頷いた──と、いうよりも。

学校では気を張っていて、むしろこっちの方が自然体なのかもしれない。遥がそんなことを考えていた時、突如バン! とばかりにドアが開いて派手なパッションピンクが部屋に入ってきた。


ピンク髪と、既に着替え終わったらしいピンク色のワンピース。ピンク一色に染まった容姿──杏だ。


「お、二人とも早いねっ! じゃあ、先にイイコト教えてあげるよっ!」


入ってきた勢いそのまま、高らかに杏は宣言した。


「それじゃあ、夏休みも目前っ! ──と言うことで、『ヴィエルジュピリオド』夏の特別イベント、『魔法少女総選挙・夏の陣』を開催しますっ!」

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