4月7日 南郷竜子

 なんか……疲れる一日だった。

 なんだよ、あのお姉様ランキングって。

 いつ決まったんたよ。

 変な娘たちがやたら寄ってくるし。面倒くさい。ほんとっ、面倒くさい!


 ……って、そう言えたら、どれだけ楽か。


 リビングのソファーでくつろぐ私にお姉が声をかけてくる。

「調子はどうだ?」


 お姉の、いつものセリフ。

 ちょっと前まではイラッとするだけだったのに、今は──なんか、落ち着く。


「……疲れた」


 素直に答えたのは、いつぶりだろう。


「お姉様ランキング、まだあるのか?」


 お姉の口からその単語が出てくるなんて思わなかったから、ちょっと驚いた。

 思わず、顔を見る。


「……あれは私も苦労した」


 へぇ、って思った。

 お姉の学生時代の話。初めて聞いた。


「私は対策を練ったぞ」


「無視?」


「逃げた。誰も来ない、秘密の場所へな」


 お姉から“逃げた”なんて言葉を聞くのは、たぶん初めて。


「旧館の西側に、屋上へ上がる階段があってな。その先に扉がある。なぜか、誰も来ないんだ」


 声がちょっと懐かしそうだった。


「今もそうかは分からない。でも──行ってみる価値はあると思う」


「……誰もいないから?」


「ふふ、幸のやつだけはいたな」


 お姉の顔が、少しだけやさしくなった。

 お姉と幸さん──なんか、ちょっと、羨ましいなって思った。


 私にも、そんな誰かができたらいいな……なんて。


「やっぱり、あいつとは腐れ縁だ」


 そう言ったお姉の顔は、どこか楽しげだった。


 ──なんか、他にも話そうと思ってた気がするけど。


 でも、まあ……どうでもいいことだったのかもな。

 忘れた。


 だって──

 明日は、入学式と同じくらい大切な、バイトの初日だから。


 新しい日常の始まりだから。



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