沙姫帆の高まる感情
「鞠谷さん?どうしたの?」
「えっ?」
「・・・泣いている。」
しまった。今は、社内旅行中だった。
「なんでもない。」
「・・・・辛い、恋でもしているのか?」
「!!っ!!・・なっ、なんで?」
「今、城島(じょうしま)さんが、
歌った歌聞いて、
何かを思い出していた・・・からだろ?」
「・・・うん。」
大木(おおき)さんは、何かと、
相談に乗ってくれていた先輩だった。
「今は、酔っているし、
明日には、忘れてるから、話してみろ?
少しは、気持ちが楽になるだろう。」
「・・・聞いてもらおうかな。」
私、鞠谷沙姫帆(まりやさきほ)と、
戸倉暁(とくらあきら)との付き合いを、
掻い摘んで話した。
全てを聞いた大木さんは、
「・・・・鞠谷さん。あのな・・・
思っているだけじゃあ、伝わらない。
口に出してぶつけなければ伝わらないよ?
俺の知っている鞠谷さんは、
素直で良い子なのに、
彼に対する鞠谷さんは、
可愛く無いし、素直じゃあないね。
臆病だと、大事な瞬間を逃してしまうよ?
後悔していても、
その時は、戻ってこないだろ?
だったら、前に進むしかない・・よな?」
私は、戸倉君に逢う勇気が、無かった。
事実、過去に色々と、彼を振り回している。
その上、これでは、都合が良すぎる。
心の底では、戸倉君に、NO!と、
言われる事が、怖かった。
「・・俺、好きな女がいてね、
そいつは、婚約者がいた。
全力を出して、するだけして、
それでも、
彼女が自分のものにならなかったら、
・・・・まぁ、諦められる。
だけどな、
何もしなかったら、後悔だけが残るぜ?
迷惑だって分かっていても、
自分を誤魔化す事は出来なかった。
自分自身には、絶対、嘘は吐き通せない。
少しぐらい、誤魔化しても、
それは、麻酔の様なもの・・・だ。
麻酔が、切れれば、余計に痛くなる。
何度も諦め様と思ったのも事実だ。
でも、諦めるなんて、出来なかったよ。
それは、・・・多分、
鞠谷さんだって、分かっているだろう?
自分で、努力しなくちゃ、
何も変えられないし、始まらないよ。」
「・・・・・うん。そうだよね。」
私は、独り言の様に呟いて考えた。
「俺、彼女と、結婚するよ。
色々あったから、俺達、ここまで来た。
だから、お互いを信頼できると思う。
仕事だって、そうだろ?
自分で努力して憶えた事は、
忘れないし、自信に繋がるだろう?
今でも、好きだろう? 逢いたいだろう?」
「・・・うん、好きだし、逢いたい。」
「なら、勇気を出してみろよ。
当って、砕けたって良いだろう?」
「ちょっと、怖いけど・・・
このままでも、辛いよね。」
「・・・・良い結果だけが、
全てじゃあないと、俺は思う。」
「うん、自分自身に正直に考えてみる。」
大木さんは、私の頭をヨシヨシと、撫でた。
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