沙姫帆から暁への手紙

その夜は眠れずに、ひとり考えていた。


私が戸倉君にした事は、消す事は出来ない。

それは、分かっている。


でも、今の気持ちを、誤魔化す事も出来ない。


私の気持ちを、手紙で伝えよう。


とりあえず、今、これが精一杯だ。


ちゃんと、戸倉君に振られよう。


キッカケは忘れた。

本当に些細な事で喧嘩をした。

その時、彼から、別れを言われた。


全然、素直じゃあなくて、

かわいげが無い私を、戸倉君は、

一度だって、悪く言わなかった上に、

私に振り回され続けた彼が、

発した『言葉』は、重かった。


『自分の気持ちを、考えて理解したら、

電話しておいで』って。


だけど、優しく言ったその言葉さえも、

私は、実行出来なかった。


あれから、7年。

忘れられない彼を思う度に、後悔している。

あの時、どうして、

直ぐに、電話をしなかったのだろう。

何故、別れたくないと、

言えなかったのだろう。


今更、遅過ぎると思いつつ、

手紙を書く事にした。また、叱られるかな?


『手紙じゃあなくて、

自分の言葉で、声で、伝えろ』って・・・


違うよね、返事さえも、もらえないよね。

ううん、読んでももらえないかもね・・・


そう思うと、ペンが止まる。


このままで良いの?自分に問い掛けてみる。

良い訳は、無い。

前へ進まないといけない。

これ以上嫌われたら?んんっ、違う!


それでも、手紙を書きたいと決めたのも、

私だから・・・・



逢いたいと思う事が、

愛しているに繋がる事に、

やっと、気がついた。

今迄、気がつかなかった自分を、

正当化出来ない事も、

時が戻って来ない事も、分かってる。

貴方が、私の傍には居ないのも、

自業自得だって知っていても、

迷惑を承知で、私の戯言を、聞いて欲しい。

あの頃、ちっとも素直じゃあなかったけど、

自分の事しか見えてなくて、未熟だった。

信じてなくて、我儘ばっかりで、

勝手ばかりで、本当に、ゴメンね。

この手紙も、どうしょうか迷ったけれど、

やっと、

本気で好きだと貴方に、言える私なのに、

その思いを伝えられないなんて、

絶えられなかった。

ちゃんと、分かっているつもりだよ、

今更、

何を言っても、信じてもらえないって。

あの時だって、別れたくなかった。

でも、でも、貴方を好きな事は、

逢った事を後悔してない事は、本当なの。

貴方を信じて無かった私が、

こんな事を言う、資格は無いけど、

それだけは、信じて欲しい。

あの時から、ずっと、貴方を忘れられない。



返事を期待していた訳ではなかった。

ただ、伝えたかっただけだった。

それ以上を望む事は、

余りにも、勝手だと思うから・・・


自分の中での決着をつける為にも、

ちゃんと、振られた方が、罵られた方が、

いいと思う。

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