ささぎさん
「貴方。私の可愛い天使に何ちょっかいをかけてるの?」
背後から新しい声がした。
凛とした、鋭い声だ。
「ささぎ、お姉さま……」
ボブヘアーの彼女が、硬直する。
心なしか青い顔色をしていた。
「ひさしぶりね。海外出張は、今日までだったのだけど、私、あまり人に言わないから、あなたたちも驚いたでしょう」
ささぎお姉さまと呼ばれた人物は、本当に、白衣を身にまとった、まつりに本当に本当にそっくりな人物で、ぼくは、開いた口がふさがらない思いだった。しかし眼鏡が似合っていて、まつりよりも、顔立ちに少し、女性的な丸さが見える。
まっすぐに此方に歩いてくると、ぼくたちを通り過ぎ、『彼女』を冷たい相貌で見詰めた。
「──さて。じゃ、もういいわ。貴方は下がりなさい。これは貴方が手を出していいような子じゃないの。早く出ていって」
「で、ですが……」
震える声を出す彼女を、ささぎさんは冷たく睨み付ける。
「下がりなさい」
威圧的なわけでもないのに、有無を言わさない、恐ろしい闇を秘めたような、その声音に、彼女が震えながら頭をさげる。
「す、すみません……」
「いいから、失せて」
にこにこ笑いながら、言葉に刺を感じる。
まつりから聞く、お姉ちゃんの様子は、ほんわかして可愛らしくて、お菓子作りが好き、という優しさに溢れたイメージだったが、今の彼女のイメージは、今まで、経験したことがなかったタイプのおっかない人間だった。
「はい……」
迫力に気圧されたような怯えを見せ、彼女は、無言のまま走り去る――――前に、一度屈んでぼくの足元にハンカチを落とした。
意外とおっちょこちょいなのかもしれない。
「あっ、あら、ごめんなさい!」
彼女はそれから優雅な動作でそれを拾い上げ、ぼくにさりげなく、頬を寄せる。
「『その、未来を見透かすような目。いつも気に入らなかった』」
「――――え」
「ね、侵入者さん」
ふんわりと、甘い花の香りが漂う。
「あの……」
けれど、そんな事を考えるより先に彼女の声に微かな怒りのようなものを感じる。戸惑ううちに彼女は言った。
「『宮さんと和さんのレーザーは、いつ殺し合うの?』」
彼女はぼくにだけ聞こえる耳元でそう囁くと、
「ヒロシ君に、よっろしくー!」
と、
今度こそさっさと場を去っていった。
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