第30話 第2ラウンド
向こうから詰めてこないのを確認し、無詠唱でウィンドカッターを想像する。
世界が少し歪んだように見えるほどに圧縮された空気の塊が魔物の顔にあたり、横一文字の傷をつける。
そこまで深い傷では無いようだが、怒りを買うことには成功したようで激情のままにこちら側へと移動してくる。
近づいてきた魔物は腕を大きく伸ばし振り下ろしてくる。
その振り下ろしを少し右にずれることで避けるが、それによって巻き起こった砂埃によって視界が悪くなる。
全く見えていないが気配と感覚から、伸び切った腕に対して踵下ろしをする。
見た目通り、あまり硬くはないようでポキッという小気味の良い音と共にゴワゴワとした毛皮の感触と小枝を折ったような感触が足へと伝わってくる。
風魔法によって砂埃を払うと、自分のかかとの下敷きとなってグシャリと潰れている魔物の拳だったものが見える。
魔物からは苦悶の声が聞こえるが、お構い無しにその腕の根本の方を掴み、無理やり引っこ抜く。
ブチブチっという音とともに、気持ちの良いくらいに根元の方から腕が抜け、魔物はバランスを崩し転倒する。
そこからは俺のお楽しみだ。
もう暴れることしかできなくなった魔物を、殺さないようにしながら丁寧に一本一本腕をもいでいく。
2本目をもぐとき、魔物の声があまりにうるさかった。
だから、顔を潰した。
声は聞こえなくなった。
3本目をもいだ。
もう、魔物は死んでいた。
飽きた頃だったのもあり、最後の一本は残し彼女の方へと向き直る。
彼女はまだ眼を固く瞑っているようで、一向に状況に気づきそうにない。
仕方なく、自分から声をかけようとしたその時、彼女は遂に目を開けた。
助かった安堵なのか、恐怖なのか、はたまたそのどちらもによって混乱してしまっているのか、彼女の眼からは読み取れない、いや読み取ろうともしなかった。
それほどまでに正面から見た彼女の顔は美しかった。
気づけば、言葉は口から出ていた。
「いきなりすいません。僕と友達になりませんか?」
久しぶりの人との会話、さらに自分が関わることなどないような美女。
熊の魔物と戦うときとは比べ物にならないほどの緊張感とともに放ったその声は、思いっきり裏返った。
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死にたがりの魔王様 黒い猫 @qswa0044
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