お揃い
「雲雀さんが到着したとき、野々香ちゃん相当……命がヤバかったッス!」
「命?!ヤバかったって私、意識あって、雲雀さんと話しましたよ?」
「体力バカの真骨頂みたいな現象ッスけど」
ハハッと明るい犬飼先輩のおかげで深刻さは幾分薄れる。だが本当に、私は生死の境にいたらしい。
「もう器ぐちゃぐちゃになりかけてたって聞いてるッス!」
たしかに脳みそをミキサーされたような感覚はあった。本当にぐちゃぐちゃだったらしい。
「俺はあとから到着したけど、死人かと思うような顔だったんで、これは死んだかもと思ったッス!」
雲雀さんは舌打ちではなくため息をついた。逆に怖い。次は課長が少しだけネクタイを緩めるような仕草をしながら口を開く。課長の呼吸も苦しくしてしまったようだ。
「雲雀君のピアスには、雲雀君の霊力が満ちているからね。依月君にピアスを刺して、常に雲雀君の霊力を流すことで器の安定を図ったんだよ」
私は右耳の大きなピアスに触れながら、開いた口が塞がらなかった。
私が浄化まで無理にやったせいで、器が半壊。雲雀さんの霊力を常に私の体内に流すことで器をギリギリ維持か。私ってぎりぎりである。
「ピアスを外したら死ぬと思えよ」
雲雀さんの声が私の鼓膜に刺さる。いきなり大きな穴が開いた耳はびっくりしてビリビリしているが、身体は雲雀さんのおかげで無事だったわけか。私は自分の無茶が招いた結果である。首輪、もといピアスを受け入れて頭を下げた。
「雲雀さん……ありがとうございました」
雲雀さんは小さく舌打ちをする。生きててよかったと聞こえたのは、自惚れだろうか。犬飼先輩がまあまあと笑う。
「でも野々香ちゃん、穴は開いてしまったッスけど!悪いことばっかりじゃないッスよ!」
「どういうことですか?」
「雲雀さんの霊力エグいッス!常に野々香ちゃんに流れることで、野々香ちゃんの器が補強される!もっとダメージ少なく浄化ができるようになる可能性あるッスよ!」
「犬飼、余計なこと言うんじゃねぇよ」
「そうだよ、犬飼君。依月君にはより、慎重になってもらわないと」
「ふふっ、それは嬉しいです!」
私は黒いピアスに触れながらふふふと笑う。良いことを聞いた。
「私が浄化を使いこなせるようになったら……」
皆が私に両目を向けたので、にっとピースして笑った。
「雲雀さんに来るヘルプ案件、私も一緒に背負えますよね!」
ゲストルームにしんと静寂が落ちて、私はあれと首を傾げた。何か間違ったことを言っただろうか。犬飼先輩と課長が顔を見合わせて笑った。
「そんな大胆なこと言えるの、野々香ちゃんだけッスよ!」
「依月君、これからも雲雀君を頼むよ」
「ウッス!イッダァ!」
私が元気に返事をすると私の短い前髪を乗り越えてデコピンが炸裂した。耳が痛いのに額もヘコんだ。私は両手で額を覆って悶えた。ギシッとベッドが軋んで雲雀君さんが立ち上がる。
「生意気言うな。さっさと寝ろ」
雲雀さんは舌打ちもしないまま、すたすた部屋を出て行ってしまった。犬飼先輩と課長もにやにやしたまま、お大事にと部屋を出て行った。
私はまた雲雀さんの神経を逆なでしたようだ。喜んで欲しいわけではない。感謝して欲しいわけでもない。
でも私は、そうしたいのだ。
私は雲雀さんとお揃いのごつい黒ピアスにそっと触れてから、ベッドで眠りについた。耳が熱くてまだ、ジンジンする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます