人間関係リセット症候群

小椋

関係が切れた日

 大学院の卒業式の日の打ち上げ、三次会のカラオケの喫煙所で後輩と一緒にタバコをふかしながら、卒業生の私は

「こんなお膳立てされた日はなかなかないぞ!関係を切るには最高の日じゃん!お前らとはもう会わねえし切るわ、さいなら、他のやつにも言っといてや」

 と泥酔し、呂律も確かではない状態で高らかに両手挙げ、宣言していました。


 一種の清々しさにも似た達成感と、呆れと怒りの混ざった後輩の表情が回っていないはずの脳裏にこびり付いたことを覚えています。


 自身のことながら文章化するとガキで、自己中心的で、中二病全開だなと改めて感じます。ですが、この時、この瞬間だけは人生で初めて本音を口にできたし、自分を表現できたと感じていました。

 いつも人の顔色を窺い、人と人の間を取り持ち、表面的ないい人が一番平和であると考えてきた、自分にとっての歪んだ自己表現でした。

 これが初めて私が人間関係リセットを行った日です。


 思えば、高校の卒業式、大学のサークルの送別会など節目があるたびに「ここにいる全員と関係を終わりにしたい」「ここで終われば楽なんだけどな」という衝動がありました。今回もその衝動に駆られました。特にいじめられていたとか、性格の合わない人が多かったというわけでもありませんでした。ただ、漠然と人と関わっていることに疲れた。それだけでした。


 ですが、大学院卒業の冒頭のタイミングまでは生来の八方美人で優柔不断な性格のおかげか

「今この場で送られるのは自分だけじゃない、周りを考えなきゃ、」

「どうせここにいる何人かとは今後も必ず関わらないといけないしな」

 と、心のどこかでブレーキをかけていました。


 そのためなのか、そうじゃなくてもなのか、今になってはわかりませんが関係をリセットできたと思った瞬間はまるで、夏休みの宿題を終わらせた小学生のようにはしゃいでいた自分がいました。

「やっと言えた!もう、顔色を窺う必要も予定を空ける必要も発言する内容を考える必要もないんだ!」

 安心と安堵と破壊衝動の混ざった気持ちの悪い達成感でした。


「じゃあ、もう帰れば?」

 冒頭の言葉を聞いた後輩にそう言われ、カラオケ室内にいた同期の制止も振り切って帰路につきました。


 ここまでが大まかな、私の人間関係リセットの経緯です。

 書いてみるとまあなんて自分本位なやつなんだ私はと、ひしひしと感じています。そしてそんなことを文章化してしまっていること自体もG行為野郎だなと羞恥心で爆発しそうになります。

 それでもこの出来事を文章化したのは、関係リセットを試してみた一人として伝えたいことがあったためです。

 それは急な関係の一方的なリセットはできないし、リセット行為が原因でどうしようもない後悔と面倒がつきまとう事です。

 人生における関わった全ての人との関係をリセットし、リセット後を気にしない方なら可能ではあると思います。ですが、私のように一部の人間関係のみの場合や、普段は表面的でもあらゆる人にいい顔をしていたいという人には難しいものであると感じました。


 もしこの文章を読んでいる方の中に、「同じような思いを持っていた」「人間関係リセットを考えている」方がいらっしゃったら、一度簡単なことで良いのでNOと言ってみることから始めてみてください、急なリセットは難しくとも段々とフェードアウトしていく人間をあまり他人は見ていません。本当に些細な事で構いません。続いていた会話を自分から忙しい、と切ってみる。たまには一人で帰り道を帰ってみるなど小さな積み重ねからです。


 リセット後の結論だけを言うと私は結局、リセット宣言をした方々に謝って回る事となりました。また、本心ではない上辺だけの言葉を取り繕う事となりました。


 と、このように過去の事をつらつらと書き並べてはいますが、現在の自分ならどうするのだろうと、ふと考えることがあります。同じように、リセットしてしまうのか。そこや今回の深堀も含めて次回から書けていければよいかなと思っています。

 機会があればまた書こうと思います。

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人間関係リセット症候群 小椋 @komuku723

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