第2話



【バビロニアチャンネル】のCEOであるドノバン・グリムハルツが保有するホテルの最上階。

 

 エレベーターが開いた。

 

 欠伸をしながらライル・ガードナーが歩いて来る。

 フロアの廊下にあるソファに【獅子宮警察レオ】の同僚アイザック・ネレスの姿があった。

「よう」

 アイザックから掛けられた声に頷いて応えてからライルはフッ、と笑った。

「なに笑ってんだよ」

「いや……あのアリア・グラーツって女ホントに面白いね」

 くっくっ、と笑っている。アイザックは半眼だ。

「ああ……スタジオ寄って来たのか。有頂天だっただろ」

「ウキウキしちゃってた」

 ライルが煙草に火をつける。

「今ウキウキしてんの多分【グレーター・アルテミス】であの女だけだぜ多分。俺はもう胃が痛くてしょうがねえ」

「まー、でも、もうここまで来ちゃったら腹括るしかないんじゃないの? 暗く考えてもどうにもならないし」

「……お前、落ち着いてんな」

 ライルが肩を竦めた。

「警官時代、大物芸能人の逮捕とかにも立ち会ったことあるし。メディアの扱いには慣れてる」

「そーかよ。お前くらいそーでなくっちゃ、困るよな。今回シザがあれなんだからよ」

 アイザックが顎で側の扉を示した。

 ホテル最上階にあるシザの自宅である。

「先生の様子は?」

「まぁ……昨日よりは落ち着いたけど。止めた方がいいと思うけどなぁ……今夜の放送は……。せめて生は止めてくれってアリアに頼んだんだけど、あいつ臨場感と必死さが伝わんねえとか言って譲ってくんねーんだもん」

「打つ手ナシ?」

「シザが話したがってるからな……。お前、今夜は来てくれよ。シザがもし暴れた時、俺だけじゃ止めらんねえからな。一発でかい重力波でもぶっ放してシザをとにかく潰してくれ。じゃないとホントに死人が出るかもしれん」

「元気になって、良かったじゃん。やっぱシザ大先生って怒ると元気になるよね?」

 ライルが肩を揺らして笑った。

「笑い事じゃねーよ、バカ」

「元同僚の話だと、やっぱ警官連中でも今回の事件驚いたみたいだな。連邦捜査局の意図が分かんねえって、みんな首捻ってるよ。

 だって今回のことが立証されて、裁判で有罪が決定しても、誰も得しねえし。現時点で捜査局だってやり過ぎだって叩かれてんだぜ。ユラ・エンデを有罪にしても、誉めたりしてもらえねえのにあいつらが何でこんなことしたのか分かんねえってさ」

 ライルはジャケットから折りたたんだ書類を取り出してテーブルに投げた。

「これは?」

 アイザックが手に取って、広げる。

「ユラを連行した連中が、捜査局のどういう連中か、気になったから調べさせた」

 そこにユラ・エンデをプルゼニで連行した時の写真が写っている。

 別の写真は、それを拡大したもの。一人の男が映っていた。

「オルトロス時代の同僚で、そいつの顔知ってる奴がいた。ノグラント連邦捜査局で、未解決の凶悪事件を担当するチームに属する捜査官なんだと。

 ヴァン・ホルトっていう男で、未解決捜査課じゃ副主任をしてる。こういうメディア向けの事件の容疑者連行する時に出て来るような奴じゃないらしい。

 それにアポクリファ特別措置法違反なら、通常の捜査課が動くはずなのに、顔ぶれが違うってさ」

「ということはなんだ……」

「やっぱ今回のことは、ユラ・エンデの逮捕が目的じゃなくて、先生をノグラント連邦共和国に呼び寄せることが目的じゃないかって言ってた。俺もまあそう思うんだけどな」

 アイザック・ネレスは髪をわしわしと掻いた。


「けどよォ、おかしいだろ⁉ そんなこと出来んなら、今までどんだけでもチャンスはあったし、もっと言うと、あんな公衆の面前で騙し討ちみたいに逮捕することねーじゃねーか! ホテルかなんかで穏便に済まして、そのあにシザに連絡でもして来れば、そういう卑怯なやり口にシザがぶち切れるのは避けられないにしても、弟逮捕されたくなかったらお前が出てこいって交渉は出来たわけだし、こんなに世界中で大問題になること無かったんだぜ。そうだろ? おかしくね⁉」

「おかしいけど、捜査って進展があったら即動くもんだから。あと捜査局の連中は容疑者の状況とか全く考えたりしねーし」

「そうなの? ヤな奴らだな~!」


 エレベーターの音がした。


「おっ……。グレアム!」

 アイザックが立ち上がって呼ぶ。

「グレアム・ラインハート。ユラのマネージャーだ」

 やって来た黒髪の男をアイザックがライルに紹介する。

「どうも」

 丁寧に頭を下げたグレアムに、ライルは手ぶりだけで返した。

「空港、よく降りれたな。囲まれなかったか?」

「ええ。なんとか。……シザさんが今夜、番組で会見なさると聞きましたが」

「ドノバンからOKが出て、アリア・グラーツがはしゃいで突然今朝決まったんだよ。ネットが今すげー騒ぎらしいぜ」

「飛行機の中でも聞きました。彼は……在宅していますか? ユラさんの逮捕時の状況を説明したい」

「俺が話すよ。あいつ今ピリピリしてるし」

 アイザックが言ったが、グレアムは首を振った。

「……いえ。私がその場にいたのに、連邦捜査局にユラさんを連行されたのは事実ですから」

「別にお前のせいじゃないぜ」

「……。とにかく自分の口で説明したいんです」

「そこの家にいるよ。手負いの獣って感じだけど」

 グレアムは頷くと、迷わず歩き出した。



◇   ◇   ◇



 棚の上に飾られた、たくさんの写真立て。

 

 シザにとって家族というものは空虚なものだったから、彼は家族写真というものが嫌いだった。でも【グレーター・アルテミス】で暮らすようになって、その考え方が変わったのだ。

 気に入った写真立てを街中で見つけると購入して、一つずつ、家族写真を増やすようになった。

 

 ――シザにとって『家族』という言葉は、たった一人を示す。


 写真立ての中で自分と一緒に映る少年の笑顔を、手に取って見下ろす。

 写真を見ればその時の状況や、彼とどんな話をしていたかも昨日のことのように思い出せる。

【グレーター・アルテミス】に来た頃は、まだユラは怯えたような表情を浮かべることの方が多かったし、普通の子供のように浮かべる無邪気な笑顔というのも、シザはあまり見たことが無い。

 ユラ・エンデの笑顔は、いつも落とすように静かで、包み込むように優しい。

 コツ……、一つずつ写真立てを手に取って、表情を確かめる。

 少しずつユラの表情から、影が取り除かれて行く。

 悪しき記憶が時の劣化を受けて遠いものになって行くように、ユラは幼く笑うようになった。

 そこには亡くなった両親の、生前の写真も一緒に飾ってある。

 親の同僚だった人が、何枚か送ってくれたのだ。

 シザの記憶には遠く、ユラの記憶には存在しない。

 それでも両親が結婚を決めた頃に撮ったという幸せそうに寄り添い、優しく笑うその写真を初めて見た時、ユラは涙を零して泣いていた。


 彼は自分の親が存在する世界観を知らない。


 あの閉ざされた家の中で、生まれて十年。

 ユラはごく狭い、薄暗い世界の中で生きて来た。

 実の親の愛情もなく、他人という彩りもなく。


 シザにはユラの世界を一つ一つ広げて行ってやらなければならない、兄としての義務があった。

 ピアノは、ユラが狭い世界の中でも広いインスピレーションに触れるたった一つの方法で、もし音楽が存在しなかったらユラは本当に、閉ざされた世界に閉じ籠もることしか出来ない子供になっていただろうと思う。


 両親が死ななかったらシザは幸せな幼少期を送れたはずだ。


 そして誤解があったにせよ、ユラを憎んだり一度もせず、科学の力などの手を借りずとも、いつか自然に両親から生まれて来た弟の存在を喜んだだろう。


 今となっては、恋情を覚えない日々など思い出せなかったが――きっとそうだったら、自分はユラに恋などせず、彼が学校で誰かに恋をした話を目を細めて聞きながら、お前は僕と違って奥手すぎるから、などと笑いながらからかったと思う。


 彼がいつか「結婚しようと思う」と言って誰かを連れて来たことを喜んで、いつか生まれたユラの子供を、自分の子供のように抱き上げて可愛がったはずだ。

 

(僕は恋がしたくて、ユラに恋をしたわけじゃない)


 そうしなければ、暗闇の中で自分が生きていけない……、そう思ったからだ。


 他人に言えない傷を抱えたユラに、

 他人と共有出来ない罪を背負った自分は、

 そうなった瞬間に、この世界に二人きりになったも同然だった。


 だからその一人を心から愛して、守りたいと願い、そうして来ただけ。

 シザはユラ以外の家族など、要らなかった。


 壁にもかかる写真を見上げながら、隣に掛かった、世界地図に視線が留まる。

 ユラがプロのピアニストになって世界中を仕事で回るようになったので、ごく最近そこに飾るようになった地図だ。

 今度はどこに行くのか、それを見ながら兄弟で話す。


 シザは絶海の孤島として描かれた【グレーター・アルテミス】にそっと手を伸ばす。

【ゾディアックユニオン】サンクチュアリと呼ばれる、四つの国が保有する海にたった一つ築かれた特別な島国。


 そしてそこから指を左に向かってしばらく滑らせて、『ノグラント連邦共和国』と書かれた場所に辿り着く。

 指先が微かにそこに触れた。


「シザ」


 呼ばれて振り返るとそこにアイザック・ネレスがいて、側にグレアム・ラインハートの姿があった。

 彼の顔を見た瞬間シザは顔色を変え、すぐに足早にこちらへやって来て、最後はほとんど駆けるような足取りでグレアムに掴みかかった。


「グレアム! 貴様‼」


 ガシャーン、と明らかに破壊音が聞こえて、廊下でPDAの立体電子画面ニュースを見ていたライルが振り返る。

 ため息をついて彼は立ち上がり、家の扉を開いた。

 そして入って行き廊下を曲がったところで、三人の男が床に転がってるのを見て、壁に寄り掛かる。

「……なーにやってんの。」

 なんとかシザの拳がグレアムの頬骨を砕くのを食い止めたアイザックが、肩でぜえぜえと息をしている。

「落ち着けっての。シザ、冷静になれよ。こいつに当たったって仕方ないだろう。グレアムだってやれるだけのことはやったはずだ」


「僕がユラのマネージャーなら! 公演直後のユラを連邦捜査局の連中に連れて行かれるようなミスは、絶対に犯しませんよ!」


 シザは怒鳴った。

 彼はこの数日、電話ではグレアムと冷静に話していたが、顔を見たら我慢が出来なくなったのだろう。


「例え何人殴り殺したって、

 彼を【グレーター・アルテミス】に必ず無事に戻した! 

 僕なら必ず‼」


「だからそういう危険な発言、お前絶対今日は止めろよ!

 いいか! シザ!」


 アイザックがシザの両肩を掴む。光の強化能力者のシザが本気で暴れたら、アイザックではとてもではないが止められない。力ではどうにもならない。必死にシザの顔を覗き込み、瞳の奥を見据えて話しかける。


「お前がそうやって、喚いたり、誰かに害を加えたり、自分が幸せになるためなら殺しだって容認するみたいな発言したって、今は、誰もお前を誉めたりしねえんだぞ!

 いつもならそれでいいが、お前がそんなんじゃノグラントで捕まってるユラの立場が、どんどんどんどん悪くなって行くんだ! 

 それを絶対忘れんな!」


 ユラの名前が出た瞬間、怒りに燃えていたシザの瞳の奥が初めて揺れた。

 アイザックは、勿論シザとユラに同情している。

 彼らは複雑な事情を抱えた兄弟なのだ。

 小さい頃から二人だけで、この世の理不尽と戦って来た。

 それを何故今になって、何様が、血の通ってない法で裁くつもりなのかと、本当はアイザック自身がノグラント連邦共和国に行って捜査局本部の建物を能力で全面氷結し、外に全員出れなくしてやりたいくらい、怒っているのだ。

 ユラを奪われた時点で、シザはすでに深手を負っている。

 怒りで何とか生きているが、本当は手負いの心なのだ。

 

 こんな厳しいことを、本当は今、こいつに言いたくない。


 だが仕方なかった。

 アイザックの予想した通り、お前の一挙一動でユラが危険な立場に追いやられると言ったことはシザに響いた。

 普段見せないような動揺が瞳の奥にあった。

 意地でもこんな顔を見せるような男ではないのに。

 それほど、ユラはシザの聖域なのだ。


 一瞬泣き出しそうにも見えたその瞳を反らし、シザは恐らく彼の処世術なのだろう、やはり怒ることで弱気になりかけた自分を誤魔化したのが分かった。

 シザは舌打ちをして、掴んでいたグレアムの胸倉を乱暴に放す。

 そして、自分の身体にしがみつくようにして止めていたアイザック・ネレスを、邪魔そうに思い切り突き飛ばした。

「どあっ!」

 アイザックが廊下の壁に背を打ち付けて、バランスを崩して床に転げる。


「……そんなでホント、今夜喋れんの?」


 ライルは腕組をして、呆れた。

「喋れますよ」

 シザは怒った表情で立ち上がり、短く返す。

「あっそ。でも心配しなくていいよ。ネットとか見ても、大概あんたに辛辣な意見が多い。

 近親相姦然り、過去の殺人、今回の応対が三日遅れたことも。ユラ・エンデファンが特にこれは激怒してる」

「余計なこと言うなって」

 アイザックが苦い顔をして、突き飛ばされて打ち当てた背中を摩りつつ、立ち上がった。

「ホントのことだろ」

「……構いませんよ。どんな風に罵られようと、僕は他人の反応などに何一つ期待したことは無いですから」

「けど、今日は喧嘩は売るな。司会にも観客にもだ。

 いつものお前は誰に理解されなくても、ユラが自分を理解してくれればいい、っていうスタンスなのは分かってる。

 けど今日は、理解してもらう為に話すことを忘れんな。

 話す内容、分かってるよな?」


「分かっています。

 まず、ユラには何の罪もないこと、

 養父を殺したのは正当防衛で仕方なかったと主張すること、

 出頭出来ない理由を話すこと。

 ユラを返してほしいと真摯に世論に訴えること」


「そうだ。それだけでいい。余計なことは言うな。

 帰って来たらどれだけでも暴れていいからこの会見だけは、死ぬ気で切り抜けろ。

 もしお前が上手く世論に同情を訴えられたら、必ずユラを逮捕した捜査局の立場の方が悪くなる。ユラの起訴を取り下げろって声も増えるはずだ」


「分かっています。安心してください。僕は養父を殺したのが正当防衛だという一点で攻めればその他の生き方に、他人に後ろ指を指されるようなことは何一つありませんよ。

 僕は【グレーター・アルテミス】でもあえてひけらかしはしませんでしたが、ユラが帰って来た時は、普通の恋人のように過ごすことを心掛けていた。

 コソコソ隠れて付き合えばユラが悪いことをしてるんだと思ってしまうからです。

 僕はそんな風には、絶対思ってほしくなかった」


 アイザックはもう一度シザの肩に手を置いた。


「分かってる。ユラもお前を信じてるはずだ。

 自分の状況が分からなくても、お前がきっと助け出してくれると思って待ってるはずだぞ。だからこのチャンスは必ずものにしろ」


 分かっています。

 シザは強い瞳で頷いた。

 一瞬見せた動揺は横顔に無く、デビューしたての頃アイザックがよく見た、孤高とプライドの高さで完璧に塗り固めたような表情だった。

 とりあえずこの顔を出来ているなら、シザは集中している状態だ。

 しかし、他を拒絶して陰に籠ることで強がっている表情でもあるから、精神状態としては全く良くないのだが。


「……ユラとは会えませんでしたか」


 顔を背けたまま、シザはグレアムに尋ねた。

「はい。……申し訳ありません」

「帰って来たところで悪いですけど。グレアム、貴方はノグラントにいてください。

 何かあった時にはユラの側にいてほしい。例え顔が見れなくても、側に行けなくても、出来る限りユラの側にいて下さい」

 グレアムは顔を上げる。

 彼は、契約解除されることも覚悟してここに来たのだ。


「……僕ほどではないにせよ、ユラは貴方を信用しています。

 今はユラの窮地です。彼を守れる人間を減らすわけには行きませんから」


「……。分かりました。これからすぐにノグラントに戻ります」



「ユラに……、」



 グレアムが振り返る。


「もし万が一会えたら、必ず僕が助けると伝えて下さい。

 一刻も早く……、一秒でも早く、ユラが僕の元に戻れるようにすると」


「必ず伝えます」

 グレアムは一礼し、そのまま部屋を出て行った。


「……彼はアポクリファなんですよ」


 グレアムが出て行くと、少ししてからシザが呟いた。

「えっ?」

「攻撃系能力者なんです」

「そうなの? 非アポクリファかと思ってた」

「訳あって隠して暮らしてるようです。僕が面接した時に、例え些細なことでも秘密を持っていたら許さないって脅したら、話してくれました。闇属性の能力者で、一定時間一定範囲の生物を眠りにつかせるという……珍しい能力者です。

 だから彼はその気になればあの時、ユラを奪取して逃げれた。でもそうしなかった。

 だから僕はそのことが許せなかったんです。自分の体面より、ユラを優先しなかったことを」

「グレアムは自分の体面を守ったんじゃねえよ。ユラの体面を守ったんだ。

 今のお前と全く一緒だ。その時あいつがアポクリファとして能力を使って誰かを傷つけてたら、もっとマズい騒ぎになってたかもしれないんだぜ」


「……分かっていますよ」


 だからチャンスを与えたんです。

 シザは答えた。

「まだ会見まで数時間ある。一度寝て来い。んで心でも落ち着かせろ」

「寝たら頭がぼんやりして会見でミスをしかねません。

 それに、今この瞬間もユラが留置所にいるかと思うと落ち着いて寝れもしませんから、寝ません。……ユラのピアノでも聞いて、部屋でゆっくりしておきます」

「まあ、なんだっていいけどな。俺らはこっちのリビングにいるから、なんかあったら呼べよ」


 シザが去って行く。

 アイザックは深く溜息をついた。

「はぁ~~~~っ くそ……やっぱあいつ能力なんか使わなくても馬鹿力だよな」

 掴まれた肘の辺りを押さえつつ、ソファに腰掛ける。

「……。」

「どした?」

「ん? ああ、いや。シザが出頭しない理由が気になって」

「……両親の事故のことか?」

「ダリオ・ゴールドが両親の事故死に関わってるって、別になんか確証があるわけじゃないんだろ?」

「まあ、あったらとっくに訴えてるはずだからな」

「言っちゃ悪いけど、さすがにちょっとそれはこじつけ入ってない?

 人間って見たいように物事見るもんだから。

 証拠が無いならそんなとこまで下手に喋り過ぎない方がいいよ」

「けど、そこ言わねーとなんでそこまでユラの幸せ願うのにお前は出頭しねえんだ! って部分誰も納得しないだろ」

「正直に言ったって、納得しねーやつは何言ったって納得しねーよ」

 ライルは煙草の煙を吐き出した。

「……シザだってんなことは分かってんだろ」

「ん?」

「何も根拠が無いなら、あいつだって口にしねーよ。けど、あいつには『ダリオ・ゴールドが関わってる気がする』っていう、根拠があんだよ」

「おっさん、それ根拠じゃねえよ」

 ライルが苦笑してる。

「うるせえな。分かってるよ。けどあいつの土壇場の勘ってのはホント野生動物並みなんだよ。あいつがそういう気がするなら、そうなんだろう」

「へー。さっすが元相棒。信じてんだねぇ」

「お前だってあいつと組んでればそのうち信じざるを得なくなるぞ。例え少しも信じたくなくてもだ」

 アイザックが苦い顔をしてそんなことを言った。

「先生にはなんかの確信があんのかね……」

「多分なー」


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