アポクリファ、その種の傾向と対策【アンドロメダはその名を歌う】
七海ポルカ
第1話
――【アポクリファ・リーグ】放送してたけど、やっぱシザいなかったな。
――そりゃそうだよ。それどころじゃねーし。
――シザいないとつまんない。
――アレクとの優勝争いも、今すごくいいところなのにさぁ。
――仕方ないよ。仕事どころじゃないもん
――これっていつまで続くのかな?
――なぁ……お前ら今回のこと、どう思う?
――どう思うって?
――つーか、ユラ・エンデとかいうあのピアニスト、不意にどっから出て来たんだよ……。
――シザに恋人いるって知ってた人、手ェあげて。俺はマジで知らなかった。
――俺も
――私は知ってました。でも相手のことは知らなかった。
――というかシザってそういう付き合ってんじゃねーのかみたいな女優とかアーティストとかしょっちゅう噂になってたから、本気にしてなかったわ
――遊び歩いてるイメージあったよな
――遊び歩いてるイメージって……君どっからそんなイメージ拾って来たの。
――私ストイックなイメージなんだけど。
――私もー。付き合ってる人いないと思ってたし。
――恋人いるのは知ってた。友達は、この子も知ってた。たまたま街中で会って写真に撮ってたから。
――女優とかと噂になってんのは、相手が一方的に熱上げてるだけだろ?
――シザと食事したとか、写真上げてる女とかいるもんな。どうせ仕事上の付き合いだろ
――いや仕事上の付き合いだろうがシザと食事出来たら私だって写真上げるわ
――レア種だもんな 芸能アカじゃあいつ ミルドレッドとかライルみたいな常連とはちょっと違う
――今思えば、シザのプライベートな情報って写真とか画像上げても一定時間過ぎるとバビロニアチャンネルが消しに来てただろ? でもああいう、ゴシップ系の写真っていつまでも残ってたな。
――ほんとだ……! 今気づいた。
――え、なに? どういうこと?
――いやだから、カモフラージュだったんじゃね? ユラ・エンデという本命から、世間の目を逸らすための
――そんな手の込んだことはしないだろ……。
――いや、バビロニアっつうかアリア・グラーツならそれくらい朝飯前でやるだろ
――つーか鬼軍曹、なんで今回に限って黙っちゃってんだよ。自分がスカウトした花形がスキャンダルに巻き込まれてるってのに、私は何も知らないの一点張り
――所詮アリアはバビロニアチャンネルとかゾディアックユニオンにサラリー貰ってる人
――私シザのファンだから本当に今辛い……。
――けど、結局自業自得だろ?
――そうそう。ぶっちゃけ最近芸能ニュースも普通のニュースもこの話ばっかりで飽きたんだけど
――うるせえ。飽きたならお前こんな所に顔出すな
――正論。ここはお前みたいな悪態つくところじゃない。単にシザ叩きしたいなら、そういうログに行けお前なんか
――でも、法を破ったのは事実なんだから
――三日間経ってもまだ全然事態が分からん。
――詳しい人だれか説明してー
――シザの実弟で、恋人のユラ・エンデっていうピアニストがいて、そいつがプルゼニ公国で公演中、連邦捜査局に逮捕された
――罪状はアポクリファ特別措置法違反。
――アポクリファ特別措置法って、恥ずかしながらあんまり詳しくない……。
――普通にアポクリファが生活する分にはな、あんまり気にしなくていいよ。
でも結婚とか、国籍取得とか、出国入国とか、アポクリファが生まれ育った場所から外に出たりするっていうような時に、普通の人間より色々な制約がつくって話。
――【グレーター・アルテミス】はApocryphaにしか居住権がないから、この街じゃApocrypha特別措置法のことを知らずにいても何ら問題ない
――Apocryphaしかいない世界には無関係の法律
――要するに能力者が非能力者と共存しやすいように、っていう趣旨で作られた法だな。
――不平等
――けど、非能力者から見たら、そりゃ能力者は脅威だろ。
――それは同感。隣の席の奴とちょっと喧嘩したら相手がいきなり炎で攻撃して来たとかなったら嫌だろう
――嫌だな
――本人も嫌だが親も嫌だろうな。安心して子供を学校へ行かせられん
――【グレーター・アルテミス】で暮らしてると、外の世界のこと全然分からないや。誰か、【グレーター・アルテミス】以外で住んでる人いない?
――私、以外に住んでます。うちの地域だと、アポクリファってすっごく珍しくて。アカデミーの同級生に一人いました。水属性能力者。触れたものを凍らせる能力で、うちの学校はその子だけだったから、逆に人気者でした。本人も穏やかな人だったし。
――アポクリファが一人とか信じられねえ環境
――そうか。そういう風に大事にしてもらったら、良かったな。
――いやでも、それもある意味差別よ? 特別大事にしてもらう、っていう、差別だと思う。
――いいじゃねえか大事にしてもらってんだから
――まぁ、言いたいことは分かる。特別扱いが辛い時もあるもんな
――僕も【グレーター・アルテミス】以外に居住してます。でも、近くにアポクリファ達が多く住んでるコミュニティがあって、だからアカデミーにもアポクリファは結構いました。
友達にもいます。彼から【グレーター・アルテミス】のことを聞いて、面白い街だなって思って興味を持った。それからずっと、【アポクリファ・リーグ】のファン。いつか他国からでも中継見れるようになってほしい。
――じゃあ見てんのDVDだけ?
――はい。それと、こういうところで、よく【アポクリファ・リーグ】をリアルタイム観戦して実況してくれてるから。文字だけでも、面白いよ。いつもありがとう。
――そう言ってもらえると嬉しいな
――何となく集まって仲間内で話していたことが、そんなに感謝されるとは
――でもそういう人、他国にはすごく多いと思いますよ。リーグのファン多いし
――シザ・ファルネジアってそっちの方で有名?
――すっごく有名です。雑誌とか写真集とかはこっちでも発売出来るから
――ああ、そうか。確かに映像じゃなかったら海外にも出しやすいね。
――俺のルシア様は【グレーター・アルテミス】だけのものにしていただきたい
――なんだと。ではこの世に暮らしていてアレクシス・サルナートを知らない奴がいるのか。信じられん。そんな奴はある日災害とか事故とかに遭遇した時に一体誰の名を思い浮かべて祈っているんだ
――確かにwww
――神じゃない?
――神なんかいるのかいないのか分からんものに祈ってどうする馬鹿め
――アレクシスは本当に天から飛来してくれるぞ 神よりアレクシスを讃えろ
――シザ以外の特別捜査官はそんなに知られてない感じです。余程【アポクリファ・リーグ】を知って情報を自分から探しに行かないと、他の捜査官とかはあんまり分からない……。
――いや、アレクシス・サルナートは知ってる。あの人は海外でも大きな災害とか事故があると、要請されて行ったりしてるから。
――ああ、そうか。アレクシスだけは他国にも行ってるもんな
――シザは有名ですよ。一流のスポーツ選手とか、有名芸能人と同じくらい顔が知られてて、女子にも人気がある
――他国だとモデルとか俳優だと思われてることも多い。スポーツ選手と間違われてることも多々ある
――なんのスポーツだよwww
――まぁ、凶悪事件捜査とか犯人逮捕を見世物にしちゃってること自体、他国から見れば訳が分からんのだろう
――ええええそんな領域なの?
――そうだよ。ちなみに、【アポクリファ・リーグ】のそういう事件捜査とか犯人との能力の銃撃戦みたいなのをエンターテイメントにしてることも、アポクリファ特別措置法内の、『アポクリファが他者を攻撃することに対しての特別加罪』って部分に触れる。あと『アポクリファが他者を攻撃する映像を流す』ことも禁じられてるからな。
――そうなの⁉
――そうだよ
――知らなかった!
――意外と知らねーヤツらいんだな。
――【アポクリファ・リーグ】全否定じゃないですか
――そうだよ。だから他国で放映出来ない。
――それってなんでなの?
――アポクリファ選民思想を煽るから。あと、馬鹿な非能力者がそんなもんに憧れても困るだろ
――【グレーター・アルテミス】ってホント特殊な街なんだな。今回のことでよく分かった。
――そうだぞ、お前ら。【グレーター・アルテミス】は国際連盟に対しての治外法権持ってるから感覚麻痺しがちだけど、一歩外に出ると国によっては許可なく能力使っただけで逮捕される国とかもホントあるからな。気を付けろよ
――攻撃系Apocryphaじゃなくても?
――うん。厳格な所だとアポクリファ能力全てを禁じてるトコもある
――それ犯すと、大体どのくらいの刑になんの。厳格な所だと
――それもホント、国による。厳しい所だと、アポクリファ特別措置法全て遵守させるところもある。
――すっごい有名なのはリーラン。リーランではアポクリファは居住者でも観光客でも必ずGPS装置を義務付けてる。そんでアポクリファ特別措置法全て適応で、『いかなる条文も違反者には最高刑を以て臨む』って書いてある。
リーランは死刑制度禁止してるから死刑にはならんけど、完全に無期懲役。
ちょっと能力使っちゃってとか言い訳も通用しないお国柄
――なんだって。ではその国では俺がいかがわしいお店に行くのも全て政府に筒抜けなのか
――なんて恐ろしい
――みんなリーランには行くな。この世の地獄だ
――【グレーター・アルテミス】はいい国
――でも結局普通に生活してれば措置法とか関係ない
――そうだ。俺は近親相姦とかマジで気持ち悪いからシザが嫌いになった。まぁ前からそんな好きじゃなかったけど
――それはお前の妹がブスだからだろ。ユラ・エンデ見て来たけどすげー可愛かった。さすがシザの妹だ。美形兄妹
――弟な。
――そうだった。素で間違えた すまん
――ややこしいんだよまったく
――そうなんだよ。このニュース問題点があり過ぎて論点が分からん
――先生! アポクリファ特別措置法では同性愛を禁じてますか!
――禁じてない
――ゲイはセーフ
――セーフではなかろう……
――うーん……基本的な質問だけどシザって結局ゲイなの?
――分からん。だが弟に手を出してたならそうなんじゃない
――バイという可能性もあるぞ
――可能性無限大
――いらねえそんなんwww
――兄弟で恋愛とかマジで気持ち悪い
――だからそれはお前の兄弟が不細工だからだろ
――確かに不細工だがそんなの関係ない
――みんな、ユラ・エンデファンは今激怒してるらしいぞ
――なんで?
――こっちじゃシザに恋人いるっていうのも、知ってるやつと知らない奴半々くらいだけど、ユラ・エンデファンはほぼ知らない奴らばっかりだったらしい。
そんでユラが逮捕されたのはシザのせいだってスゲー切れてる
――んなこと知らねえよ
――ユラさんは、取材とか、SNSとかの発言とか見てても、『家族』っていう単語しか使ってない。兄も恋人っていう単語も一度も使ったことないから、ファンは驚いたんだろう
――まぁ、しかも逮捕と同時にそれを知らされれば、ファンは辛いわな……。
――つーか、連邦捜査局が問題視してるのって近親相姦の部分?
――そうだと思う。そもそも、アポクリファ特別措置法はアメとムチの法律って言われてて、複雑な環境に生きるアポクリファに対して、色々な特例を与えましょうっていうアメがある一方で、能力者が非能力者に害を与えることを、ものすごく厳罰化してる
――その中で、国際連盟の連中が特に重視したムチが近親相姦を禁じること
――それってあれだろ? 血が濃いと能力も強くなるから……
――でもそれは科学的に何の根拠も無いって聞いた
――未だにアポクリファの能力が遺伝するかどうかも分かってないのにんなこと分かるか
――けど近親交配が遺伝的リスクを高めるのは確かだろ
――非能力者の法律でだって近親相姦は禁じてる。問題は、同じように禁を犯しても、非アポクリファは謝って罰金払ってお終いだけど、アポクリファは場所によっちゃ死刑になるかもしれないっていうこと。
――まあそれは確かに不平等
――でも最初から能力者と非能力者は平等では無かろう……
――優劣があるってこと?
――そりゃ能力持ってた方が喧嘩の時有利だろ
――能力が暴走して死ぬこともある。人を死なせることもある。アポクリファが能力を持ってるだけで有能だとか優性だとかは言えない
――分かんないのがさぁ、なんでそんなヤバいことしてんのにシザもそのユラとか言う奴も堂々とデートとかしてんの? 目立ちたいの? 馬鹿なの? こいつら
――恋は盲目と言うからな……。
――こっそりやれよ うぜーな
――なんでこっそりしなきゃなんねーんだよ タコ
――ホントだよ。普通に恋愛しただけだろ。てめーよくそんなこと言えんな。アポクリファのくせに。どういう育てられ方してんだ? 人の心とか分かんねーのか? 自分の身に起きたらとか少しは考えてみろよ
――残念ながら自分の身にはこんなアホなこと起きん
――だからシザ叩きたいだけの奴は他に行けっつってんだろ
――ここで一旦整理しようぜ。シザがゲイかどうかはただの個人的な趣向の問題だから、この際脇に置いておこう
――まて。脇に置くな。そこは重要だろう!
――俺のライルが気が気でない
――アイザック・ネレス先輩もな
――お前らなぁ……。ゲイだからって男全員に気があるわけじゃねーぞ。普通の人間にだって好みがあんだろうが。
ゲイにだって好みあるわ。誰にでも手を出すと思うな
――確かにwww
――じゃあとりあえずライルはケツの穴の心配しなくていいな
――お前はとりあえずライル・ガードナーログに去れ
――真面目な話していい?
――なんだとう! 俺たちは最初から大真面目だ!
――シザとユラってそもそも本当に兄弟? 全っ然似てないんだけど
――確かになあ。美形って共通点はあるけど、顔の系統は似てねーよな
――シザって弟に手を出すようなタイプじゃないと思う……。いや、ファンだからそう思いたいだけかもしれないけど……。
――そらそうだ。近親相姦するような奴には今まさに崖から落ちそうでも気持ち悪くて助けられたくない
――言い過ぎ
――お前は崖から落ちて死ね
――近親相姦はキモチワルイっていうのやめませんか? そんなの言っても仕方ないでしょう?
――気持ち悪いもんは気持ち悪い。受け付けねえ
――だからそういう奴は帰っていいって言ってんだろ? なに気持ち悪いもん自分から見に来てんだよ。おまえ馬鹿だろ
――でも一理ある。アポクリファは複雑な家庭環境生きてる奴が多い。特に覚醒型のアポクリファとかは、親が捨てたりするのも国際的に社会問題になってるくらいだし
――そうだよな。アポクリファは義兄弟とか養子とかスゲー多いよな。
――珍しくないです。私も養子。元々は、別の国にいてアポクリファっていうだけですごく差別されて。それで【グレーター・アルテミス】に来て、初めて自分が普通の人間になれた気がした。みんなアポクリファだからね
――血が繋がってないなら、好きになってしまう可能性はある。しかも相手がすごく可愛くて優しかったら一つ屋根の下っていうのは悩ましすぎる
――血ィ繋がってないんじゃねーの?
――繋がってないなら近親相姦じゃないぞ
――いや。アポクリファ特別措置法はそんな甘くない。戸籍上の近親者の交配を厳格に禁止してるから、血が繋がってるとか繋がってないとかは関係ないんだ
――そうなの?
――うん。調べたらそうだった
――でも遺伝的リスクを避けるのがこの法律の狙いなら、同性愛は関係なくね?
――まあ確かに同性愛は関係ない。遺伝の部分が近親相姦の禁止に繋がってて、同性愛をどう見るかとかはまた全然別の問題。禁止してる国とかは宗教観とか積み上げて来た歴史とか風土とかがどうかとかに繋がってるからややこしい 一緒には語ってはいけないプチパニックになる
――プチじゃすまん
――だからユラが女で妹か姉だったらもうちょっと話が分かりやすくまとまったんだな
――全然まとまらない
――特別措置法が問題視してるのは近親相姦の遺伝的リスクの有無の方だ。同性愛の部分はほっといていい 今回はそこ重要じゃない
――けどさ、なんでユラだけ逮捕されたの?
――俺もそれすごい謎に思った
――正直、芸能ニュースとかで、近親相姦疑われてる芸能人とかアーティストは他にもいるだろ
――いる。特にアポクリファはやっぱり多い。同じバンドとかで怪しい二人とかもよくいるし
――一般人以外ではApocrypha特別措置法、近親相姦を禁じる条文違反で逮捕されんの初めてなんだとさ
――なんでそこユラ・エンデだったのかが分からん……
――捜査局、余程やべー写真とか証拠とか持ってるんじゃねえ?
――やべー写真って?
――キスくらいじゃ兄弟の近親相姦なんか立証できねえだろ
――ヤってる最中くらいのなんか、情報掴んでそう
――なんだって。証拠として提出されるなら裁判見に行かないと
――興奮して来た
――こわ……!
――怖~~~! 今背筋ゾッとした
――シザ! 何してんだよおおおお~~~~~~~~!
――まだしてるか分からん
――シザとあの美形のピアニストがヤっちゃってんの? どんなAVだよ
――売れる!
――売るな
――本当にシザ気持ち悪い この相手の奴も
――お前の気持ちは今聞いておらん
――情報掴んでるって、じゃあ、元々マークされてたってこと?
――それは無いだろう。シザは【グレーター・アルテミス】一歩も出れないんだぞ。デートするにしたってヤるにしたって全部【グレーター・アルテミス】内のはずだ。そしてここには他国の捜査官は入って来れない
――つまり情報を掴んでいる奴がいたとしたら、【グレーター・アルテミス】内にいる
――なんだって
――そいつが捜査局に情報売りつけたのかもしれん
――何のためにそんなことすんだよ……。売れてるシザへの嫉妬か?
――それが本当ならユラ・エンデは本当にとばっちり。ファンが怒るのも無理ない
――とばっちりってことはないだろ。自分だってシザに抱かれてたんだから
――嫌なのに無理に抱かれてたのかもしれん。考えても見ろあんなグラディエーターのような強さを持つ兄貴に言い寄られたら拒否できるか? 断ったら絶対ぶちのめされる
――そもそもシザの家族関係がよく分からん
――いえ、それはないです。私二人が空港で会う所に遭遇したことあるけど、本当に仲がいい兄弟って感じがした。なんていうか……上手く言えないけど、確かに普通の兄弟よりも親しい感じ。
――連邦捜査局がなんでユラ狙いだったのかが気になる
――今まで疑惑ある奴らなんか山ほどいたのに、なんで今回だけ?
――いや、そもそもシザは前科があるから
――養父殺して【グレーター・アルテミス】に逃げ込んで、捜査局からの出頭要請も無視し続けてたから、いい加減捜査局がブチ切れたのかもしれん
――でもあれって虐待されてたからでしょ?
――虐待の被害者なら、それこそ捜査局から逃げ回る意味が分からん
――シザってバカなの?
――馬鹿じゃねえよ。ノグラント連邦共和国ダルムシュタット国立大中退だぞ。あそこの偏差値いくらだと思ってんだ。うちの一族の最高齢のじいちゃん並の偏差値だ。大学として月のゾディアックユニオンにも加盟してる数少ない地上の名門の一つ。月のラボともデータ交換とかしてんだから。しかもそんなとこに飛び級で入ってる。あいつ凄まじい秀才。確かにバーサーカーのような戦闘力持ってるが脳筋だと思うな
――最高齢のじいちゃんwww すごい分かりやすい例えありがとうございます
――確かに最高齢のじいちゃんの年齢と同じ偏差値の大学の奴なら敬わなければならんな
――しかし天才とバカは紙一重と言うからのう……
――在学中に養父殺して逃げたの?
――そう。そんで【グレーター・アルテミス】に逃げ込んだから、最初から確信犯
――シザが好きになれない理由ってそれ。人殺してるのにどういう気持ちで警察機構に属して捜査とか人命救助とか出来んの?
――虐待してた養父だから単純な人殺しとは言えん
――殺しは殺しだろ。罪を償って来いよ。自分は【グレーター・アルテミス】で王様気分で、ユラ・エンデだけが逮捕されたのは、絶対納得出来ん。シザ・ファルネジアは卑怯者だろ。自分はやることやって楽しいのかもしれんが、一撃でユラの人生を壊しやがった。
――同感。三日経ってもこの事件に一言も発してない。ユラ・エンデはノグラントに連れていかれて尋問されてんのに、知らんぷりはない。恋人云々以前に兄貴なんだろ? ちゃんと何か発言すべき
――おお、怒れるユラ・エンデファンがついに登場したぞ
――別にファンじゃない。シザが好きだったけど、何重にも裏切られた感じがしてるだけ。この人は、自分の愛する人とかは、もっと身を挺して守ってくれる人だと思ってた。それがいざとなったら逃げ回るだけで、ホントに格好悪い。
――私はユラさんのファンです。彼を酷い言葉で責めてる人に、彼のピアノをちゃんと聞いて欲しい。あんなに素晴らしい音楽家なのに、今回のことでもう二度と彼のピアノが聞けなくなるかもしれない。
シザが許せません。どうにかしてほしい
――素晴らしい音楽家が素晴らしい人間性とは限らんぞ
――そうだ。いい曲作っても私生活クソみたいな音楽家とかはいっぱいいる
――どうにかしてほしいって捜査局に言えよ。逮捕したのはあいつらなんだから
――でも【バビロニアチャンネル】の対応は、確かに今回遅いよな。そう思わない?
――確かに遅い。シザのスキャンダルな写真とか、三分で消しに来るバビロニアが、三日も動かないなんて異常事態
――反論できないってことは、やっぱり本当のことなんじゃないかな……。
――シザがゲイで近親相姦って?
――最悪
――幻滅
――なにユラ・エンデ擁護してんだよ。そもそもこいつらが法犯したのが悪いんだろ。法犯して捕まったら、罪を償うってただそれだけのことだろ。シザも早く出頭しろよ鬱陶しい。それでこの話終わりじゃねーか。簡単だろ
――ちょっと待て。お前の言ってる罪を償うの『償う』って一体どういうことを示してるんだ? 人の心の問題なんだぞ。じゃあ付き合いやめますってそんな簡単に行くかよ
――そうだよなあ。罰金払って一カ月牢に入っても、好きなもんは好きなままだろ。捜査局やってること、無意味だし完全なシザに対する嫌がらせだよな
――逮捕されたくなきゃ、付き合うなってこと? それっておかしくありません? 人権侵害だよね
――だからアポクリファ特別措置法は、アポクリファを人間扱いしてないって言ってんだろ。最初から
――なんでこんな法律が成立したんだ
――【グレーター・アルテミス】にいると分からんけど、国際社会の中じゃ、アポクリファはまだマイノリティなんだよ。だから反対した奴らはいたけど、結局法の制定は止められなかった
――あと、時期も悪かったんだろうな……。
――時期?
――アポクリファ特別措置法が制定された前年にデューク&メイス事件があったから、国際社会がアポクリファに対して、すごく警戒心を強めてしまっていたっていう背景もある。
――なにそれ?
――非アポクリファ121人殺した凶悪犯コンビ。最初二十人とか言われてたけど、逮捕後、供述取ってるうちに、こいつらが立ち寄った世界各地の森で次々に死体が発見されて、一説にはまだあるんじゃねえかとか言われてる……。
――もう死刑になった?
――なってない。こいつら姉弟ですげー強力な能力者で、【グレーター・アルテミス】のゲルトリア監獄に収監されることになった。
――うっそ。そうなの? 俺の家、晴れた日ゲルトリア監獄見える
――怖……っ そんな奴が収監されてるのか
――なんでそこまで捕まらなかったの?
――デュークの方が風属性で武器無しでも人間の体切り刻めるような能力者で、メイスの方が闇属性の変化能力者。要するに殺しがデューク担当で、メイスの方が姿を変えられたから、どうやらメイスの方が事件後に姿を変えて噓の証言とかして、警官たちを陽動してたからデュークがいつも逃げれたらしい
――息ぴったりですやん
――認定されてるアポクリファの歴史二百年の中でも三本指に入る凶悪犯。
――二人とも収監されてるんですか?
――みんな結構知らないんだなあ。収監されたのデュークだけで、メイスの方は数年後エトナ王国で遺体で発見されたよ。
――それとアポクリファ特別措置法制定がどう関わってるの?
――デューク&メイスで検索かけろ 話が入り組んでる
――この二人姉弟だけどどうやら出来てたらしい。メイスは死後解剖されたけど、出産の痕があった。こいつがもしデュークの子なら、とんでもない能力者になるんじゃねえかってそういう話にたまたまなっちゃったんだよ
――どこにいるんですかその子供
――生死不明。無事生まれたのかどうかも分かってない。謎なんだよ色々
――ホラー話になって来た
――こわ……
――おまえらなあ。同じ能力者のお前らでさえ今怖いって言っちゃっただろ。当然非アポクリファなんかもっと怖くなるだろ
――! ( ゚д゚)
――なるほど……。
――なんか面白そうな話。シザの話飽きたんでその二人の話もっと聞かせてください
――個人的にやって来い向こうで
――話戻すよー
――何の話してたっけ?
――【グレーター・アルテミス】は死刑制度ないから、デュークは無期懲役になって、今もそこに収監されてる
――国際連盟は、ああいうデューク&メイスみたいなアポクリファが増えたら困るとか言って、法律制定を強行した。世界の世論は、それを支持したんだよ
――そいつらが近親婚の子供だっつう証拠でもあんの? 無かったら別に全然話に繋がりねーぞ。
――さあ。
――無いなら完全に感情論だろ
――すまん。あのさ、シザの養父の話に戻っていい?
――いいよ。
――シザって一番最初に【アポクリファ・リーグ】に参戦決まった時に、自分を虐待した養父を殺して、連邦捜査局の手を逃れるために【グレーター・アルテミス】に来たって言った以来、そのことについてはあまり話したことないからな
――未だに殺したこと信じてない奴とかいるよ
――それは事実?
――事実です。ダリオ・ゴールド。ノグラント連邦メルトラの有名な資産家。シザの両親とは、アカデミー時代からの友人だったらしく家族ぐるみの付き合いだったらしい。シザが五歳くらいの時に両親が事故死したから、それで引き取ったとか
――そこだけ聞くと、美談だな
――でも虐待の話は事実らしい。シザの両親が所有していた研究所なんかも、彼がシザが成人するまでは代理として管理する権利をダリオ・ゴールドは持っていたらしいんだけど、シザが幼い頃入院とか怪我とかいっぱいしていたので、万が一の為に権利を委譲させたんだとか。自分が虐待してそういう風にさせてたのにだぞ。そこの従業員や、家政婦なんかが、そういうことを証言しているらしい。これもアポクリファ特別措置法の一つだけど、非能力者は本人の承諾がないとそういう遺産とか権利移譲出来ないが、アポクリファは十人以上の認定証人を用意すれば権利移譲可能。
シザの両親は【ゾディアックユニオン】加盟の大きな研究所を保有してた資産家だけど、そのやり方でシザはダリオ・ゴールドに両親の遺産を奪われた。
――ダリオ・ゴールドが死んだ今そのシザの両親の遺産はどういう状態なんですか?
――よく分からんけど、ややこしいことになってるんじゃないか? 例えばな、シザがダリオ・ゴールドのそういう虐待認定を進めれば、無理に遺産を奪われたっていうことで裁判が出来て、勝訴すれば多分亡くなった両親の遺産だから息子のシザのものになる。
でもシザが【グレーター・アルテミス】から出ていない限り殺害事件のことも虐待事件のことも、捜査進まないんだよ。
――なるほど その研究所自体はどうなってるんだろ
――メルトラ生命科学研究所は今もバリバリ稼働中。権利は空中に浮いてるけど、帰属が【ゾディアックユニオン】だからな。国が代理で運営してる感じ。サイト見たけどものすごく大きな研究所だった。シザの両親研究者だったんだよな。確かお父さんが物理学者で……お母さんなんだったかな。一緒じゃないけど学者だった。
――シザのお母さん確か生物学者ですよ。遺伝研究とかをしていた人らしい。初期の頃のインタビューでそう言ってた
――おお。シザが頭いいの完全に両親譲りだな そら最高齢のじいちゃんと同じくらいの偏差値の大学飛び級で入れるわけだわ
――シザの虐待気づいてた人達もいるわけだろ? そういう人たちがダリオ・ゴールドのこと誰一人警察に言わなかったの?
――当時は通報とか、無かったらしい……。彼らはダリオ・ゴールドをかなり恐れていたようだ。証言が出始めたのも、奴がシザに殺されてからだから
――そうか……。周囲が守ってくれないなら、自分で何とかするしかないよな……
――仮にそうだとしても、殺したのはどう考えても私怨だろ。シザの能力見たら、そんなおっさんその気になりゃ一捻りに出来るじゃねーか。自分で警察にでも何でも、連れてきゃいいだろ。人を殺したことを正当化するなよ
――小さい頃から虐待を重ねられて来たなら、刑務所に放り込んだところで、何年かしたら相手は出てくるからな。それが許せなかったのかもしれん
――弟も虐待受けてたんじゃない?
――え?
――同じ家に住んでて、シザだけ虐待されてて弟さんは虐待されないって信じられます? おかしくないですか?
――別におかしくはない。シザはビンタしてやりたいが、ユラたんはなんか抱き締めてやりたい
――おまえ空気読めwww
――まあ確かにおかしいよな。なんか、話に違和感感じないか?
――シザ像と情報が合わないです。あの人って逃げるくらいなら堂々と告発するタイプでしょ? 【グレーター・アルテミス】でデートを重ねてたのも、コソコソ隠れてやってない所が、私は逆に好感が持てる。彼らしい
――だがおかげで逮捕された
――少なくともシザの中では、ユラと付き合うということは、悪いことだとは思えなかったんだろう
――なんで思えないんだ……。馬鹿なのか?
――だから、実の兄弟じゃないんじゃない?
――その可能性はあるな。シザの方には血が繋がってないもんという主張があるのかもしれん
――だったらバビロニアチャンネルとかが、早くそう言えばいいじゃん。CEOつーかドノバン・グリムハルツはどこまで知ってたんだよ。知らなかったのか?
――ああ、今の養父な。考えてみればなんであいつシザ養子にしたんだ?
――ドノバンは二度離婚してて、家族ともすげえ仲悪い。親族同士でしょっちゅう遺産相続とかの裁判やりあってたから、多分身内を信用出来ないんだろ。子供はいるけど、ほぼ疎遠らしいし。元妻も完全に金目当てでドノバンと結婚したみたいな奴らばっかりだから、例え他人でも出来のいい話の分かる養子が欲しかったのかもしれん
――ドノバン・グリムハルツがその辺のシザの事情知らないとは思えない。あのラヴァトン財団の総帥だぞ。絶対抜かりなく知ってるはず
――じゃあ、やっぱり実の兄弟なのかな
――ねえ、いまユラ・エンデの情報見て来たんだけど、今十六歳なの? シザって二十三歳だよね。七歳違い? シザの両親四歳で事故で死んでるのになんでユラが生まれてんの
――……。
――――――……。
――ほんとだ!
――すげえ! おまえよく気付いたな! 名探偵か⁉
――ほんとだー。なんで? やっぱ血が繋がってないのか? 戸籍上の兄弟?
――あー……すまん盛り上がってる所……。なんか過去の関係者インタビューで見たことあるんだが、多分ユラ・エンデはシザの両親の凍結保存されてた精子と卵子を体外受精して代理出産で生まれてる。ユラとは言ってなかったけど、そういう弟がいるってのはかなり初期の頃チラッと聞いた。シザの両親って研究者だったから、なんかそういうもんが残ってたらしいよ。
――なんだ……そうなのか
――早く言ってくれ。すげーはしゃいでた自分が今とても恥ずかしい
――だが名探偵、お前の着眼点は鋭かった お前の勇姿は忘れない
――ありがとう。なんだ、そうだったんですね
――またややこしい事情が増えて来たな……。
――養父がそういう風にさせたらしい。この養父はダリオ・ゴールドのこと
―― 一人っきりになってしまったシザに兄弟を与えてやりたいとか、そんな理由だった気がする
――なんだ。優しいじゃん
――いや。幼い頃は一定時間優しくても、大人になるにつれて豹変したように虐待加えだすっていうのは、パターンとして珍しくない。ましてや他人の子供だしな
――じゃあ……ユラ・エンデは本当に、シザの為にこの世に生まれて来たんだな……。
――……。
――そしてシザの為に逮捕されてお空の星になった……
――まだ死んでねえよwww 勝手に殺すなwww
――なんかモヤモヤする。頭のいい奴、だれか、この事件で誰が一番悪いか言ってみてくれ
――シザ。お前がどれほどの人間か知らんが弟に手を出すな
――それは言っても仕方ない
――シザとユラだろ。てめえらのだらしのない恋愛で、普通に密かに暮らしてた同じ境遇の奴らが苦しむことになるかもしれない。全部こいつらのせい
――特にシザは犯罪者なんだから、なに恋愛とか暢気にしてんだよ
――はぁ? おまえ何言ってんの? 犯罪者は恋愛しちゃダメなわけ?
――罪も償わずに幸せになるのは間違ってんだろ
――だからその罪も、元々悪意ある人間が虐待してたからだろ。分かってねえ奴いるから話すけど、俺も小さい頃実の親に虐待された。施設に預けられて、養子にしてもらったけど、今の親はすごくいい人だ。それでも幼い頃に受けた酷い虐待とかは、一生忘れられん。自分が小さいと、逃げ出すことも出来ない。親が子供を虐待するってのは、人間扱いしてないのと同じ。
そんな環境で幸せになりたいって願うこと自体、すげー強い心と意志がないと出来ないことなんだよ。普通虐待受けてる人間は、心が折れて反抗する気持ちも失っちゃうものなんだから
――それは、言ってることは分かる。
――作り話にしては泣けた
――でも殺人はいかん
――虐待されてない人間が殺人はダメとか言っても、何の説得力もない。俺は今でも平和に暮らしてる毎日の一瞬に、自分を虐待してた親の顔とか言葉を鮮明に思い出す。正直、殺してやりたいって思うよ。だから、シザの気持ちはすげぇ分かる。恋愛が絡んで論点がよく分からなくなってるが、少なくとも俺は自分を小さい頃から虐待してた養父を殺して【グレーター・アルテミス】に来たシザの気持ちが分かるし、きっと人生をやり直したかったんだと思ってる。
――近親相姦も、結局そうだよな。当事者じゃないと分かんねーよ
――だよな
――近親相姦を経験した奴はおらんのか
――いねえwww
――いたとしても本気の奴はこんな所には書き込まん
――それは正論
――こんな訳の分からない容疑で逮捕したノグラント連邦捜査局が悪い
――私も捜査局に一票。もっと他にやることあるだろ
――連邦捜査局暇すぎる
――だよな。他人の恋愛とかほっとけよ
――しかもユラ・エンデ公演直後に逮捕だぞ。悪意あるわ~
――そうだよな。別に普通の殺人とか、窃盗とか、そういう容疑者じゃないんだから、やるにしてももっと穏便に済ませる方法はあったよな。まずは注意勧告してやるとか。逮捕時の映像見たか? 周囲の人間花束持ってんだよ。あれ公演見に来た客とかファンだ。いかに公演終了直後だったかが凄く分かる。
ユラにとってもファンにとっても酷すぎるタイミングだ
――この二人逮捕して誰が得すんねん
――ねえ、怖いこと言っていい?
――ヤダ
――いいよ。この際何でも思ったこと話してみよう。どうせこんなログ数時間後には消される
――わたしも、どう考えても今回の逮捕、おかしいと思うんですよね……。唐突っていうか、この二人って近親相姦以外、別にそんな素行は悪くないでしょう? 芸能人の中には近親相姦以外にも傷害事件とか、薬物違反とか、もっとしょっ引いた方が余罪が出てくる人たち山ほどいますよ。
ユラ・エンデは今年のシュヴェリーン国際ピアノコンクールで優勝して、間違いなく音楽界の新星として認知され始めてた。彼は入学してた音楽院の方針で、慈善公演とかもしてたり、今思うと自分の境遇があるから、そういうボランティア活動に興味あったのかもしれないけど……。要するにものすごく有望なピアニストで、社会貢献とかもしてたすんごいいい子だと思うよ。別にそれ以外の素行は問題ないのに、敢えて彼を逮捕に踏み切った意味が分からない。
これってもしかしてシザを【グレーター・アルテミス】から引きずり出すため?
――なんだって
――お前天才か
――作家か
――おいこのログ名探偵何人いるんや
――作り話にしてはよく出来てる
――いや。全く可能性が無いとは言い切れん。それくらい今回の逮捕はおかしい
――おかしくはないだろ……。考えてもみろ。シザなんか殺人を犯して【グレーター・アルテミス】に逃げ込んだ奴だぞ。弟のユラにもまず注意勧告して、また【グレーター・アルテミス】に逃げ込まれたら堪らんと思ったんじゃないのか。捜査局の気持ちは分かる。明らかに殺人が立証されてるのに、【グレーター・アルテミス】に逃げ込めば法の裁きを逃れられるってのは、現場の警官からすれば死ぬほど悔しいこと。これが罷り通ったら殺人者とか犯罪者いっぱい【グレーター・アルテミス】に逃げ込んで来る
――あー。一つ言っておくけど【グレーター・アルテミス】に逃げ込むにしてもアポクリファだけという制約は付くからな。
――それに殺人者とか犯罪者がいっぱい雪崩れ込んで来たとして、結局そいつらを狩るのは【アポクリファ・リーグ】の特別捜査官達だ。シザをお手本にして【グレーター・アルテミス】に逃げ込んでも無駄だぞ犯罪者達。お手本にしたシザに手酷いやり方で逮捕されるぞ
――シザ・ファルネジア独壇場だな 悪い前例になってるが、結局犯罪者をバンバン逮捕して減らしてる。一人食物連鎖の頂点に立ってると言って過言ではない
――一人食物連鎖www
――確かにww
――自らが悪しき前例になって、犯罪者達を【グレーター・アルテミス】に呼び寄せても、結局そいつらを自分の手で逮捕してる プラスマイナスゼロだからこれ問題全くないな!
――あるやろ
――問題あるわ
――尚更ユラの逮捕の理由が気になって来るじゃないか
――今までアポクリファ特別措置法で一般人以外の逮捕一度も無いことってのは、やっぱりそれが起きるなんらかの意味があると思うぞ
――じゃあ連邦捜査局はやっぱりシザから事情聴取をしたいのかな
――可能性はある。逆に言うとこの二人、近親相姦くらいしかノグラント連邦捜査局が逮捕出来る要素がなかったんじゃ……
――ナニそれ。すげームカつく。
――人の心なんだと思ってんだ
――それ言うならシザは人の命なんだと思ってんだよ
――大切に思ってるよ。だから【グレーター・アルテミス】では警察機構に属して犯人逮捕とか人命救助にも励んでるじゃないか。お前みたいにさあ、とにかくシザが嫌いで叩きたいやつはとりあえず出て行けよ。そういうの望んでるやつはそういう望んでる連中が集まってる最悪なログとか他にあるからさ。あんましつこいとお前管理サイトに通報するからな。今物語は佳境を迎えてるから邪魔だ 向こうでやれ
――よく言ってくれた!
――ほんとそう
――ユラ・エンデが滅茶苦茶可哀想になって来た……。
――なんで?
――だって、彼はファンが知らないくらい、シザの存在隠してたんでしょ。私がもしシザと恋人同士になれたら、絶対世界中にものすごく自慢しちゃうと思うから
――なるほど、確かに……。
――少なくともユラは外ではイチャついてないし、連邦捜査局に当てつけるような行動はしてなかった。十六歳で、たった一人の兄貴と離れて暮らしながら、音楽家として成功しつつあったんだから、本当にすごいこと。
【グレーター・アルテミス】に帰った時くらい、例え恋愛関係に無くたって、久しぶりに会ったたった一人の兄貴に思いっきり甘えたいと思うのは当然だ。
【グレーター・アルテミス】ならアポクリファしかいないから、そういう生き方が出来ると思ってこの国に来たのに、【グレーター・アルテミス】国民からも白い目で見られるってのは可哀想すぎる
――それを言うならシザだって公にはユラのこと公表してなかったぞ。恋人のことを取材で聞かれても、プライベートなことは答えないって一貫してた。だってユラのこと知らない奴らだっていっぱいいたじゃん。俺もそうだけど。
この二人が【グレーター・アルテミス】でイチャついてたって情報回してる奴は、こいつらが当てつけのようにイチャついてたんじゃなくて、恋人のプライベートな時間をお前らが勝手に写真とかに撮って、許可も無くネットに上げてただけだろ。シザがそういうのをあげてくれって頼んでたのかよ
――ホントだよな。イチャついてるように見せてたの、誰だよ。
――そうだよなあ。【アポクリファ・リーグ】しか見てない俺にとってはシザの恋人とかユラ・エンデとか本当に初耳。芸能アカウントとか見てる奴は知ってるのいたみたいだけど。それくらいシザだって【アポクリファ・リーグ】や【バビロニアチャンネル】では家族とか恋人とかプライベートのこと全く話したことない。
――何故ほっといてやらないんだ。離れて暮らしてる恋人が自分の街に戻った時くらい、仲良く街歩きたいだろ。なんでリークしたりすんだよ。
――シザってユラのこと、公で口にしてないの?
――してない。彼がデビューした時からずっとファンでありとあらゆる取材も番組も全部チェックしてる私が言うんだからそれは確か。
――情報は確かそうだが、言ってることちょっとキモwww
――言うなって
――そうだ。今は確かな情報が必要だ
――公でユラとの交際を語ってないなら、シザはやっぱり、なるべく普通の暮らしというか、恋愛がしたかったのかもしれないな
――連邦捜査局がどう考えても悪いと思うんだけどな~~~。なんでそんなとこ逮捕すんだよ、って意味も含めてさ。
――私も捜査局に一票。他に逮捕しなきゃ奴山ほどいるよね?
――暇な連中だなあ
――ほんとにな
――私も連邦捜査局が腹立つんだけど、でも尚更シザをなんでアリア・グラーツがこの期に及んで擁護してくれないのかが分かんない
――アリア・グラーツがこの世で信じるのは金と視聴率だけ
――実際、デビュー当時の養父の件を告白した衝撃と、あんなに美形じゃなかったら、ここまでシザ人気出たか分からんもんな
――いやでもシザもライルと同じようにアリア・グラーツ自らスカウトして来た特別捜査官だから、思い入れはあるだろうし、こいつ売れる! って確信余程無いとあいつは自ら引っ張ってきたりしないだろ
――シザの稼ぎならユラ一人くらい養えるのに、どうして二人仕事しながら離れて暮らしてたんだろう。別にピアニストでも【グレーター・アルテミス】で活動出来るよね
――そらユラがピアニストという仕事を本格的に取ったからだろ。
――マジで? 私なら働かずにシザに養われたい
――この豚野郎 養豚場で養ってやろうか
――シザファンのメス豚を養豚場に全員送ったら養豚場豚で溢れ返るわwww
――この豚がァ!
――落ち着け、話がずれて来た
――兄貴としても、弟の夢を応援してたんだろう。逆にユラ・エンデが何のとりえもないような人間だったら【グレーター・アルテミス】で二人仲良く暮らしてたのかもな……
――なんという悲劇
――シザ、今どうしてるんだろう。どんな気持ちでいるのかだけ知りたい
――心配してるだろうな……。
――けど何にも発信しないということはユラを見捨てたってことだろ
――何を言うことがあるんだよ。こんなくだらないことされて。いいよ。もう放っとけよ。そのうちユラだって釈放されるだろ。こんなのただの嫌がらせだ
――何言ってんだよ。アポクリファ特別措置法違反は、ノグラント連邦じゃ重罪になる。ノグラント連邦は、【ゾディアックユニオン】サンクチュアリ保有の四カ国の一つ。【グレーター・アルテミス】の地上における後ろ盾みたいなものだから、国際社会からもすごく厳しい目で見られてる。ノグラントはかなり厳格にこの法律を守らせてるんだよ。
――アポクリファ能力者が能力で非アポクリファに危害を与えた時は、ノグラント連邦では怪我の程度に関わりなく最悪の場合三十年以上の懲役刑
――マジで⁉
――裁判で悪意あると認定されたらな。
――ああ、そうか。びっくりした。ケガを加えたら駄目なのかと思った。それじゃもう普通に遊べもしないじゃねーかと
――確信的に能力で傷つけたという立証が出来れば、完全に相手を少なくとも三十年牢屋にぶち込める
――怖ぇ……
――近親相姦はどうなってますか?
――第二重罪に分類されるから、ノグラント連邦共和国では傷害罪と同じ十五年以上の懲役。だからシザと本当にヤってる音声とか動画とか証拠がもし出ちゃったら、逃げられん。間違いなくアウト。
――ユラだけが十五年収監されんの?
――マジか……
――知らなかった。その刑罰の内容聞いて、今回の事件の重さの現実味が分かって来たどうせ罰金とかで済むだろとか思い込んでた……。
――そうか。意外とアポクリファ特別措置法の内容と刑罰知らない奴ら多いんだな
――知りません。
――【グレーター・アルテミス】にいると、本当に分からない
――【グレーター・アルテミス】出たことない奴は、この先出る時、本当に出先の国がアポクリファに対してどういうスタンス取るのか、調べた方がいいぞ
――調べやすいサイトとかなんかありますか?
――基本的にはその国の領事館のHPとか見れば、必ず載ってるよ
――ここのサイト、調べてみな。国際連盟加盟の、メジャーどころの、アポクリファへの応対一覧にまとめてくれてる
――ありがとうございます。
――だから、あんまりアポクリファに厳しい国には、自然とアポクリファが行かなくなる
――当然だよな。
――みんな平等に共存する為とかいって、世界の国々の応対がアポクリファに対して平等じゃないのに、そんな暢気に共存なんて出来るはずない
――お前ら、世界的に見てアポクリファというものが迫害を受けてるってこと、もっと自覚しろ
――俺、闇属性の能力で数十秒だけ身体を発光させられるってすげーくだらない能力持ってんだけど、それでも駄目なの?
――レア種www
――お前が数十秒発光するのを側で見てた非アポクリファのばーちゃんが驚いて心臓発作起こして死んだりしたら、お前も殺人罪に問われる可能性が……アポクリファ特別措置法の特徴として『未必の故意』に対しての配慮がすごく少ないってことがある。
アポクリファなんかだと、能力によっては子供でも人殺せたりするだろ?
だからすげーその辺り厳格だぞ。殺すつもりなかったとか、あんま聞いてくれない
――ギャース! ばあちゃん俺が発光したくらいで死なないで!
――駄目です~。心臓止まっちゃったからアウトー! 逮捕でーす!
――厳しいって!ww 非アポクリファだって隣の人に驚かされることくらいあるでしょ⁉
――だから、それでも普通は逮捕されたりしないだろ。アポクリファだとそれで逮捕される可能性があるってことだよ。不平等な法律なんだって。
――今の話でよく分かりました! 間違いなくアポクリファ特別措置法は不平等です!
――生きるのってなんて難しいんだ
――俺は【グレーター・アルテミス】に骨を埋める覚悟を決めた
――【グレーター・アルテミス】は天国
――ユラちゃんどうなっちゃうんだ……。今、十六歳だぞ。十五年年ぶち込まれてたら出て来た時もう三十歳になってしまう。
――レ・ミゼラブル
――心配するな。シザだってその頃はとっくにおっさんだ
――心配ー!
――花は何故こうも早く散ってしまうんだ……
――連邦捜査局ムカつく 何様だ 人の人生を
――法律守らなかった奴が悪い
――だから好きになっちまったもんは仕方ねーだろ!
――シザが出頭すればいいんだよ。そんで、虐待のこと、喋ればいいじゃん。上手くやれば被害者で行けるだろ
――無駄。ダリオ・ゴールドは非アポクリファだから、例え虐待が立証されても、殺人は容認されない。シザの場合殺害認定自体は簡単だし、これも普通の裁判なら虐待への正当防衛とか認められれば無罪の可能性はあるけど、シザは「殺害しにいった」と自白しちゃってる。もしこれもアポクリファ特別措置法で起訴されたらガッチリ三十年食らう。
――恩赦とかないわけ?
――ない。お前ら、特別措置法を舐めるなよ。
――抑止力の意味合いが強いんだよ。だから、法律では厳罰に示されてても、マジで捜査局が殺人とか、傷害罪とか、そういう重罪以外でアポクリファ特別措置法を適応することなんか、今までになかった。
――それって、冗談みたいな容疑でユラ・エンデは逮捕されたってこと?
――そうとも言う
――だからあの時シザはあんなに驚いてたのか……。
――この先どうなるんだ?
――捜査局が逮捕を取り下げない限り、裁判が始まる。そんで、罪が確定すれば懲役刑が確定
――拘留期間限度までは粘るだろうが……とにかくシザの応対がどうなるか……。
――捜査局は起訴取り下げるかな?
――分からん……捜査局の意図がまず今回分からないから
――間違いなくダリオ・ゴールドの件で、シザから事情聴取取りたいんだろ。だから弟を逮捕して、シザを【グレーター・アルテミス】から引きずり出してノグラント連邦共和国に帰国させようとしてる。帰国した所を逮捕する気だ
――やっぱりシザが問題なんじゃねーか
――ユラは完全巻き込まれただけ
――事件当時ってユラ・エンデはどこに居たの?
――そうだ。兄弟なら家にいた可能性あるぞ
――いや。ユラは事件発生当時【グレーター・アルテミス】行きの飛行機に乗ってたって証明されてるんだってよ。だから少なくとも殺人実行には関わってないことは確か。
――それどこからの情報だ?
――俺の妹がユラと同じ音楽院行ってて、ノグラント連邦捜査局が当時、事情聴取に来たらしいよ。兄貴は【グレーター・アルテミス】にいて聴取取れねえからって。そうしたら学院長がそれを証明して、健全な学生の教育環境を壊すから二度と来るんじゃねえって捜査官を蹴り返したらしい
――なんだ、その学院長 すげえ男前
――あ、ごめん。学院長女の人
――なんだって。もっと男前だ 惚れた
――そうか。でもその状況、今回のと少し似てるな
――確かに。シザに事情聴けねえから弟を狙ったって遣り口が似てる
――ねえ、それってシザが事件を起こす前に、ユラを【グレーター・アルテミス】に出国させたってことですか?
――当時ユラ君十歳くらいだから、恐らくそうだろうな。一人でそんなこと考えて行動できたとは思えん。金も用意できないだろうし。それに、その後二人で【グレーター・アルテミス】で同居して仲良くしてるということを考えると、やっぱり事件当時の全てを主導したのはシザなんだろう……。
――シザは、最初からユラを事件には関わらせたくなかったんだな
――なんだよそれ……。泣けてきた
――どこがだよ。完全に計画的殺人じゃねーか。怖ぇよ。俺絶対シザには助けられたくない
――だから心配しなくてもお前みたいな根性悪は誰も助けねえって。一人で死んで行けよ
――シザが先にユラを出国させたから、少なくともダリオ・ゴールドの件ではユラは何の罪もないことが証明されるんだからな。だから彼は、外の世界で活動出来てる
――シザ、そんなに頭がいいなら何故もっと最後まで慎重でいなかった
――恋心ばかりはどうにもならん……。
――なんてこった。目から汗が出てくる
――もーっ! この二人どうなっちゃうの⁉
――俺のユラたんが今連邦捜査局でどんな風におじさん達に苛められてるのかと思うと夜も眠れない
――気持ちワル
――ユラ可愛いよな。そこらの女より美少女だ。すげー白いし細いし。逮捕された時の不安げな表情堪らん。こんな子が弟なら俺だって確かに法とか関係なく、セックスしまくりたい
――気持ちワルッ
――なんだこいつら
――エロ談義したいなら他所行け 今真面目な話してるだろ
――ユラたん、留置所で獰猛な犯罪者にエロいこといっぱいされてないかなぁぁ
――こいつら無視しような
――よしユラ・エンデで抜きたいやつ、別のログで盛り上がろうぜ
――いいね! 俺もそっち行く。その方が楽しそう!
――この世にはクソが多いな
――相手するな。馬鹿が感染るぞ
――バビロニアチャンネル遅いぞ……対応が遅すぎる……何してんだ
――迷ってるんだろう。なにぶん前例がない
――そこなんだよな……シザが「自分たちは悪くないですよ」っていつもみたいに平然と答えればいいだけの話だと思うんだが……。そうしないことを見ると何かあるのかなって思っちゃうんだ。
――シザファンだから、ホントこの状況辛い……
――俺はダニエル・ウィローのファンだから安心だ
――コラ
――空気読め
――他の特別捜査官って何にも発言してない?
――レポーターとかは彼らに質問してるけど、発言してないな。
――喋ってねえと死んでしまうアイザック・ネレスが喋らねえというのは余程深刻な状況
――ライルは?
――ライルはいつも通り
――さすがに元警官は場数が違う
――そうだ。ライル元警官じゃないか。なんかそのツテで、連邦捜査局の動きとか探れねえのかな?
――どうだろう
――俺、今ノグラント連邦共和国に住んでます。首都ダルムシュタットです。ユラ・エンデが護送された連邦捜査局もある所。大学で、法律を学んでて、俺はアポクリファじゃないけど、友達に何人もアポクリファがいるよ。でも、そういう人たちは不安がってます。
あまり、ロクな情報は手に入れられないと思うけど、ちょっと明日調べてみる。
――おお! ノグラント市民がいるぞ。心強い
――ユラ・エンデ見た?
――見れませんでした。ちなみに、連邦捜査局の前、連日すごい取材陣です。
――騒ぎにはなってるのか
――今回のこと大学でもすごく問題になってて、アポクリファの人権保護団体が捜査局の前で今度の日曜、デモを行うって情報が回ってる。学生にも広く呼び掛けてる感じです
――風潮はどうなの?
――今回の逮捕行き過ぎだっていう声が断然大きいです。特にユラ・エンデの逮捕の仕方は、連邦捜査局側がかなり叩かれてる
――そうなのか。衝撃的だったもんな
――みなさん、音楽業界でも、ぽつぽつSNSで音楽家が発言してます。ほとんどが不当逮捕って言ってる
――ユラの事務所は?
――事務所は事実を調査中で、コメントできないの一点張り
――【グレーター・アルテミス】の応対を待ってるんだろう
――結局シザがなにか発言しないと、収まらないんじゃない?
――バビロニアチャンネルに務めてる友人がいるけど、連日抗議の電話受けてて、本当通常業務も出来ない状態って嘆いてた
――じゃあ、バビロニアチャンネルもシザと連絡取れてないの?
――そうみたい……何も決まってないって言ってた
――ええええ……もう三日経っちゃいましたよ⁉
――シザ、今どこにいるんだ
――ま、まさかショックのあまりどっかで自殺してないだろうな……
――オイ……怖いこと言うなって
――死んだって何の解決にもならんだろう
――バカ。自分のせいで愛する人の人生が滅茶苦茶になったら、平気で過ごせてる方がおかしいだろ
――シザあああああああ! 無事かーっ⁉
――ホント辛い……誰か助けて下さい……
――殺人事件に巻き込まないようにしてまで必死に守った相手が、自分を好きになった罪で裁かれんのは辛すぎだろ
――だからこっそりやれと俺は言ったのだ!
――おまえ誰だよwww
――連邦捜査局殺す
――火を付けろ 【アポクリファ・リーグ】の火炎部隊を呼べ
――シザとユラってセックスしてたのかなぁ
――そらしてただろ。キスしてるくらいだったら逮捕なんかされん
――そうだよなあ。キス写真持ってるくらいじゃ裁判に持ち込めねえよ。この二人のキス写真で逮捕に踏み切ったとしたら連邦捜査局アホ過ぎだ
――そんなもん証拠にもならん 小学生じゃねえんだから
――とするとやはり相当な証拠を持ってるってこと⁉
――最中系⁉
――裁判で証拠として提出されるなら絶対傍聴しに行く
――相当激しいセックスしてたとみた
――生々しいからやめろ
――しょうがないじゃん近親相姦の話なんだから 勝手に美談にするなよ
――そうだよ。シザやユラに非が無いと決まったわけじゃない。連邦捜査局だぞ? それが何の勝算も無く、あんな逮捕すると思うか?
きっとすげー証拠押さえてんだよ……。
――こわあああああああ! だからシザも下手に反論できないんじゃない? 綺麗なこと言っても、後々すげぇヤバい映像とか出てきたら絶体絶命
――もうシザ、ノグラント連邦共和国にいるとかないよね?
――それはないだろう……。【グレーター・アルテミス】の空港厳戒態勢になってたし
――正直いっそのことノグラント連邦共和国に行って欲しい
――それでこそシザ・ファルネジアだよな
――逃げ回るところとか見たくない
――【グレーター・アルテミス】に裏切者がいたら、捜査局が何らかの確かな情報握ってる可能性は十分にある。
――【グレーター・アルテミス】に同胞を売るような奴はいねえ!
――いや、いるだろ。いっぱいいるだろ。どいつもこいつもネットに人の不幸な情報上げて笑ってるような奴らばっかりだろ
――街中でデートしてる写真とかくらいじゃ駄目だぞ。あの二人は兄弟なんだから、二人で歩くぐらいするよって言われたら反論出来ん
――じゃあやっぱりヤってる最中の音声とか画像?
――やべー 興奮する
――黙ってろ
――気持ち悪い
――ユラ・エンデあんな清楚な顔してどんな破廉恥なプレイをしてしまったんだ
――撮りやがったの誰だ。 探し出せ
――ラブホかな?
――自宅じゃね? さすがにシザ顔割れてんのにラブホは使わねえだろ
――そうでした
――使ってたらシザアホすぎるぞ
――もしかしたら秀才も一週回ってアホなのかもしれん……
――自宅ならあのバビロニアチャンネル本社の横にあるラヴァトン財団のホテルだろ。そこに出入りした人間が情報売りやがったんじゃねえかな。
――やめろっ あそこの最上階でシザとユラがセックスしてんのかと思ったらいつも立ち止まって見上げてしまうだろう!
――俺は望遠鏡を買うことにした
――清掃員とかは、室内に立ち入るから疑わしい
――隠しカメラとか置いて、後々回収したのかも。
――うわ~っあり得る~!
――よし! あのホテルに出入りしてる清掃業者を洗え!
――仮に見つけてどうすんだよ……
――殴る
――めっちゃ切れる
――そんなことより二人のセックスの詳細を聞きたい どんなことになってんだ
――うるせえ童貞 他人のセックスなんかに興味持つな
――こんな可愛い弟と好きな時にやれるなら彼女とかいらんなwww
――ユラたんどんな声で鳴いちゃうのかなぁ~オジサン興味津々だ~
――定期的に湧くこいつらなんなんだよ 気持ち悪いなあ。
――ユラたんは乱暴な養父にも悪戯されてたと見たwww
――俺も悪戯してぇぇぇ~っ
――最悪。人の不幸で遊ぶなよ
―― おい、どうした一気に頭の悪い連中が湧いたぞ
――俺のユラを犯してた時点でシザは死刑にしていい
――誰がお前のものだwww
――みんなのユラ・エンデだぞ
――よし、みんなで傷心のユラちゃんを慰めに行こう。俺達はシザと違って全然ノグラントまで行けるしな
――乱暴はダメだぞ。優しく犯しまくれ
――ユラたんこうなったらAVデビューすればいい。デビュー前からこんなにオジサンたちが食いついてる
――昼は清楚なピアニストが夜はおじさんたちにセックス強要されてるとか大興奮
――そのAVどこのレーベルで出てますか 予約します!
――僕にはお兄ちゃんがぁ~♡って言って欲しい
――死ね
――きっと気の強い兄貴の威勢を断れず、犯されてしまったんだろう
――人の不幸で遊ぶとか、ホント最低。こいつらみんな死ねばいいのに
――気持ち悪い男ども。死ねよ。
――どういう神経してたらこんな時にふざけられるんだろうね?
――シザむかつく 自分は安全な場所にいて、ユラさんは逮捕されて、何にも言い返せなくて、ネットでもこんな酷い侮辱受けてるのに、よく何にもせずにいられる。大っ嫌いになった こんな男最低
――なんでこんなことになっちゃったの?
――だから最初からこいつはシーズンMVPの品格とか無いって俺様が言ってただろ
――アレクシスよりコイツの方がスゴイとか言ってた奴ら、今どういう顔してんだろうなwww
――アレクシス様は清く正しく美しくだ。卑怯なシザ・ファルネジアなんかと比べるな
――文字通り天と地の差
――近親相姦してた時点でシザのポイント一万点引いていい
――五万ポイント引け。一万では生温すぎてアイザック先輩が追いつけない
――ホントだwww アイザック・ネレス一万ポイント引いても全然シザにランキング追いつけねーじゃねえかwww
――アイザック・ネレスさん、貴方毎回【アポクリファ・リーグ】にエントリーなさってますよね?
――五万ポイントマイナスします!
――ユラ・エンデには皆、同情的だけど、シザにはきつく当たる奴多いな。
――逮捕後何にも喋ってないのがいけないんだろうねえ
――このまま復帰なんか出来ない雰囲気だぞ
――ユラ君はこの状況どう思ってるのかな……。
――わたしなら別れる。自分が大変な時に庇ってもくれな彼氏なんかいらない
――右に同じく
――シザ冷たすぎ。これはもうクールとかじゃない。冷酷な男。
――ユラちゃんまだ十六歳だぞ。連邦捜査局に突然逮捕されるなんて俺ならチビるわ
――可哀想……
――ユラたんっ オジサンが慰めてあげるよっ
――逮捕された時の不安そうな顔マジで可愛いよなー。あの子が今捜査局のおじさん達に虐められて泣いちゃってるのかと思うと興奮するわ
――短時間でここまでオジサンたちを狂わすとは……ユラ・エンデは魔性
――末恐ろしい
――いや勝手にお前らが狂ってるだけだ。人のせいにするな
――可哀想だなぁ本当に……逮捕されなきゃこんな変態どものオカズにされることもなかったのに
――でもホント可愛いなぁ 本当についてんのかな? そこらの女子より可愛いんだけど。これは一度きちんと身体検査をいなければならない
――身体の隅々まで触らせてくれ
――シザとは似てないんですけどね。系統違うけど美形というか、シザ端正だけどユラ君は確かに可愛い系かな……
――ユラたんが疲れちゃうから、一人一回でお願いしますよっ
――この仕切ってる奴誰だよwww
――ユラの声聞きてえ~ んで脳内再生して犯してぇ~
――顔がこんだけ可愛いんだきっと声も可愛い 期待していいよ!
――インタビューとかないのかな? 俺探して来る!
――シザ、なんで何にも言ってくれない
――でも、そこまでしてシザがユラのこと大切に守って来たなら、このままユラを見捨てるはずがないと思う……。
――そう思う?
――思います。【アポクリファ・リーグ】とかでもシザの言動とか見てれば。強い人だし、勇敢な人だから
――所詮そんなのテレビが作り上げた偶像。実際にはシザは実の弟とセックスしてんだし
――言っておくがそこまだ決まってねえからな
――でもほぼ決定だろ。逮捕されたんだから。ここまで来て捜査局の先走りってことはあるまい
――そんなことになったら世紀の大冤罪になるぞ
――でも冤罪であってほしい……。
――それが素直なファンの意見だろうけど、覚悟はしておいた方がいいぞ。
それこそシザの性格を考えたら、冤罪だったらこんな時間を置かずに何か行動を起こしてるはずだ。それが出来ないってことは……
――おい! 今【バビロニアチャンネル】の公式サイトに情報載ったって!
今夜今回の事件についてシザが話すってよ!
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