第24話 R.P.巡察日誌〈その3:世間話〉
……しっ。
声が 大きいであります。
自分は リアン・ペイジ。
現在 極秘任務で レギャン侯領の侯都ハイリシアへ潜入調査中なのであります。
とは言え調査期間も ほぼ終わり明日には王都へと撤収予定なのでありますが。
今回の自分達
調査初期の段階で 武器や防具の発注が増えているだとか 糧食の備蓄に大幅な変化があっただとかいうような 軍事蜂起を疑わせるような兆候は見受けられないことが判明したのであります。
機動性に優れた
で ありますので 潜入調査の中心は侯爵家内の不和や不祥事の方向へと移ったのであります。
封土持ち貴族の不和・不祥事と言えば 跡継ぎ問題が定番であります。
実際 我がヘブンブリーズ国内での貴族の跡継ぎ問題と言うのは後を絶たないのであります。
ゴシップレベルでは 毎年のように話題が上がると言っても過言では無いのでありますし 自分が生まれる前ではありますが 王家においても 現女王アレクサンドラ3世陛下と
もちろん様々な要因があるのではありますが 最大の要因は〈嫡子〉に関する規定が曖昧なことなのであります。
伝統的な考え方によりますと〈嫡子〉と言うのは〈直系の男子〉を指すとされるのであります。
対して 近年多いのは〈嫡子〉と言うのは男女問わず〈婚内子の年長者〉を指すという考え方。
そこの部分の規定が曖昧な上に 大規模な貴族ともなりますと家臣団の軋轢や 親族 姻族の思惑等が複雑に絡み合って 所謂〈お家騒動〉に発展する場合もある訳であります。
で あるのではありますが レギャン侯爵家に関しては 今のところ そう言った問題も無さそうなのであります。
レギャン侯爵家は 名だたる名門貴族でありますので〈男子直系〉を標榜しているのでありますが その男子が1人もおらぬのであります。
現レギャン侯爵のジンク侯殿下には お子様が4人いるのでありますが 全員女性なのであります。
少し問題になる部分があるとすれば 4名とも正式な結婚による出生では無いという点。
ジンク侯殿下は お若い頃から派手な女性関係で有名だったそうでありまして 自分の母様なども若い頃は 豪奢な金髪の貴公子に憧れたものだったそうであります…… 父様には内緒にするように固く口止めされたのでありますが。
王宮での舞踏会などで数々の浮き名を流し 結果 四姉妹の母親は全員違うのだそうであります。
ただ後継者としては 最年長のお嬢様をずっと手元に残されていて あとの3名は他家に嫁がせておいでなのであります。
そしてそのご長女のセレン姫殿下の結婚相手が
このガウェイン卿がハイリシア城下では 凄まじい人気なのであります。
ガウェイン卿は現在33歳。
リギャン侯領出身で10代の頃には王都武術大会で三連覇を達成された槍の名手。
ハイリシアの人々に言わせれば
ガウェイン卿が出場していれば 連覇はおろか優勝すら叶わなかっただろうとの見方がハイリシアでは一般的なようであります。
自分は名誉ある
今日も 黒髪に短槍を携えられたガウェイン卿の騎士絵が何枚も飾られた 宿屋の1階でガウェイン卿推しの女将さんから ガウェイン
まぁ 部屋で分隊長と2人きりになると めちゃめちゃ緊張するので できるだけ1階に降りるようにしていたのは 自分なのでありますが……。
「リオンくん 本当に 毎日 話聞いてくれて オバサン嬉しかったわ~。明日で帰っちゃうなんて残念よ」
「いえいえ 毎日 楽しいお話聞かせてもらって ボクも楽しかったです」
〈リオン〉というのは自分の潜入調査用の偽名なのであります。
武器商人の小僧〈リオン〉と名乗り男装して 調査に従事しているのであります。
「それにしても リオンちゃんも大変よねぇ 女の子なのに男の格好で商人の修行だなんて……」
「……え? あのじぶ 違っ ボっ ボク男ですけど?」
「いやよ もう。どっから見ても女の子じゃないの。あのヒムさんがお兄さんっていうのも違うんでしょ?」
〈ヒム〉というのは潜入任務でバディを組んでいるフォージ分隊長の偽名なのであります。
「へっ? いっ いや あのっ ひっ ヒムは自分の兄なのですますよ?」
「やだ~っ だって 全然似て無いじゃないの。髪の色も目も顔立ちも身長も全く違うじゃない こんなに似て無い兄妹探す方が難しいわ~。お兄さんだっていうのに リオンちゃんに凄く気を使ってるのも分かるし ホントはリオンちゃんの方が 良いところのお嬢様なんでしょ?」
なっ なんという慧眼なのでありましょうか。
自分 本当は爵位も持っている貴族階級のお嬢様なのであります。
ですが 今回の変装は
「いっ いや そっ そんなこと無いでますです」
「うんうん。事情が色々あるのね。うちは下町の宿だから 色んな事情の人とか種族の人が来るのよ。ほら『闇エルフとヴァンパイアを戸口から招く人はいない』なんて言うじゃないの」
そんな諺があるのであります。
『自ら危険を招くような馬鹿なことをするな』という意味なのでありますが闇エルフの方への差別的な表現なので 近年のヘブンブリーズでは あまり使わ無いのであります……特に若い世代は。
ただ 年配の方が口にされるのは聞いたことがあるのでありますし なんなら自分の母方の祖母も よく使っていたのであります。
「ここに嫁いできた時は そんな怖い人の相手なんてできるかしらって思ってたもんだけど でも実際 闇エルフのお客さんと話してみたら 気さくで喋りやすい人も多くて……」
「ボクも 闇エルフの方で尊敬してる方います。凄く話やすいですし」
「よね~。見た目で判断しちゃダメよね。他にもね 時々 来てくれる旅芸人一座に
「
村に略奪に現れる
「そーなのよー。びっくりするでしょ? そんなにお上手じゃ無いんだけど ちゃーんとお喋りできて 牙の生えた怖い顔なんだけど 笑うとけっこう可愛かったりして……。舞台に出てる時は大声で吠えて暴れて 凶暴な感じなんだけど それ全部演技なの! 普段はね いつも首に緑のスカーフ巻いて ちょっとオシャレしたり お茶目だったりね。聞いたら
「時々 この宿に?」
「そーなのよー。今年は まだ 来てないけど だいたい1年に1回くらい 2週間くらいかな? どーしてるのかしらねぇ?」
女将さんは 戸口の方を見やり その旅芸人の一座が 今 そこに居るかのような表情を 一瞬浮かべられたのであります。
「……凄く綺麗なハーフエルフの踊り子さんもいてねぇ。侯爵様のお城でも公演するんだとか言ってたと思ったら 次の年に来た時は可愛らしい赤ちゃん連れてて。その子が また凄く綺麗な金髪なもんだからさ 侯爵様のお手つきがあったんじゃないかなんて 噂してたんだけど……」
女将さんは もう一度 戸口の方を見られ ポツリと呟かれたのであります。
「もう 来てる時期のハズなんだけどな……。今年は 遅いわねぇ 何かあったのかしら……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます