第25話 秘薬
「……これ 何の薬なん?」
薄暗い〈
「こないだのコウト百合 精製して作った薬の
「あー。
「そーそー その薬」
カウンターに両手で頬杖をついて ジト目で
「なんか 失敗でもしたん? 妙な表情してるやん」
「……まさか。アタシの調合よ? 計量は1/10000の狂いも無いし 星辰は もちろん 十曜の合 三つの月の衝まで 完璧に決まってんでしょ」
頬杖の姿勢のまま
そして 暗紅色の瞳と視線が合うと ボソッと 一言。
「ねぇ
「……嫌やし。マリノアが銀貨100枚って
「ヤバいってゆーか…さ。効果がロクでもないから……」
両頬杖の姿勢を崩さず もう一度 マリノアは視線を薬瓶に向ける。
「一応 納品依頼の薬だし 効果があるか 確かめときたいでしょ? でも 自分じゃ飲む気にはなれないシロモノなのよ……」
「もったいぶらへんと どんな効果か教えてぇな?」
「女が飲むと 男になる薬ってワケ」
性転換する薬など 世間では ともかく〈
わざわざ 凄腕の薬師が何週間も掛かり切りになるような薬品とも思えないのだが?
疑問を感じたまま マリノアの説明の続きを聞く。
「そんで 男が飲むと 毛むくじゃらで筋骨隆々の
「……うっわ それは…理性とか失くす感じ?」
「記憶や精神面には ほとんど 影響出ないと思うわよ。肉体面の変化だけ。まぁ 知らずに飲んだら 状況把握できずに錯乱しそうだけどね」
頬杖のまま 小さく首を横に振る
「効果時間も 1刻~2刻ってとこ。長くても半日ってとこのハズよ」
マリノアの返答を聞き 言葉を詰まらせる
「……それは… また……サンディー好みの薬やな~。何に使うか 想像できるような さらにぶっ飛んだこと 考えてそうな……まぁ 何にせよロクでもない感じやな」
「まー
「『バカはやっても ヘマはやんない』……か。巧いこと
「でしょ? こないだ 夜中に調合してて ふと思い付いたの。あんな性格のクセに 街の人達からの人気は抜群だもん。けっこうエグい税金の取り方してんのに お金の撒き方 上手だから……」
20年前の劇的な即位以来 国民の絶大な支持を集める
大桟橋の建設や 街道の整備の為と称する商業税と抱き合わせになった 派手で庶民が潤う
或いは 橋や病院等に 〈出資者の名前を冠する名誉〉の
近く迫る即位20周年記念式典への期待も 徐々に高まりつつある 今日この頃。
「宮廷内の人心掌握も 地位やら 名誉やら 金やら 色恋に 嫉妬心……。巧いこと使い分けて エゲツナイ求心力やもんな~」
「人の〈欲望〉ってものの
「で 出来たのはええけどってワケかいな……。ほんで この薬の試し飲み 誰がやるん?」
「ジーナに 特別報酬払うって言ったら 飲まないかしら あの娘?」
「……いや。それは あんまり可哀想やろ……」
「そーよねー。やっぱ アンタも そう思う?」
2度 縦に首を振り 同意を表す
マリノアは 頬杖を止めて 立ち上がりながら 首を竦める。
「こーゆー薬 喜んで飲む知り合いって 思い付く範囲で 1人しかいないのよね」
「ウチも 1人しか 心当たり無いわ……」
目を見合わせる 薬師と闇エルフ。
「サンディーだけやんな」
「……よね」
そう同意しながら 〈
………。
……。
…。
王都ウェスティリアの北西を占める王城。
その3階部分 豪奢な調度が
その横に影のように付き従い
「……何人たりとも 入室させるなとの お言い付けですので
「了解した。親衛三騎士の護衛に関する権限で 扉は私が開けよう。フォミナ 報告感謝する」
廊下の奥
─── コンッ コンッ コンッ ───
「陛下ッ アリシアです。起きてらっしゃいますでしょうか?」
部屋の中から 何事かの返事。
それを受けて 長身の女騎士は 扉を少しだけ開け 身体を室内に滑り込ませたのだった……。
………。
……。
…。
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